TAIKING、Suchmosの活動と地続きのようなソロ作品群 1stシングル「Easy」から新曲「Summer Again」までの歩み

TAIKING、Suchmosと地続きのソロ作

 この原稿を書き始めたのは、3月27日。Suchmosが3rdアルバム『THE ANYMAL』をリリースしてからちょうど3年の月日が経ったときである。『THE ANYMAL』は今聴き返してもやはり名盤だ。2010年代において、Suchmosは日本の音楽シーンに新たな道を切り拓いた存在であることを改めて思い知る。

 具体的に言うと、ギターロックや4つ打ちロックが全盛だった日本の音楽文化に対してアンチテーゼ的な立ち位置に登場したのがSuchmosであり、彼らのジャズ、ソウル、ブルース、ファンク、ヒップホップなどブラックミュージックをベースにしたミクスチャーロックがチャート1位を獲るほどの人気を集めたことで、日本における「ポップス(=大衆音楽)」や「フェスで盛り上がる曲」の音楽性の幅がぐんと広がった。Suchmosがいなければ、2022年のチャート上位はまた違った景色になっていただろう。今チャート上位の常連になっているアーティストたちが少し異なるサウンドを作っていた可能性だってあるだろう。それほどまでにSuchmosが音楽文化というフィールドにて耕してくれた土壌は豊潤で、新たな芽がたくさん出てくるものであった。

 Suchmosは2020年7月19日に行われた全曲新曲のオンラインライブを最後に、2021年2月3日に活動休止を発表。理由は「修行の時期を迎えるため」。それ以降、メンバー各々がそれぞれの日々を暮らしている。筆者は1st EP『Essence』を出す前から編集者・ライターとしてSuchmosを知り、1stアルバム『THE BAY』を出すタイミングからたびたび取材をし記事を作ってきたが、そんな私が今心を躍らせながら注目しているのが、Suchmosのギタリスト・TAIKINGのソロアーティストとしての作品である。

 TAIKINGは現在、藤井風やRADWIMPSなどのサポートギタリストとしても活躍中。そんな中、昨年8月に1stシングル「Easy」でソロデビューを果たした。2月26日に行われた1stライブのMCでは「YONCE見てて『やっぱこいつかっけえな』ってなって、『いや、俺もそれやる』と思って始めました」と笑顔で話していたが、Suchmosが活動休止する以前から曲は温めており(たとえば3rdシングル「走馬灯」は20歳の頃に書いていた曲)、ソロ活動をやりたいという想いは前々からあったようだ。Suchmosではギタリストに徹していたTAIKINGが、ソロ作品では自身で作詞作曲編曲、そしてボーカルまで務めていることに驚いたリスナーもいるかもしれない。しかし、もともとTAIKINGは、学生時代にHSU(Ba)とOK(Dr)らと組んだバンドでボーカルを務めており、さらに遡ると、小学3年生の頃からドラムを叩いていたいうバックボーンもある。高校卒業後は音楽専門学校で編曲を学んでいたこともあり、ギター以外の知識やセンスと経験も非常に豊富なミュージシャンだ。

 初めて「Easy」を耳にしたときから、TAIKINGのソロ作品にもどうしたってSuchmosらしさが滲み出ていることを感じた。“悠々自適に生きる”といった意味がある「Life Easy」の精神と、初期にリリースしたそのタイトルの曲は、Suchmosがずっと大事に伝え続けてきたものである。2019年9月8日に行われたメモリアルな横浜スタジアム公演の中で最後に演奏したのが「Life Easy」であり、その続きを「Easy」という曲でもってTAIKINGが奏でにきてくれたかのようにすら思えた。

TAIKING「Easy」Filmed by Friends

 MVでは“仲間と過ごした地元・湘南の1日の記録”を描いた「Easy」では、二人の登場人物と景色が浮かんでくる歌詞がストーリーテリングのように綴られている。世俗的なことや他人の幸せの価値観に惑わされず、自分にとって愛すべき場所や時間や仲間を大切にし豊かで安らかな人生を送る、といったことが「Life Easy」の意味するものであるが、まさにその精神がこの曲に横たわっているように思う。〈Be sensitive to gestures and words〉というラインも象徴的だが、大切な相手が発する一つひとつの言葉や表情、愛すべき時間の一瞬一瞬を見過ごさずに、しっかり味わって、記憶に、歌に刻み込もうとする。

 もっと言えば、“悠々自適に生きる”といった精神はこの曲だけでなく、TAIKINGの作品全体に引き継がれていることを感じる。ただ手放しで“ポジティブに生きようよ”“楽して生きようよ”と歌っているのではなく、自身が様々な出来事や世の中の陰と陽を経験し、とにかく生きていくしかないことを受け入れた上での人生観が、歌詞に滲み出ている。その表現の幅の広さと深さは、2月23日に同時リリースした“日中”をテーマにした1st EP『RAFT』と“夜”をテーマにした2nd EP『CAPE』の対となるような2枚で証明した。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アーティスト分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる