日向坂46、3周年に立った“約束の彼の地”は新たな出発の場所に メンバー全員とおひさまの思いを連れた悲願の東京ドーム公演

日向坂46、東京ドーム公演レポ

 日向坂46が「約束の卵」を初披露したのは前身のけやき坂46時代、初のアルバム『走り出す瞬間』を携えた全国ツアー『けやき坂46「走り出す瞬間」ツアー2018』の初日にあたる、2018年6月4日のパシフィコ横浜国立大ホール公演のアンコールでのことだった。当時はアルバムの完成が遅れたことで、リリースに先駆けてツアーが始まり、この初日公演では3分の2が初めて耳にする新曲という異色の内容。そんな中、アンコールのラストでこの曲が披露される前、キャプテンの佐々木久美は観客に向けてこう話した。

「この曲は、私たちの目標が書かれた曲になっていまして。皆さんとその夢を叶えたいという思いを込めて、歌いたいと思います」

 それから約3年10カ月もの月日が流れた。あの日掲げた夢……東京ドーム公演は2019年12月18日の『ひなくり2019 〜17人のサンタクロースと空のクリスマス〜』最終日にて、2020年12月に正式開催されることが発表されたが、この発表からまもなくして世界情勢が一変。あとは皆さんの知るところだろう。

 何度かの延期を経て、発表から約2年3カ月という長い時間をかけて日向坂46がついにたどり着いた“約束の彼の地”東京ドーム。3月4日には昨年6月後半から休養中だった小坂菜緒の活動再開が発表され、フルメンバーでステージに立てると誰もが信じていた。ところが、開催直前に濱岸ひよりの新型コロナウイルス感染が判明。神様のいたずらか、またも彼女たちの前に壁が立ちはだかるのかと肩を落とした“おひさま”(=日向坂46ファン)も少なくないはずだ。しかし、ライブ中に佐々木久美が「22人分の魂でステージに立っています。ここには22人いますから、皆さんもそういう気持ちで楽しんでいただきたいなと思います」と発言したように、彼女たちは濱岸の意志をドームにまで運んでいたし、もっと言えばグループを去っていった卒業生や、けやき坂46の原点であるひとりのメンバーの思いまで、ひとつもこぼすことなく東京ドームへと連れてきてくれた。

 3月30日、31日の2日間にわたり行われた『3周年記念MEMORIAL LIVE ~3回目のひな誕祭~』。筆者は両公演を会場で観覧したが、コロナ禍以降で同会場がフルキャパシティでライブを行うのはこの日向坂46のライブが初とのこと。結果、2日間で10万人を動員する盛況ぶりとなり、さらに両日とも有料ネット配信が行われたので、さらに多くのおひさまが日向坂46の晴れ舞台を目撃することとなった。

 初日の30日公演は小坂が久しぶりに公の前に姿を現しただけでなく、「ひらがなけやき」から始まり「日向坂」で終わるという非常にドラマチックかつエモーショナルなセットリストを用意。しばらく披露されていなかったけやき坂46時代の楽曲が多数組み込まれたほか、盛りだくさんの演出で3時間にわたり「日向坂46とおひさま、3歳の誕生日」を祝福した。

 続いて迎えた31日公演。本稿冒頭に記した佐々木久美のMC映像から始まり、「約束の卵」をBGMにけやき坂46結成から日向坂46への改名、そして今日までの出来事をVTRで振り返る。そして、曲終わりと同時に「Overture」へとなだれ込むと、ステージ上に大きな卵が膨らんでいき、「Overture」終了と同時にその卵が弾けると、中からは日向坂46メンバーが登場。加藤史帆の「東京ドーム、行くぞー!」を合図に、デビューシングル曲「キュン」にてライブが本格的にスタートした。初日は初ドームへの興奮か、はたまた緊張なのか、メンバーの強い思いが前に出るような熱量の高さが前面に打ち出されていたが、この日は少々余裕が生まれたせいか、表出するエネルギーやオーラも緩急に富み、センターの小坂を中心に可憐でキュートなパフォーマンスを展開していく。

 そのまま2ndシングル曲「ドレミソラシド」へと続く構成は、初日とはまったく異なるもので、そもそも同じ曲でも演出がまったく別物だ。この2日間に向けて、彼女たちはどれだけのプレゼントを用意してきたのか……その破格の豪華さに、次々と驚かされていく。何せ、初日から13曲も差し替え、けやき坂46〜日向坂46の約6年を総決算するようなセットリストが提示されたのだから、驚かないほうがおかしい。演出面でも巨大な可動式LEDスクリーンを巧みに使い、曲ごとに背景がコロコロと変わっていくし、メインステージ以外のサブステージも複数設置。パイロや火炎放射、噴水のほか、さらにフロートや大型トロッコ、リフトに気球と至れり尽くせりの演出で、どの席にいても一度はメンバーが近くまでやってきてくれる距離感の近さは、これまでの日向坂46のライブを踏襲するものだった。

 選曲的には日向坂46のシングル曲や全員歌唱のカップリング曲、けやき坂46時代のMV制作楽曲など主要ナンバー、期別楽曲が中心で、ユニット曲やソロ曲はゼロ。これは3歳の誕生日をみんなで祝うという趣旨と、初ドームを総力戦で攻めるといった意味が込められていたのだろうか。なんにせよ、2日目は「おいで夏の境界線」や「ハッピーオーラ」「抱きしめてやる」「それでも歩いてる」など初日に披露されなかったけやき坂46ナンバーも複数用意されたほか、「この夏をジャムにしよう」「Right?」といった初日にはなかった3期生楽曲も含まれており、その見応えはある意味では初日以上だったのではないだろうか。3期生は昨年の全国ツアーや『ひなくり2021』でひと皮もふた皮も剥け、一人ひとりがすでにスターメンバーであることが強く伝わるほどの輝きを放っていた。ドームのような大会場だとメンバーを個別認識するのが難しかったりするものの、この2日間で3期生の4人を見つけ出すことは非常に容易かった。それくらい、各々が強い個性を発していたのだ。

 また、2期生は貫禄あるパフォーマンスで観る者を圧倒。残念ながら小坂は体調を考慮して一部出演だったが、彼女に代わってセンターを務めることが多かった渡邉美穂の、有無を言わせぬ表現力の高さには感服の一言だ。もちろん、「ってか」でセンターを務めた金村美玖や、ライブを重ねるごとにオーラの強さが増している河田陽菜、曲中の合いの手や煽りなどで大活躍の富田鈴花など、すべてのメンバーが『ひなくり2021』のとき以上に表現力や存在感を高めていることが伝わった。

 そして、約6年にわたり活動を続ける1期生は、もはや別次元に到達していることが窺える。メンバー同士のアイコンタクトやちょっとしたハイタッチなど、9人の深い絆が伝わる瞬間がライブ中何度も確認できた。また、初期のけやき坂46ナンバーの多くを1期生のみで披露することもあってか、結成当初から活動を追う筆者は何度も涙腺を刺激された。中でも印象に残ったのが、「それでも歩いてる」と「永遠の白線」の2曲。「それでも歩いてる」はオリジナルどおり椅子を使った演出で、その椅子の数も1期生がまだ11人だった頃と一緒なのだ。当時の衣装を着てパフォーマンスしたことも、そのエモーショナルさに拍車をかけたことは間違いない。「永遠の白線」でも当時の白いブラウスを着用し、年齢を重ね大人になった9人にまだ初々しかった初期の彼女たちの姿が重なる瞬間が何度もあり、最後にメンバー一人ひとりがポーズを取る振り付けでは長濱ねるや柿崎芽実、井口眞緒といったかつての仲間たちのポーズを9人で披露。そうか、この曲で3人のことも東京ドームに連れてきていたんだ……そう理解すると、自然と涙腺が熱くなる自分に気付く。1期生にとってこの曲をドームで披露した意味は、もしかしたら我々が思う以上に特別なものがあるのだろう。

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