角松敏生が繰り広げる新たなステージエンターテインメント 謎に包まれた2作のEP『MILAD #1』『MILAD #2』に迫る

角松敏生、2作のEPの謎に迫る

 角松敏生が新たな展開を始めた。4月13日に『MILAD #1』を配信リリースしたかと思ったら、立て続けに『MILAD #2』が5月18日にこれまた配信で発表された。いずれもマキシシングル、もしくはミニアルバムと言えばいいのだろうか。今風に言えばEPという形式である。こういったリリースのスタイルは、彼にとっては非常に珍しい手法と言える。しかも、収録楽曲がどういう意図をもって作られ選ばれたのかが明確ではなく、少し謎めいているのだ。年内にはアルバムを予定しており、その予告編的な意味合いがあるということだけは現時点でわかっている。また、5月14日から始まったツアー『TOSHIKI KADOMATSU Performance 2022 “THE DANCE OF LIFE”』を楽しんでもらうために出来上がった楽曲を先に発表したという本人からのコメントもあるが(※1)、いずれにしてもアルバムが発表されるまでは全貌はわからないし、この2作のEPで憶測するしかない。

 『MILAD #1』には、5曲収録されている。少し意外だったのがインストの「THE DANCE Of LIFE (Type-1 Cut Out Edit Short Ver)」でスタートすることだ。これは角松のオリジナルではなく、ナラダ・マイケル・ウォルデンが1979年に発表したアルバム『The Dance of Life』のタイトルチューンのカバー。このアルバムはジャズ、クロスオーバー、R&Bなど多方面で活躍したドラマーであるナラダの初期の傑作だ。オリジナルではイタリアのプログレ系ギタリスト、コラード・ルスティーチがエッジーなギターを弾いているが、角松のバージョンは比較的ハードな印象が強いオリジナルとは違って、メロウでスムーズな80’sテイストに仕上がっている。角松のメロウネスを堪能できる一曲とも言えるだろう。

 こういったカバーでスタートすることで、つい想起してしまうのが、2020年5月に発表した前作のアルバム『EARPLAY 〜REBIRTH 2〜』だ。同作品では自身のセルフカバーに混じって、Airplayの「Cryin' All Night」やEarth, Wind & Fireのカバーで知られる「Can't Hide Love」などの洋楽カバーを収録。「THE DANCE Of LIFE」がこの流れに位置するのか、それともさらに前のインストアルバム『SHE IS A LADY 2017』の延長線上なのか、それともまったく違う意味を持つのかはわからないが、いずれにせよ角松のルーツを示した一曲であることは間違いない。また、サブタイトルに“Type-1 Cut Out Edit Short Ver”と名付けられている。この曲に限らず、『MILAD #1』と『MILAD #2』の収録曲にはこういった表記があるため、別バージョンがあることを示唆している。これもまた、謎めいている理由だろう。

 冒頭の「THE DANCE Of LIFE」のタイトルに呼応するかのように、2曲目には「DANCE IS MY LIFE」が収められている。こちらは“EDM Ver Type-A”という副題がある通り、強烈なダンスビートのイントロからスタートする。EDMとはエレクトロニック・ダンス・ミュージックのことで、2000年代後半からいわゆる大バコやフェスなどで主流となったジャンルの一種だ。こういった近年のクラブミュージックとの相関関係はこれまた謎ではあるが、80年代から常に最先端のダンスビートを意識していた彼ならではのアティテュードと言ってもいい。ただ、ダンスミュージック的な要素があるとは言え、しっかりと歌を聴かせるボーカルナンバーである。

 続く「THE TIME IS NOW (Ver.1 Type-A)」も、ダンサブルでアッパーなボーカルナンバーだ。ゴスペル、あるいはミュージカル風と言えるコーラスは、もしかしたら作品タイトルの“MILAD”の謎解きを解明するひとつのヒントになるかもしれない。同タイトルは、“Music Live Act & Dance”と名付けられた新たなステージエンターテインメントの略称であるらしい。音楽、演劇、ダンスなどが一体化したステージということなのだろう。角松は2019年に“架空のミュージカルのサウンドトラック”というコンセプトでアルバム『東京少年少女』を発表している。しかもこの作品は翌2020年に実際のミュージカルに発展し、劇作家・演出家である大塚幸太のディレクションによって舞台化された。本作のファンク色の強いサウンドや厚みのあるコーラスなどは、『東京少年少女』のテイストにも通じるものがあるため、単なる音楽作品ではないなんらかの複合芸術として完成するのではないだろうか。

角松敏生 『東京少年少女』

 さらに謎が深まるのが、この後に収められた2曲、「Follow Me #1(TX Ver Duet with RIE. K)」と「Follow Me #2(TX Ver Duet with HARUNA. M)」である。タイトルを見ればわかる通り同じ楽曲なのだが、デュエットの相手をそれぞれ変えている。前者のRIE. Kは北川理恵、後者のHARUNA. Mは湊陽奈。いずれもミュージカルなど舞台で活躍する女優兼シンガーである。なぜ、この2人を起用したのか、しかも同じ楽曲で別々にデュエットした理由は何なのかは、今のところ詳しい説明はないようだ。

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