1stフルアルバム『事象の地平線』インタビュー
神はサイコロを振らない、産みの苦しみを経て表現できた“ありのままの姿” 周囲への劣等感さえ詰め込んだ渾身のフルアルバム
4人組オルタナティブロックバンド、神はサイコロを振らないが待望のメジャー1stフルアルバム『事象の地平線』をリリースする。なんと全20曲、トータル1時間を超える2枚組のボリュームとなった本作には、n-buna from ヨルシカとアユニ・D(BiSH/PEDRO)、キタニタツヤとのコラボ曲や、アニメ『ワールドトリガー』ほかドラマや映画の主題歌、CMソングなどこれまでの既発曲に、アルバム書き下ろしの新曲が多数収録されている。
柳田周作(Vo/Gt)の持つ類稀なる歌声を前面的にフィーチャーしつつ、エッジの効いた疾走感あふれるバンドサウンドを絶妙なバランスでミックスした意欲作だ。3月には日比谷野外大音楽堂で、4月には大阪城音楽堂にてワンマンライブ『最下層からの観測』を行う神サイ。ようやく完成したアルバムについて、メンバー全員に話を聞いた。(黒田隆憲)
自分の劣等感すら認めてあげられる曲ができた
ーー待ちに待った1stフルアルバムが2枚組というボリュームで完成しました。 まずは今の心境から聞かせてもらえますか?
柳田周作(以下、柳田):おっしゃる通り超大作に仕上がりました。思い返せば神サイは7年前に福岡の大学の小さいサークルからスタートして、紆余曲折を経てここまで来ました。泥水をすするような下積みを経験してきたことは、大きな自信にもつながっていると思います。あの頃に焦ってフルアルバムを作らなくて正解だったと思いますね。デビュー当時の作品をたまに聴き返すと、若さゆえの拙さが目立つというか(笑)。やりたいことがたくさんあり過ぎて、軸がブレていた時もありましたしね。でもその頃からインプットを大量に行い、同時に無駄なものをどんどん削ぎ落としていくことによって、自分なりのオリジナリティを完成させてきたというか。こうして20曲入りの1stフルアルバムが作れて本当に良かったと思います。
黒川亮介(以下、黒川):マスタリングの時に初めて最初から最後まで通して聴いたんですけど、楽曲の幅が広いということもあるのか、全く飽きることなく一瞬で聴き終えた感覚がありました。
桐木岳貢(以下、桐木):客観的に聴いてもいいアルバムだなと思います。通して聴くことで、「自分たちにはこれだけいい曲があるんだ」と自信が持てるというか。これだけの作品を作ってしまって、次の作品は一体どんなことになるんやろ? って、早くも次のアルバムのことを考えてワクワクしている自分がいます(笑)。
吉田喜一(以下、吉田):個人的には苦い思い出も結構多くて……。2020年に『理 -kotowari-』という5曲入りのミニアルバムを出したあたりから、自分のプレイに対して「こんなんじゃアカンよな」という気持ちが強くなっていったんです。コロナ禍ということもあり、家で毎日ギターと向き合いました。文字通り時間を忘れて没頭する日々を、高校生の時以来に送っていたなと思います。そういう苦しみがアルバムには刻まれているし、その一方でポジティブな思いももちろん詰め込むことができたので、そういう意味では「ありのままの自分」が表現できたんじゃないかと思います。
ーー前回のインタビューでお会いしたとき、ちょうど本作のレコーディングが佳境に入っていた頃でしたよね。「産みの苦しみ」をかなり感じていたと柳田さんが話してくれたことがとても印象的でした。
柳田:実を言うと、キタニ(タツヤ)とコラボした「愛のけだもの」の頃はまだ、曲作りにおいてもバンドという形態においても、あらゆる方面に劣等感を抱いていました。とにかく自信がなかったし、周りのミュージシャンたちが全員カッコよく思えてしまっていたし、自分たちの音楽の良さを見失っていたところがあったと思います。そういう自分の中の劣等感を全て詰め込んだのが、アルバムの最後に収録されている「僕だけが失敗作みたいで」という曲なんです。
例えば誰かに「神サイってどんなバンド?」と聞かれたとき、「こういうバンドです」と名刺代わりに聴いてもらうとしたらこの曲かなというくらい、自分の劣等感すら認めてあげられる曲ができたと思っていて。「自分なんかどうせ……」みたいに思うことを、作品にして発表するってすごいことだと自分で思うんですよ(笑)。
ーーなるほど。
柳田:そういう曲が、ここにきて書けて本当に良かったです。この曲が自分を認めさせてくれているような気もしていますし、最後を締め括るのにふさわしい曲だなと感じていますね。