Dios、3人の調和が生む不思議で濃密な音楽世界 1stフルアルバム『CASTLE』完成について聞く

Dios、3人の調和が生む音楽世界

聴いてくれた人の中に10年後、20年後も残ってくれたら

――今お話に出てきた「愛」という言葉は、今作の歌詞の中でも随所に出てきますよね。これはなぜなのか、たなかさんご自身で思い至ることはありますか?

たなか:世界への対処法として、「結局、愛しかねえな」と思った、そこに尽きると思います。「城」って、なぜ城があるかというと、それを奪いにくる敵がいるからじゃないですか。敵がいなければベッドと屋根だけあればいいんだけど、そこに侵攻してくる敵がいるから、石で壁を作り、守ってきたわけで。元々、敵というものが存在して、自分に変えられる領域なんて少ししかなくて、それは唯一、城の中だった。じゃあ、敵だらけの世界にどうやって向き合っていくのかと考えたら、「もう、愛するしかないのかな」と思ったんですよね。「ある」ことをただ受け入れること、というか。「ある」ことを「見る」ということが、僕にとっての愛の定義に近いのかもしれない。「諦める」っていうのは「明らかに見る」ことなんだっていう話もあるじゃないですか。諦観と愛は結びついていると思うんです。

――それこそ、Diosとしての1stシングルは「逃避行」でしたけど、「逃げること」や「諦めること」というのは、Diosが表現するものの根底に色濃く流れていると思うんです。それはたなかさんとしては、見ること、受け入れること、ひいては、愛することに繋がっているということなんですかね。

たなか:うん、結びついていると思います。

Dios - 逃避行 (Dios - "Runaway" Official Music Video)

――あと、歌詞については、「光」という言葉も度々出てくると思うんです。たなかさんは、ぼくりり時代にも「曙光」という曲を書かれていますし、「光」というものは、モチーフとして描きたい対象なのかなと思って。

たなか:そうですね、「光」好きです。自分の根幹のイメージとしては、光って、原初的には、やっぱり太陽に至るというか。太陽の干渉不可能さ、絶対的な装置としての太陽の明るさを書こうとしている部分はあるのかもしれないです。僕が「光」を書くとき、それは電気のように自分でオン/オフできるものではなくて、太陽のように干渉不可能で、でも、温かくて、照らしてくれるもの、あるいは、照らして「しまう」もの……言ってしまえば、神のようなものかもしれないです。曲によっては、そこに忸怩たる思いを抱えている主人公がいたりするし、そうじゃない場合もあるし。どこかで、残酷さは伴っているとも思います。

――今のお話は、先ほどのIchikaさんの「偶然性に惹かれる」という話にもどこかで繋がるような気もします。

Ichika:そうかもしれないですね。僕がギターで自然現象や雄大な自然を描写したいと思うのも、近いものはあるのかもしれないです。届かないものを模倣したくなる感覚というか。

――Diosの音楽を聴いていて思うのは、Ichikaさんのギターとたなかさんのフロウは流れ方が似ていますよね。繋ぎ目がない感じというか。

たなか:たしかに、近いかもしれない。なんでなんだろう……隙間を入れないよね。

Ichika:うん、音数詰めたがりがち。海外の友達と話していると、「バターみたい」って言われることもある。ササマリもそういう感じあるよね?

たなか:ササマリは「音の壁」というか。最近はちょっと違うかもしれないけど、とにかく音に対しての偏愛がすごくある気がする。ひとつの音を究極的に愛し続けているような……ちょっと怖いんだよ(笑)。前に波形素材を見ながら「あと20デシベル上げるとこうなるんだよ!」みたいなことを熱弁していたときがあったけど、「なにが違うの?」っていう感じだった(笑)。でも、それはすごく大事なことで、その工程が必要かどうかよりも、「突き詰める」ということにすごく意味があるんだなと思ったね。

ササノ:僕は、この3人の中で音楽を作ってきた期間が一番長いんですけど、ポップなものを作りたいわけではないんですよ。僕の音楽はアレンジ含めて「ポップだ」と形容されることが多いんですけど、本当は、ひとつの音をいじったり加工して突き詰めていくのが大好きな人間で。「音楽に正解はない」という大前提の上で、自分の理想があるんですよね。なので、突き詰めて僕が思う理想の音楽を作ると、全部一緒になっちゃう。

たなか:そうなんだ! 答えが1個あるんだ?

