「初恋」インタビュー
神はサイコロを振らない 柳田周作×アユニ・D×ヨルシカ n-buna 特別鼎談 他者との交わりで開かれた“新しい扉”
4人組ロックバンド、神はサイコロを振らないが初のコラボレーションシングル「初恋」をデジタルリリースする。この曲は、作曲とサウンドプロデュースにヨルシカのn-bunaを、ゲストボーカルにBiSHのメンバーであり、PEDRO名義でも活躍するアユニ・Dを迎えたラブソング。初恋の人を想う優しくも切ない歌詞と、夏の終わりの景色が浮かんでくるようなメロディが心に染みる。アユニ・Dの、これまでの彼女のイメージを一新するような歌声はすでに巷で話題となっており、改めて柳田周作(Vo)の先見の明にも唸らされる。この夢のコラボはどのようにして始まり、どのように作り上げていったのだろうか。気になる制作エピソードについて柳田とn-buna、そしてアユニ・Dの3人に聞いた。(黒田隆憲)
新進気鋭アーティストが集結したきっかけ
ーーまずは、今回のコラボが実現した経緯を教えてもらえますか?
柳田周作:アユニ(・D)さんもn-bunaさんも、神サイにとって実は「初めまして」なんです。僕らはメジャーデビューからちょうど1周年を迎え、結成してからは7年目に入るのですが、これまで常に新しいチャレンジをしてきた上で、もっと自分たちの殻を破りたいというか、音楽的にも新しい刺激が欲しいと思ったんです。その一つとして、誰かとコラボレーションするのはどうか? という案がバンドの中で浮上して。神サイのメンバーはみんなヨルシカのファンだったので、何か一緒に出来たらなと思ったところから今回の企画はスタートしました。
n-buna:知り合い経由で知り合ったギターの吉田(喜一)君から、直接「コラボしませんか?」と連絡をいただきました(笑)。もちろん神サイのことは「夜永唄」でよく知っていたし、すごくいい曲を書く人たちだと思っていたので「一緒にやったら面白そうだな」と素直に思いましたね。
ーー柳田さんは、ヨルシカのどんなところに惹かれますか?
柳田:まずは圧倒的な「楽曲のクオリティ」ですね。n-bunaさんとsuisさんの組み合わせは奇跡的だと思っています。しかもライブはサポートメンバーを加えてずっと「バンド」として活動されているじゃないですか。そこにもすごく共感しますし。そんなヨルシカのコンポーザーであるn-bunaさんと、何か一緒にできたらきっと素晴らしい化学反応が起きると思いました。
それと、前から僕は女性ボーカルと一緒に歌いたいという思いがずっとあって。この曲はタイトルが「初恋」なだけあって、大人の恋愛をしっとりと歌うというよりは、青春時代の恋愛を思い出しながら歌うような楽曲。そんな曲調にアユニさんの声はぴったりだと思ったんです。それで、最初に言ったように全く面識がなかったんですけど、突然お声がけさせていただいた次第です(笑)。
ーーアユニさんは、オファーが来た時にどんな気持ちでしたか?
アユニ・D:もちろん神サイさんのことは、私も「夜永唄」などで知ってはいたんですけど、周作さんがおっしゃったように面識は全くなかったので、オファーをいただいた時はびっくりしました。自分自身、ゲストボーカルという形でのお仕事をソロでは今までしたことがなかったし、正直「私で大丈夫かな……」という不安と緊張もありました。周作さんの歌声と自分の声が重なるのも想像できなかったんですけど、だからこそ面白いコラボになるかも? という好奇心もありましたね。
それに私は学生の頃からボカロ曲をめちゃくちゃ聴いてきたので、n-bunaさんの楽曲をBGMに青春時代を過ごしたと言っても過言ではなくて(笑)。今までお仕事で関わることはなかったんですけど、ずっとヨルシカは心のよりどころみたいな存在だったので、今回n-bunaさんが作曲とプロデュースをされるということも楽しみでした。
n-buna:嬉しいです。アユニさんって、BiSHやPEDROではとてもパワフルなボーカルを披露しているじゃないですか。そんなアユニさんをゲストで迎えたいと周作さんから聞いたときは、果たしてどうなるんだろう? と最初は思ったんです。でも実際にスタジオで歌ってみてもらったところ、ディレクションしていくごとに飲み込み良く柔らかな表現を覚えていくので感心しました。アユニさんをフィーチャーしようと提案した周作さんも、さすがだなと改めて思いましたね。
ーー実際の制作はどのように進めていきましたか?
柳田:最初、どんな曲調でいくかn-bunaさんと吉田と3人で打ち合わせした時は、リファレンスとしてヨルシカの「花に亡霊」や「春泥棒」などのバラードをあげさせていただきました。「n-bunaさんと一緒にやるなら、ヨルシカのああいう優しい楽曲が好きだしやりたいです」と話したら、最初びっくりされてましたよね?
n-buna:神サイって僕の中でロックなイメージだったから、「そうかミドルバラードできたか」と思ったんですよ(笑)。でも、さっき話した「夜永唄」のように、周作さんの柔らかいボーカルを生かしたスローテンポの楽曲も、確かにたくさんリリースされているから「きっといい感じの楽曲に仕上がるだろう」とすぐに納得しました。まずはワンコーラス分のデモを作って「こんな感じでどうですか」とお渡ししましたよね。その段階で結構アレンジも作り込んであったと思います。もちろん、神サイのメンバーたちがライブで演奏している姿をイメージしながら制作していきました。
柳田:最初にデモを聴かせてもらった時は、なんだか不思議な感じでした。神サイって基本的に僕が作詞作曲して、大まかなアレンジも考えているので、僕以外の誰かが神サイのために作った曲を聴くのは初めてだったんですよ。しかもそれが、あのn-bunaさんによるものだという。出来上がっているメロディに歌詞を当てはめていくのも、これまた初体験だったのでとにかく新鮮でしたね。苦戦もしましたが、全ての歌詞を書き終わってn-bunaさんから「いやあ、いい歌詞ですね。これは僕には書けないです」というLINEをいただいたときは、本当に嬉しかったです。普段、曲を作ってもメンバーから何も言われないので。
n-buna:それはダメですね! 今度みなさんに会った時に説教しなきゃ。
全員:(笑)
n-buna:それは冗談ですけど、本当にいい歌詞だと思いましたよ。最初の1コーラスで、海を思いながら誰かと会話している様子がありありと浮かんでくる。でも、その相手は目の前にはいない……そんなふうに情景が〈見える〉歌詞って素晴らしいと僕は思うんです。なので、思った通りの感想を率直にLINEしただけなんですよね(笑)。僕からは絶対に出てこない言葉がたくさんあったし、そういう言葉が周作さんの中から出てくる瞬間を今回垣間見ることができたのは、とても刺激的でした。