羊文学が今、多方面で注目を集める背景 「これがバズるぞ!」ランクインや『めざましテレビ』出演を受けて考察

羊文学が多方面で注目を集める背景

 たとえばひどく気分が落ちる日が続き、たとえば揺れ動く世界に不安を覚える夜が続く。そんな生活に静かに、そして確かに寄り添ってくれる音楽を奏でてきた羊文学がここ数年でより広く深く浸透しつつあるのは必然だろう。コロナ禍に突入して2年。従来通りのライブ活動が難しくなっているロックバンドたちの中でも、一貫して静謐さと安らぎを感じさせる楽曲を作り続けてきた羊文学は家のスピーカーやイヤホンで聴かれることでも確実にその音楽を日常に息づかせてきた。

 その証拠に、『バズリズム02』(日本テレビ系)の年始恒例企画「これがバズるぞ!ランキング」では8位を記録。また株式会社アイ・エヌ・ジーの調査による「2022年春!高校生最新トレンドランキング」(※1)ではYouTuberやグルメに混ざって6位に唯一音楽アーティストとしてランクインするなど、多方面で注目を集めている。メンバーの塩塚モエカ(Vo/Gt)は俳優やモデルとしてもメディアに進出するなど、他カルチャーとの交差も活発だ。今、羊文学は確固たるポピュラリティを獲得しつつある時期にある。

 ソリッドなバンドサウンドと物憂げなメロディ、塩塚モエカの神秘的な歌声は活動初期から早耳のリスナーの間で支持されていた。悲しい記憶や忘れがたい場面を描く歌詞や、3人がステージに並んだ時のルックを含めて芸術作品としても受容されていたように思う。しかし2019年から徐々にその音楽性に開放感が漂い出す。シリアスな楽曲と並行し、カジュアルな感情を軽快に歌う楽曲も増え始めたのだ。「ロマンス」などのキャッチーな楽曲が若い世代に刺さり、クリスマスソングである「1999」が、季節がめぐる度にプレイリストやTikTokをはじめとするSNSで広まりながら、徐々に支持層が広がっていった。分かりやすい華やかさとは異なるが、だからこそリスナーの日常を詩的かつ映像的に彩り、広く受容されたのではないだろうか。

羊文学 "ロマンス" (Official Music Video)
羊文学 "1999" (Official Music Video)

 3月1日には『めざましテレビ』(フジテレビ系)にインタビュー出演。現在の注目のされ方に対し驚きつつも喜びを示し、また多ジャンルでの活躍については「主流ではない音楽ではあるかなと思うところもあるので、色んな入り口をきっかけに色んな人に届けられたら」と塩塚が語っていた。現在の羊文学のブレイクは瞬発力で成し遂げたものではなく、音楽を広めるための真摯な表現探求と地に足のついた活動の結果なのだ。

 昨年リリースされた「マヨイガ」(アニメ映画「岬のマヨイガ」主題歌)はこれまで培ったアンサンブルの先で1つ大きなステージに上がった。ギター、ベース、ドラムのみでありながら劇的な展開と圧倒的な包容力を誇るサウンドスケープはスケール感を増した印象だが、ただ大会場に適応した曲というわけではない。広大な世界で迷い生きる全ての人々に向けられた祈りを含む歌詞が乗ることで、あくまでリスナー一人ひとりに寄り添う楽曲として輝きを放っている。

羊文学「マヨイガ」Official Music Video

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