KICK THE CAN CREW、キャリアを経て明確になった3人の関係性 KREVAが語る、トラックメイクも進化した『THE CAN』
KICK THE CAN CREWが、約4年半ぶり通算5枚目となるニューアルバム『THE CAN』を3月30日にリリースした。
結成20周年を迎えた2017年に前作『KICK!』をリリースし、完全復活を遂げたKICK THE CAN CREW。その後2018年にシングル『住所 feat. 岡村靖幸』を発表してから動きは途絶えていたが、久々に届いた新作は彼ららしいパンチ力に満ちた1枚。畳み掛けるようなビートとグルーヴィなベースラインが印象的な「THE CAN (KICK THE CAN)」や、ノスタルジックなトラックに乗せて3人が“冬”をテーマにしたリリックを綴る「Boots」など、KREVA、LITTLE、MCUという“キャラ立ち3本マイク”のエネルギーと親密さを感じさせるアルバムだ。
KREVAへのインタビューによって、新作の制作背景からソロとの関係性、そして最近の音楽シーンに対しての思いなどをざっくばらんに語ってもらった。(柴那典)
生っぽい質感を醸し出すトラックへのこだわり
ーーKICK THE CAN CREWのアルバムは約4年半ぶりになりますが、いつ頃に制作が始まったんでしょうか?
KREVA:具体的には覚えていないですけど、だいぶ前にKICK THE CAN CREWでEPくらいを目指して曲を作り始めた時期があって。その時に今回のアルバムに入っている何曲かの原型を作っていたんだけど、コロナ禍になって制作が止まって、その後『LOOP END / LOOP START』(2021年9月)を作り終わってからすぐに始めた気がします。ーーEPくらいを目指して曲を作り始めた時期というのは『AFTERMIXTAPE』(2019年9月)よりは後?
KREVA:後ですね。前のアルバムの時に、月に1曲のペースでデモを作っていけば1年で12曲になるなと思って、リリースがあるかどうかに関わらず、作れる時は作りましょうみたいな話になっていたんです。そこからまた集まって新しい曲を作り始めたんですけど、途中で止まってしまって。
ーーKICK THE CAN CREWの4年半前のアルバムの時は20周年と復活という大きなトピックがあったと思うんですが、その後のグループの位置づけはどう変わったんでしょうか? ソロとKICK THE CAN CREWを両方進めていく上での意識はどんなものがありましたか。
KREVA:いや、意識はしてないですね。誰でもそうだと思うんですけど、偉い人に会ったら「よし、俺はこれから敬語を喋るぞ」とか思わなくても敬語を喋るじゃないですか。そういう感じですね。KICK THE CAN CREWが3人集まったら、自然とその雰囲気になります。
ーーKICK THE CAN CREWとしては4年半ぶりのアルバムなんですけど、KREVAさんのアウトプットとしてはその間にバンドでレコーディングしたベストアルバムの『成長の記録 〜全曲バンドで録り直し〜』(2019年6月)があり、ミックステープとして作った『AFTERMIXTAPE』があり、コロナ禍で作った『LOOP END / LOOP START』があった。同じことをやっているわけではなくて。
KREVA:たしかにそうですね。
ーーそれゆえに、聴いた印象としては4年半ぶりというよりも、経てきたこと、いろんな方法論が備わってきたことが、すごく結実している感じがするんです。特にトラックはバンドっぽいというか、生の強さがある感じがしました。
KREVA:いや、バンドで録ったものは全くないんです。「THE CAN (KICK THE CAN)」で田中義人さんにギターを弾いてもらっただけで、あとは全部自分で作ってますね。ーーそうなんですね。「THE CAN (KICK THE CAN)」はギターだけじゃなく、弾いているベーシストのドヤ顔が浮かぶようなベースラインだと感じましたが。
KREVA:特に頭の3曲はそれっぽい感じに仕上げたので、そういうふうに聴こえるんだと思います。「THE CAN (KICK THE CAN)」のMVを撮った時、監督が出してきた案も「バンドがジャムセッションしてる感じで行きたい」だったんだけど、「いや、これはバンドで作っているアルバムじゃないので、そういうのは打ち出したくない」って断ったぐらいでしたから。
ーー僕も完全に引っかかりました。
KREVA:今だったらDTMでもこれくらいはできるんですよね。機材の進歩もあるし、自分がコツを掴んできて、使いこなせるようになってきたこともあると思います。ロックっぽかったり、なるべく生っぽい音を選んでベースを入れていて。
ーーそのあたりはKREVAさんの楽器への感度も大きいんじゃないですか?
KREVA:それはあると思います。元KREBandのバンドマスターの岡(雄三)さんが亡くなって。その後は大神田智彦くんがメンバーになったんですけど、彼がライブで何度も何度も曲の後半に、ベースでエネルギーをもうワンプッシュしてくれるのを身を持って体感していたので。それが作品にいいフィードバックになっているのは間違いないですね。もちろん、その前に岡さんがベースの大事さを気づかせてくれたことも大きいですし、今までの自分と何が違うっていえば、そこですかね。
KICK THE CAN CREWとソロ、並行するなかでの棲み分け
ーートラックに関してはソロの制作とKICK THE CAN CREWの制作は地続きだったんでしょうか。
KREVA:そうですね。『LOOP END / LOOP START』の制作で思うようにトラックを作れるようになってきて、その勢いでずっと作り続けていました。『LOOP END / LOOP START』に入るトラックのテイストというのがあって、それ以外の部分で「これはKICK THE CAN CREWっぽいな」と感じてとっておいたものをみんなに提案して聴いてもらって集めたので。制作は地続きですね。
ーー『LOOP END / LOOP START』に入ったトラックとそうではないもののテイストの差というのは?
KREVA:ループ感の強いもの、サンプリング感のあるものは『LOOP END / LOOP START』のほうに意識して出しました。ループのネタがあって、それをチョップしてできたものというか。『THE CAN』のほうは自分が鍵盤とかで弾いて作っているものが多い。なので勢いがあるものはKICK THE CAN CREWのほうに回った気がします。ちょうど『LOOP END / LOOP START(Deluxe Edition)』も同じ時期に作っていたので、例えば「LOOP END / LOOP START」という曲はKICK THE CAN CREWのアルバムで使ったトラックよりも後にできたんだけど、できた瞬間に「絶対こっちだ」と思って、『LOOP END / LOOP START(Deluxe Edition)』のほうに入れたり。あとはKICK THE CAN CREWの曲を録った次の日に、ZORNと「クラフト feat. ZORN」をレコーディングをしたり、その次の日に『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』の「キズアトがキズナとなる」を録ったりして。立て続けでよく生きてるなっていう感じですね(笑)。
ーー「クラフト feat. ZORN」もパンチ力のある曲ですが、これも同時期だったんですね。
KREVA:そうですね。「THE CAN (KICK THE CAN)」でもう少しパンチがほしいと思った時に、自分がシンセサイザーで入れていたフレーズを田中義人さんにギターで弾いてもらうというのを思いついて。それをやってみたら「クラフト」もいけるんじゃないかと思って、ギターを入れてもらいました。だから、繋がっている感じはありますね。出てくる色は違うと思うんですけど。
ーー「THE CAN (KICK THE CAN)」は、どういうアイデアから作っていったんですか。
KREVA:この(コロナ禍の)状況下で、いわゆるコールアンドレスポンスみたいなことをやっても、ちょっと行きどころがないと思っていて。でも、勢いは欲しかったので「クールだけどかっこいい感じがいいんじゃないかな」と思って提案して成立した感じですね。これがさっき言っていた、もう1回集まって曲を作るタイミングで最初にできたんじゃないかな、と思います。
ーーじゃあ、このアルバムに向けてのひとつのスタートでもあったと。
KREVA:はい。スピード感はあるけどアゲアゲじゃない感じを打ち出していこうという。あと「YEAH! アガってこうぜ」も、歌詞では〈アガってこうぜ〉と言ってるけど渋さがあるものになっていて。この曲はアルバム『LOOP END / LOOP START』を作る前に原型はありました。
ーー最初に集まったタイミングで原型があったものは他にどんな曲でしたか?
KREVA:「トライは無料」と「準備」ですね。その時は、今さらだけどみんなで学んでいく感じとか、大人だけど学ぶことをテーマに曲を作ってみようという時期で。だから、テーマ的には一貫しているものなんだと思います。
ーー「トライは無料」は『家庭教師のトライ』のCMソングのオファーがあって作ったのかと思うぐらいの曲でした(笑)。
KREVA:そうですよね。でき上がってから話が来ても、全然問題ないです(笑)。
ーーそこから制作が止まったというのは、振り返ってどんな要因があったんでしょうか。
KREVA:「Boots」で雄志くん(MCU)とLITTLEが歌詞を書いて、次に俺が書くことになった時に、俺が自分のことで忙しくなってきたような気がするんですよね。シンプルにそれだけでした。そこから話が止まっちゃったという。
ーー「Boots」は、どういうモチーフで作っていった曲ですか?
KREVA:このトラックを聴いて、みんなで話しているときに「冬っぽいよね」という話になって。「イツナロウバ」っていう曲があるんですけど、あれは“夏って言わない夏の曲”みたいな曲だったんで、“フユナロウバ”みたいな曲を作ったらいいんじゃないかと。そこから「冬といえばブーツとかいいんじゃない? ブーツにまつわる思い出とかもあるし、いろんなストーリー書けそうだよね」という話になって、「Boots」っていうタイトルで曲を作ろうということになりました。
ーーそこからコロナ禍を経て改めて制作のスイッチが入って、モードはどう変わりました?
KREVA:今まではエンジニアに録ってもらうこともあったんですけど、今回からは完全にレコーディングも俺が全部やっているんです。それができるようになったっていうのもあるし、コロナ禍だったんでレコーディングブースにあまり人を入れないようにしていて、雄志くんも歌詞で言っていると思うんですけど、とにかく〈定期的な換気〉(「カンヅメ」)ですよ。結構大変でしたけど、それでもずっと3人で集まってやっていましたね。
ーーリリックのテーマやモチーフを決める時はどんな感じだったんでしょうか。
KREVA:そこは本当にいつも通り、なんでもない話をしたり、トラックを聴いてどんなことを思ったとかを話し合って決めていく感じでした。