KICK THE CAN CREW、キャリアを経て明確になった3人の関係性 KREVAが語る、トラックメイクも進化した『THE CAN』

KREVAが語る『THE CAN』

「(最後の2曲は)玄関を出てライブ会場に入っていく感覚」

ーー例えば「We don’t Get Down」や「カンヅメ」といった曲はどうやってモチーフを持ち寄っていったんですか。

KREVA:「We don’t Get Down」はもともとのトラックに自分が「Get Down」っていう仮タイトルをつけていて。スラングで言うところの「Let’s get down!」は「踊ろう」ってことなんですけど、それを額面通りの意味で「ステージからは降りません!」と言ったら面白いんじゃない? っていう。「カンヅメ」に関しては、「タカオニ」とか「カンケリ」みたいにカタカナ4文字で行きたいよね? って話して、アルバムタイトルが『THE CAN』で決まっていたので「カンヅメ」でいいんじゃないかということになりました。週1で集まって録っている我々の感覚と、アルバムっていう缶の中に曲を詰めていくようなイメージの両方を合わせて書いてみようかって。トラックの雰囲気からイメージが浮かんできた感じですね。

ーー「Playground」はどうでしょうか。

KREVA:今言った「タカオニ」とか「カンケリ」とか、「タコアゲ」もそうだったけど、KICK THE CAN CREWって公園でやれることを歌ってきたから、今回はもう公園の歌でいいんじゃないかという話になって。プラス、公園の在り方が変わってきたよなと思って。昔は遊ぶところだったけど、もう俺らは公園で遊ぶ年齢じゃないし、子どもたちについていく側になったよねっていう話をして。「俺たちがやっていたヒップホップ、今はブーンバップと言われていて、ヒップホップじゃないらしいよ」みたいな話とか。あとは俺が一行目で書いたんですけど、「場所が持っている記憶ってあるよね」という話にもなって。コロナ禍でお店がなくなったりしていて、俺たちの生活に直接の影響はあまりないんだけど、その場所に行った時に思い出す記憶が消えるよね、とか。真面目な話や例え話がいろいろ合わさった感じですね。いつもそういう話を1時間くらいして、それをみんな持ち帰って歌詞を書いてくる感じで。

ーーアルバム制作の最後にできた曲はどれでしたか?

KREVA:「玄関」ですね。10曲でアルバムが完成したかなと思った時に、3人とも「いや、もう1曲必要だな。それがないとアルバムっていう感じがしないな」ということになって。(スタッフに)頼み込んで締切を延ばしてもらって、ギリギリ最後に入れたのが「玄関」でした。トラック自体はもともと原型があったんですけど。

ーー「玄関」はこの曲順で聴くと新鮮ですよね。この曲からの「住所 feat. 岡村靖幸 (Extended Ver.)」でアルバムが終わるという流れもいいなと思いました。

KREVA:これは「THE CAN (KICK THE CAN)」的な、スピード感があるんだけどアゲすぎない曲がもう1回最後のほうにあったほうが、アルバムとしていいんじゃないかっていう判断ですね。パンチがあって、なおかつ叙情的という、両方のテイストを持っているのがこの曲だったという。テーマは俺が出したと思います。「住所」の前に「玄関」ってヤバくない? って(笑)。曲を作っていたのが(2021年の)12月の終わりぐらいで、コロナの新規感染者も東京では10人を切ったり、ゼロの県もあった時期だったから。そろそろまたライブ会場に行けるんじゃないかっていう気持ちも込めて、玄関を出てライブ会場のエントランスに入っていくような歌にしようと思って作りました。

KICK THE CAN CREW 「住所 feat. 岡村靖幸」Music Video

ーーアルバムが全曲揃って、トータルとしてどういうものになった実感がありましたか?

KREVA:いやあ……なんか、俺一人でコントロールできるものじゃないなとは思いましたね。やっぱり、3人で作っているなっていう感じはすごく強かったです。俺一人で作ると、もっと渋くなったりするんですけど、3人でやるとこの感じになるという。

ーーKREVAさん、MCUさん、LITTLEさん、その3人になることによって生まれるノリとかテイストって、どういうものなんでしょうか。

KREVA:そうですねえ……。例えば、LITTLEと俺とZORNで一緒にやったとしても全然違うと思いますね。俺と雄志くんとZORNでも全然違う。雄志くん、もっとカッコつけると思うので(笑)。いい具合に、みんなバランスを取り合ってやれてるのかなとは思いますね。あとは3人になった時の声が、一人の声みたいになっているところもある。トラックも俺が作っているし、メインのテーマを俺が出す時もあるけれど、本当にずっとみんなで話して、みんなでサビを作っているので。そういう感じですかね。

「ビートを意識して歌う若手が増えている」

ーーKICK THE CAN CREWって、幼馴染でも地元の仲間でもなく、最初はプロジェクト的に集まったラッパー同士だったわけじゃないですか。そういう3人が20年以上経った今も週1で集まったりしながら、フランクにいろんなことを話して曲を作っていくって、ものすごく貴重な関係だと思うんですよね。バンドとも違うし、例えばサラリーマンだったらそれぞれ出世していたりしそうだし。