ササノ:そうそう。だから音楽を作るとき、出発点は違っても、完成形に近づくたびに結局は全部同じ場所に収束してしまいそうになるから、どこかで止めなきゃいけない。そのために、自分が納得できる形で、人が理解できて楽しめるものにしようとするんですよね。「誰にも理解されなくてもいいから、自分が理想とするものを作りたい」っていう思いと、「人に聴こえてわかる部分で、楽しんでもらえるものにしたい」っていう気持ちがあって、そういう部分にずっと向き合ってきたから、Diosの中で、自分は案外まとめ役になるんですよ。みんなの理想をいい塩梅にまとめるための発言を僕がすることが多い。

たなか:ササマリの理想の音、気になるけどね。聴いても理解できないんだろうなって思うけど。

ササノ:ポップスとしてのセオリーみたいなものって不明確だけど、あるじゃない。そこからは逸脱しているなと自分としては思う。僕が「これはいい音楽だ」と思う音楽って、どうしたって日の目を浴びづらかったりするし。そういう音楽は、みんな、命とか気持ちとか、あらゆるものを削って作っていると思う。

――Ichikaさんは、ササノさんのように理想の音楽がある感覚って、わかりますか?

Ichika:僕も終点があるにはあるんですけど。荒唐無稽なことを言うと、それは「音楽で魔法を生み出したい」っていうことなんですよね。科学とかでは説明できない領域の音楽を作って、楽器ひとつで演奏したいという気持ちがある。でも、それをやろうとすると少なく見積もっても500年くらいかかるんですよ。今はそこに向かうための修行をしながら、自分にできるベストを出していこうっていう感じですね。

――なるほど。目的意識的なことで言うと、たなかさんのなかで、今回の『CASTLE』というアルバムが、今の時代や社会の状況に向けられている部分はあると思いますか?

たなか:いや、そういうことはあまり考えていないですね。これは“日本の若者あるある”かもしれないですけど、大きな「社会」というものに対して一石を投じるようなことをしたい、みたいなことは考えられなくて。それよりは、聴いてくれた人の中に10年後、20年後も残ってくれたらいい。10年後、20年後に僕の言葉や、僕らの作る音が十分な強度を持っていたら、聴いてくれる人に何かあったときに、その人の中で僕らの音楽が蘇ってくるかもしれない。そこに賭けている感じだと思います。

――今作を聴いていて、何かしら見えない存在や、そこにはいない存在――歌詞のなかでときに「君」として描かれるような、そんな存在によって生きていけることがあるんだとすごく感じたんです。音楽もそういうものになり得るのかもしれないし、たなかさんが求めている聴き手との関係も、そういうものなのかなと思いました。

たなか:それはありますね。個人的な記憶とか、もっと物理的なことでも、好きなアーティストのアルバムだったり。どんなに困っても、「寝る前にこれを聴けたらいいか」と思えるような音楽って、僕にもあって。自分の中の防波堤というか、精神的な支えみたいなものはありますね。

――Ichikaさんとササノさんはどうですか?

Ichika:僕はメンタル馬鹿強なんで、そういうものは必要ないです。

――(笑)。

たなか:この間、3人で「老後が心配だよね」っていう話をしていたんですけど、Ichikaだけは「まったく心配じゃない」って言っていて(笑)。すごいんですよ、Ichikaは。

Ichika:500年生きるつもりだから、老後なんてない。今すべてを失っても、なんとかなると思っているし。そういう意味では、もうすでに防波堤を失ってる状態(笑)。

――なるほど(笑)。最後に、ササノさんはどうですか?

ササノ:強いて言うなれば、防波堤は今までのすべての経験ですね。人と出会って、人と音楽を作って、人に音楽を作ってきた。そうやって音楽で人と深く関わってきたということが、自分の防波堤かもしれないです。自分が生きて、形に残るものがそこにあることは、生きていて心強いです。

■リリース情報
『CASTLE』
発売:2022年6月29日(水)
artwork : Yousuke Yamaguchi
designed by Shintaro Kira

購入サイト
初回限定盤:https://Dios.lnk.to/CASTLE_CD-ltd
通常盤:https://Dios.lnk.to/CASTLE_CD-nor

【収録楽曲】
M1. ダークルーム
M2. Virtual Castle
M3. 天国
M4. 試作機
M5. 残像
M6. Bloom
M7. 断面
M8. 鬼よ
M9. Misery
M10. 逃避行
M11. 紙飛行機
M12. 劇場

■ライブ情報
『Dios 1st Tour 「CASTLE」』
7月20日(水)大阪・梅田 CLUB QUATTRO
7月21日(木)愛知・名古屋 CLUE QUATTRO
7月23日(土)北海道・札幌ペニーレーン24
8月6日(土)福岡・DRUM Be-1
8月12日(金)豊洲PIT 

オフィシャルサイト
https://dios-web.com/

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる