神はサイコロを振らないが見据える新たな地平線 現時点での集大成示した野音ライブ『最下層からの観測』東京公演
特に、鮮やかなシンセサウンドがモダンでブライトな響きを放つ「LOVE」は、まさに最新型の神サイサウンドを表すものであったと思う。また、数あるバラード曲の中でも、「あなただけ」が描き出していく詩世界は、とても深く、広大なスケールを誇っていた。ライブ全体を通して、いくつもの多様な感情を鮮明に歌い表していく柳田の歌声も、そして、それぞれの楽曲ごとに、正確に、大胆にモードチェンジを繰り返していく吉田喜一(Gt)、桐木岳貢(Ba)、黒川亮介(Dr)の演奏も、共にとても素晴らしい。それらには、緻密に構築された音源を超越していくような溢れ出んばかりの熱量が満ちていて、それでいて同時に、歌も演奏もクールに洗練されている。今回の公演は、彼らのライブバンドとしての成長を強く感じさせるものだった。
まさにハイライトの連続のステージングであったが、その中でも特にかけがえのない特別な時間となったのが、アユニ・D(BiSH/PEDRO)をゲストに迎えて披露した「初恋」であった。アユニ・Dは曲に入る前に、「ライブを観てて、この空間が、神サイさんとファンの皆さんの愛で溢れているので、私もあったかい気持ちで歌いたいと思います」と語っていた。そして実際に、柳田とアユニ・Dが向き合いながら届けたハーモニーは、とても美しく、温かな響きを放っていた。神サイは4人組のバンドでありながら、決してその形態に囚われることなく意欲的なコラボを組み続けている。そして、そうしたコラボレーションによって、神サイの可能性は次々と広がっていく。今回のアユニ・Dとのデュエットを観て、改めてそう感じた。本当に、無限の可能性を秘めたバンドだと思う。
今回の公演を観たことで、『事象の地平線』という作品が計20曲の超大作になった理由が分かったような気がした。これまでの変遷におけるどこか一部を切り取っただけでは、「神サイとは何か?」という問いに対して正しく答えることはできず、逆に言えば、これまでの一つひとつの歩みの全てが、神サイを成立させるための大切なピースである、ということなのだと思う。言うまでもなく、キャリア初期の段階で、これほどまでに多角的な側面をハイクオリティな形で訴求できるバンドは、広いシーンを見渡しても極めて稀である。この日の公演を通して浮き彫りになったのは、4人が秘める大きなポテンシャルであり、そして、超大作『事象の地平線』でさえも、彼らの全容を知る手掛かりの一部に過ぎない、ということなのだと思う。このバンドの奥深さは、まだまだ計り知れない。
彼らは、4月10日の大阪城音楽堂公演を経て、そのまま5月からは13都市14公演の全国ツアー『事象の地平線』へと突入する。そのファイナル公演は、デビュー2周年記念日の7月17日に開催予定のLINE CUBE SHIBUYA公演だ。ライブ終盤のMCで柳田が語っていたように、神サイは「まだまだやっとスタート地点に立てたばかり」だとしたら、全国ツアーを経て更なる成長を遂げた彼らは、今回の公演では見せなかったような新たな一面を見せてくれるだろう。2022年も、引き続き神サイから目が離せない。