竹内アンナが語る、『TICKETS』で“旅”をテーマにした理由 『アイドリッシュセブン』も支えになったコロナ禍での制作活動

竹内アンナ『TICKETS』インタビュー

 竹内アンナから、2年ぶり2枚目のフルアルバム『TICKETS』が届けられた。前作『MATOUSIC』リリース直後からコロナ禍に入り、2021年には京都から上京。様々な環境の変化があった中、今作のテーマを“旅”にした理由、音楽活動の軸として大切にしているもの、また支えになったという『アイドリッシュセブン』の話題に至るまでじっくりと語ってもらった。(編集部)

「ICE CREAM.」で自分なりに天井を1つ取っ払えた

ーーフルアルバムとしては約2年ぶりとなる『TICKETS』は、飛行機に乗っていることを想起させるオープニング含めて「旅」がテーマになっていますよね。前作の『MATOUSIC』が「音楽をまとう」という意味を持つタイトルだったことを考えると、「日常から非日常へ」とでも言うべき変化が見られます。音楽に対する捉え方が変わった部分もあるかのかなと思いましたが、『TICKETS』に至るまでの心境の変化などあれば教えてください。

竹内アンナ(以下、竹内):『MATOUSIC』の時は「寄り添いたい」「日常の延長線上にある音楽でありたい」ということを強く思っていて、その考え方自体は実は今もそこまで変わっていないんです。ただ、2020年3月の『MATOUSIC』リリース直後からライブができなくなったりして、物理的に寄り添えない状況が続く中で、「寄り添おうとするだけじゃ足りないのかもしれない」と思うようになったんですよね。そんな中で、次にアルバムを出すのであれば、『MATOUSIC』を聴いてくれた人たちの手をそのまま引っ張って外に連れ出していくような作品にしたいと考えていました。『TICKETS』はそういう気持ちをベースに作ったものなので、前作よりもリスナーの感情に積極的に働きかけようとする作品になったんじゃないかと自分でも思っています。

ーー旅をテーマにするアイデアはどこから生まれたんですか?

竹内:直接的なきっかけは去年の夏にラジオの企画で作ったプレイリストです。「真夜中の夢旅行」というテーマで選曲をしたんですけど、その過程で「音楽を聴くことでどこにでも行けるんだな」と気づいたんですよね。自分が京都にいた時によく聴いていたくるりの「ハイウェイ」とか、小学6年生の頃に一晩で40回くらい続けて聴いたThe Beatlesの「Get Back」とか、選んだ曲を改めて聴いてみると当時の記憶が鮮明によみがえってきました。自分の音楽を聴いてくれた人もそんな気持ちになってほしい、このアルバムが心の中で旅をするためのチケットになってほしい、そういう思いを『TICKETS』には込めています。

ーーサウンド的にも前作以上に広がりがあって、「いいよ。」のようなアコースティックな曲からトラック主体のものまで多様な楽曲が並んでいますね。

竹内:必ずしも広がりを出そうと思っていたわけではないんですけど……「いいよ。」に関しては、アルバム曲を並べてみた時にアッパーな曲が多かったので「肩の力を抜いて聴いてもらえる曲を作ろう」というねらいで作りました。旅には休憩も必要だよね、ということで(笑)。あとはやっぱり「ICE CREAM.」を作ったのも大きかったですね。初めてご一緒するチームの方のサウンドに私らしさをどう加えるかという点でもチャレンジだったし、あとは歌詞の面でも「とびきりかわいい曲を作ろう!」というコンセプトがあって。

ーーなるほど、それで〈ときめきはついに大気圏へ突入です〉というラインが生まれたと。

竹内:そうですね(笑)。この部分はなかなか思いつかなかったんですけど、この曲の歌詞を書いている中で「竹内アンナがやるかわいい曲ってこのくらいだよな」という枠を自分で作ってしまっていると実感したんです。そういうところから一度離れて、やりすぎと思われるくらいのものを作ってみよう、という中で「大気圏に突入するほど好きってめっちゃかわいいかも」となりました。「ICE CREAM.」で自分なりに天井を1つ取っ払えたのは、振り返ってみるとターニングポイントでしたね。できるかどうかとかを気にしすぎずなくなったというか、「こういう音を作りたいからやってみよう」というシンプルな気持ちで曲作りと向き合えるようになりました。

ーー今名前の挙がった「いいよ。」と「ICE CREAM.」はアルバムの中でもサウンド的に両極にあるものだと思うんですけど、ご自身にとって竹内アンナというアーティストのアイデンティティはギターを弾きながら歌うところにありますか?それとももっと多彩なことをやるクリエイターのような認識ですか?

竹内:アコギが軸というのは自分の中で大切にしています。その軸さえしっかりしていれば、やりたいことを都度取り入れていってもブレないんじゃないかというのが今の考えです。ギターに縛られるのではなくて、自分の原点としてのギターがあったうえでそこにいろいろな要素を加えて、自分なりの音楽を作っていきたいと思っています。

『アイドリッシュセブン』に支えられた

ーーアルバムのコンセプトに関連して、もともと竹内さんは旅行がお好きなんですか?

竹内:はい、大好きです。以前から学生向けのプログラムを使って海外に行ったりもしていました。基本的に外に出るのが好きなので、最近の状況は窮屈に感じてしまうこともあります。

ーー先ほど『MATOUSIC』のリリース後にライブができなくなったというお話がありましたが、『MATOUSIC』から『TICKETS』の期間はコロナ禍そのものと重なりますよね。去年の春に卒業された大学も、最後の1年間はリモート主体だったんですよね。

竹内:そうですね。悲しいくらい学校に行けなくて……卒業式は無事に開催されたのでそれだけはよかったんですけど。

ーー旅行や外出を封じられてしまう状況は制作に何らか影響を与えていたんでしょうか。

竹内:そこまで自覚してなかったんですけど、外に出たり人と直接会って話したりすることが制作のインスピレーションのかなりのウェイトを占めていたということに初めて気がつきました。

ーーそうだとすると、コロナ禍の空気は竹内さんにとってなかなかヘビーですね。

竹内:外出自粛が始まった頃はどこからインプットをもらっていいかわからなくて結構まいっちゃったんですが、それでも曲を作らないといけなかったので、映画やアニメをたくさん見たり、マンガを読んだり。

ーーなるほど、他の創作物から刺激を得るようになったと。

竹内:身近にそういうものがあったんだなと。「いつか見よう、読もう」と先延ばしにしていたものにこの時期に触れたことで、インプットの選択肢が増えたように思います。

ーー具体的に影響の大きかった作品とかはありますか?

竹内:インスピレーションをもらった音楽はもちろんたくさんあります。ちょうど去年の春に上京してミュージシャンの先輩方とも距離が近くなったので、今まで自分が聴いてこなかったものをいろいろと紹介してもらいました。あとは『アイドリッシュセブン』という作品には支えられたなと思っています。作中に登場するiDOLiSH7というグループの逢坂壮五くんという子が大好きなんですけど……すみません、ニヤニヤしてしまって(笑)。

ーー心からお好きなのが伝わってきます(笑)。

竹内:ライブ映像からも、本当に元気をもらえるんですよね。自分のライブができなくなってしまって落ち込んでいた時は、毎晩のように見ていました(笑)。出演されている声優さんの笑顔もすごく素敵で、「ライブってこんなに楽しいんだな」というのを思い出せました。

ーーなるほど。『MATOUSIC』の後、アーティストとして注目が高まったタイミングでライブやフェスに出られない状況になってしまったわけですよね。

竹内:そうですね。もちろん「もしこういう状況じゃなかったら」ということは数えきれないくらい思ったんですけど、基本的にはポジティブなところだけが取り柄なので(笑)、もう割り切るしかないなと。逆のこの状況だからできたこともあるので、そちらに目を向けようというのは意識していました。あとは、ライブをやれるのは決して当たり前のことじゃないと認識できたのも自分にとっては重要だったように思います。なので、久しぶりにアルバムのツアーとして全国を回れるのは本当にうれしいですね。

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