KREVA:ああ、そうですね。たしかにそうかもしれない。

ーーこの関係って不思議ですよね。

KREVA:やっぱり「こうしたほうが楽しいな」とか「やりやすいな」というのがみんなわかってきたんじゃないかな。20年も経って自分を出す分量がわかってきたというか、この3人でいる時の感覚が定まってきた気がします。あとは前作からそうなんですけど、シンプルに3人でやることに、俺がすごくこだわっているんです。特に今回はエンジニアも入れずに3人で録ったのがよかったと思います。前に「(KICK THE CAN CREWを)もうやらない」と思った時って、結局ずっと周りに大人がいたんですよね。3人で歌詞を書いている時も誰かいる、みたいな感じになっていたのがよくなかった。3人だけでやることにこだわっているのがいい方向に来ていると思っています。

ーーこの先もKREVAさんのソロとKICK THE CAN CREW、並行して続けていくイメージですか?

KREVA:そうですね。思いついたりオファーがあったりしたら、流れでやっていけばいいと思います。どこにどう使われるかとか、どのタイミングで何をするかとか、そういうことは深く考えず両方やっていこうかなと。

ーー逆にやり足りないことというか、今の自分のキャリアや立ち位置を俯瞰で見て「今のKREVAだったらもっとこういうことをやってもいいかも」と思うようなことはありますか?

KREVA:そうだなあ……ラップで参加するのはいろいろやらせてもらったんですけど、もっと他のアーティストにトラックを作れたらいいなとは思いますね。最近では『ヒプノシスマイク』をやらせてもらったんですけど、意外と久しぶりだなと思ったので。楽曲提供をしたり、プロデュースを頼まれたら嬉しいです。

ーーシーンのムードも変わって、若いトラックメイカーも出てきやすくなってきたようにも思うんですけれど、そのあたりはどうでしょう?

KREVA:それはたしかにそうですね。あとはラップに関してもそう。日本でもみんなラップをやっているし、いろんなラッパーが地元の仲間だけで曲を作れちゃう状況になっている。それに、オルタナティブな人が増えてきたというか、ジャンルが成立しない世の中になってきていますよね。今までだったらギターを弾いて歌ってるだけだったような人でも、すごくビートがしっかりしている。ヒップホップのトラックメイカーだけが増えるんじゃなくて、そういう風に変わってきているのはいいなと思います。

ーーその実感は、僕も本当にあります。以前だったらロックバンドを組んでライブハウスに出ているような感性の人たちがビートを組んで歌っているというか。

KREVA:前は海外の音楽じゃないと得られなかったフィーリングというのがあって。ギター1本で歌っていて、そのビートがすごくいいというのは、海外には多かったんだけれど、前までは日本にはなかなかいなかったんですよ。でも、最近は日本でもちゃんとビートを意識して、いいループを組んで、その上で歌って成立させている曲が増えている。日本の音楽シーン全体でもビートをしっかり意識している人が増えた気がします。それこそNulbarichはまさにそうなんだけど、もっと小さい規模でやっているシンガーソングライターのビートもよくなっているから。「トラックメイカーを増やしたい」とよく言ってたけれど、すでにもうたくさんいるし、どんどんそうなってきている気がします。

ーー5年前、10年前にKREVAさんが日本の音楽シーンに対して感じていたムードとは、確実に変わってきていると。

KREVA:そうですね。今言ったようなビート感のある曲を聴こうと思うと、以前はネオソウルとかR&B的なものしかなかった気がするんですけど、今はもう、時代が時代だったらフォークと言われそうな音楽でも、ビートがいいものもしっかりあると思う。それはいい流れだなと思いますね。あとは、そういうことをやっている若い世代のミュージシャンが、俺に「プロデュースお願いします」とか「ビートだけでもお願いします」みたいに言ってくる世の中だったら最高ですね。

――その言葉、ちゃんと記事に載せておきます(笑)。

KREVA:はははは。そうやって若い子たちがどんどん作っていることには、自分が家で一人でサンプラーに向かって曲を作り始めた頃と近いバイブスを感じます。「一人でもここまでできるんだ」と思ってやっていたから。それはすごく尊いと思います。

KICK THE CAN CREW
KICK THE CAN CREW『THE CAN』

■リリース情報
KICK THE CAN CREW『THE CAN』
2022年3月30日(水)リリース
・完全生産限定盤A:¥5,500(税込)
CD+Blu-ray / デジパック仕様 / ステッカー封入
・完全生産限定盤B:¥4,400(税込)
CD+DVD / デジパック仕様 / ステッカー封入
・通常盤:¥3,300(税込)
CD

<CD収録曲>
01. THE CAN(KICK THE CAN)
02. YEAH! アガってこうぜ
03 .We don’t Get Down
04. 準備
05. トライは無料
06. カンヅメ
07. Playground
08. 今こそ寄ってこい feat. RYO the SKYWALKER & NG HEAD
09. Boots
10. 玄関
11. 住所 feat. 岡村靖幸(Extended Ver.)

<Blu-ray / DVD収録内容>
Boots(MV)
住所 feat. 岡村靖幸(MV)
Boots(メイキング)

『THE CAN』スぺシャルサイト:https://www.jvcmusic.co.jp/kickthecancrew/
KICK THE CAN CREW Official Site:https://www.kickthecancrew.com/

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる