“25時、ナイトコードで。”が歌うボカロアンセム 初音ミクと声優陣の歌声が織り成す、絶妙なバランス感とは

 声優とボカロのコラボが豪華な本作は、ゲーム内ユニットという存在を越えてボカロカルチャーにおいても多大な意義を持つだろう。特に楠木とミクが歌う「夜に駆ける」は、ボカロPであったAyaseがシンガーにikuraを迎え、YOASOBIとしてお茶の間にその名を知らしめる曲となったこと踏まえると、ボカロとJ-POPの融合を象徴するような楽曲のひとつであることは間違いない。そんな曲が、ボカロリスナー以外にも広く楽曲を届ける『プロセカ』によって、声優とミクという形で再度ボカロとそれ以外のジャンルを繋げる存在として取り入れられたことは興味深い。

 そうした様々な楽曲ののち、アルバム中で唯一、ニーゴメンバー全員で歌われる「ビターチョコデコレーション」が収録されるのは壮観である。現実の煩わしさを静かに歌うAメロ、Bメロを経たサビ直前、田辺による〈笑って愛嬌振りまくように〉は田辺演じるまふゆの苦しさを反映するかのよう。ラスサビにある4度の〈ビターチョコデコレーション〉に挟まれる歌詞を1人ずつ歌う部分は、まさに4人のキャラクターを的確に表しており、ゲーム中では気を配りにくい巧妙な歌詞と歌割りにじっくり耳を傾けることができる。

『ビターチョコデコレーション 』3DMVゲームサイズ公開!

 また、多くの楽曲がメンバー1〜2人にミクが加わる形で歌われているが、ミクが参加しない楽曲もある。佐藤と鈴木が歌う「シャルル」と「ベノム」は2人だからこその生き生きとした仕上がりになっている。佐藤の力強い歌声と、鈴木の優しくも一抹の寂しさを感じる歌声のバランスも気持ちいい。

 田辺と佐藤による「ボッカデラベリタ」にも注目したい。佐藤の歌声は張り上げるサビでも低い声域のAメロでも威勢を感じるが、驚くのは田辺演じるまふゆの歌声だ。寡黙な性格のキャラクターということもあり、他の楽曲でもほとんど張り上げることのない田辺の歌声が頭サビから感情的になる様子は他にはない迫力があり、直後のAメロで沈む落差もまふゆが抱える葛藤の大きさを感じさせる。田辺の表現力が特に光った1曲だ。

ボッカデラベリタ / 朝比奈まふゆ、暁山瑞希(25時、ナイトコードで。)

 無機質なミクの歌声と声優陣が織り成す絶妙なバランス感、ミクの参加しない楽曲での感情的な表現など、その繊細な振れ幅を楽しむことができる本作。声優とミクのコラボレーションによって人気のボカロ曲に新たな息が吹き込まれており、『プロセカ』ファンからライトなボカロリスナーまで、存分に楽しめる作品となっている。

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