KREVA、コロナ禍の記録から見出した自己表現 カニエやドレイクに通ずる“今らしいサウンドメイク”についても語る

KREVA、コロナ禍の記録から見出した自己表現

 KREVAがニューアルバム『LOOP END / LOOP START』をリリースした。

 『AFTERMIXTAPE』以来約2年ぶりとなるアルバムは、「Fall in Love Again feat. 三浦大知」や「タンポポ feat. ZORN」など昨年から今年にかけて発表されてきた楽曲に加え、6月に開催されたツアー『KREVA in Billboard Live Tour 2021』で披露された「Finally」など新曲を収録した全14曲。コロナ禍で定期的に曲を制作してきたという今のKREVAのマインドを強く感じる作品だ。

 アルバム制作の裏側から、ドレイクやカニエ・ウェストの新作にも通じるサウンドメイキングの「今っぽさ」まで、いろいろな話を聞いた。(柴那典)

コロナ禍で書き連ねた曲が“まとまる”ことで持つ意味

ーーアルバムは「クレバの日」=9月08日のサプライズリリースでしたが、そこを目指して計画的に進めていった感じでしょうか?

KREVA:いや、俺が重きを置いて考えていたのはとにかく曲の塊を作るっていうことで。例えば「変えられるのは未来だけ」が先に出るとか、アルバムとして9月08日に突然リリースするっていうのはチームが考えてくれたっていう感じですね。

ーー作っていた段階ではアルバムもイメージしていなかった?

KREVA:とにかくこの状況をちゃんと記録していくというか、この状況の中でも定期的に曲を作っていき、それをまとまった形で提示するのがやりたかったことで。その量は多くなろうが、少なかろうが、自分から出てくる全部という感じでしたね。

ーーコロナ禍になって1年半以上経って、いろんな変化がありますよね。長くなってきているだけに、ムードを1つの作品にまとめるのは一辺倒ではいかないと思うんですが、このあたりはどうですか?

KREVA:一番やっちゃいけないこと、絶対違うなと思うことは、この状況をまとめるようなタイトルを冠したアルバムを出すということ。その瞬間に、もう全てが違って聴こえちゃう。例を出すと、何日間かある人の前で野菜を食べるところばかり見られたら「野菜中心の生活」だって言われたりするけど、「確かにその数日はそうだったかもしれないけど、そういうことじゃないんだよな」感が出てくる。このアルバムも「コロナ禍での我慢」とか「コロナ禍での生活」みたいなタイトルがついた瞬間に、「なんか、そうじゃないんだよな」っていう気がしてきちゃう。しかも、1週間前に普通だったことが次の1週間にはダメになったりするわけだから、定期的にその都度思ったことをしっかり書いていく。それも、ただ日記みたいにその時あったことを書くんじゃなくて、意識的に編集してどんどん形に残していく方法でしか、この状況を表現できないんじゃないかなと思って。それを自分に課してやっていた感じですね。

KREVA 「変えられるのは未来だけ」MUSIC VIDEO

ーー状況が日々変わる中で、心がけていたことはありますか?

KREVA:定期的にアウトプットをするために、インプットを意識的に増やしたんです。具体的に言うと、本を読むとか。その中で、自分が今まで言ってきたような言葉に出会うことが何回かあったんです。前に自分が言ったことだったとしても、改めてその時にまたいいと思えて、何か役立つと思えたら、もう1回形にしようということは思ってました。自分がインプットしたものの中で、後から聴いても役立つ・効果があると思われるような言葉たちを選んで、韻を踏みながら書く。それだけ心がけてました。

ーー役立つ、というのは?

KREVA:やっぱり、気持ちが落ち込んでいくのをどうやって止めるかが大事だと思ったから、自分の気持ちを奮い立たせてくれたり……いや、奮い立たなくてもいいな。ちょっと何かやってみようと思う方にシフトチェンジできるような、そういうものでありたいという気持ちはありました。

ーー今おっしゃった「奮い立たせるわけじゃない」というのは、大事なポイントだと思うんですよね。がむしゃらに何かをしようとか、行くぞとか、そういう勇気づけたり力づけたりするトーンじゃなくて。あまりこういうことの形容で使わない言葉だけど、「勤勉」とか「コツコツとやるべきことをやる」みたいな感じがある。それが淡々とした力強さにつながっていると思うんです。

KREVA:本当にそうだね。大人が聴いていいと思えるラップというか、イメージしていたのはそんな感じかな。あとやっぱり一発じゃ意味がないんですよ。1曲だったらただのこじんまりした歌なんだけど、それをずっとやってきて、結果としてまとまりになることで効果がある。そういうアルバムにしたかったんです。

ーーそういうまとまりに『LOOP END / LOOP START』というタイトルをつけたのはどうしてでしょう?

KREVA:タイトルをつけたのは最後なんですけど、本当に悩みました。繰り返しになってしまうけど、「こういう曲を書いてきました」っていうタイトルをつけた瞬間に「違うな」ってなっちゃう。それこそ「勤勉」とか「日々コツコツと」みたいなタイトルだと、「そういうことだけ言ってるわけじゃない。それが言いたいことのすべてじゃない」ってなる。だったら音のほうからフォーカスしていこうと思ったんです。とにかく毎日トラック作ることを心掛けていて、いいループを探したり、自分でループを作ったりしていたし、この生活全体の悪いループが終わってくれればいいなという気持ちもあったりしたので、そういうことを考えて『LOOP END / LOOP START』がいいかなと思ったんですね。

ライブのキャンセルに慣れてしまう怖さ

ーー細かい質問ですけど、『LOOP START / LOOP END』じゃなくて、『LOOP END / LOOP START』になっているのはどうしてなんでしょう?

KREVA:本来最後であるべき「Finally」という曲を最初に持ってきているのが1つと、このループが1回終わってライブできる状況が来ることで、新しいループがスタートするっていうことを考えてた感じですね。結果的にはそうならなかったけど。

ーー「Finally」で始まるというのは、ドラマや映画で言うならば、クライマックスが最初にあって回想シーンが続くような作りになっているわけで。この構成はアルバムを作っていく中で思い浮かんでいたんですか?

KREVA:ある程度曲がまとまってきたのと、有観客でのライブができることになってリハが始まった時期が一緒なんですけど、「どうにも1曲足りない」と思ったので、「Finally」だけは狙い撃ちで作りました。アルバムの冒頭になるようなもので、かつ、ビルボードライブのステージに立って久しぶりにみんなの前で歌える歌。そこにフィットする歌がないなら作るしかないなと思ったのが「Finally」だったんです。ライブのリハーサルをやりながら、バンドで実際に音を出してみた経験を踏まえて、録り直したりしながら完成させていった感じです。

KREVA 「Finally」MUSIC VIDEO

ーー「Back in those days」など、いくつかインタールードが挟まっていますが、これはアルバムの曲順とか構成が決まってから作ったのでしょうか。

KREVA:出てきた曲たちがある程度揃ったときに、足りないパーツを埋めていったという感じです。そのために作ったというよりは、毎日トラックを作っていたから、いっぱいあるトラックの中からハマりそうなものを選んで、ちょっとアレンジし直して作りました。

ーー「In the House」は、まさに緊急事態宣言下のムードのドキュメントだと思うんですけれど、これはどういうきっかけで生まれましたか。

KREVA:トラックから「In the House」という言葉が聞こえてきて、「まさに今の状況じゃん」と思って書き出した感じだったかな。このインタビューで話してきたようなことを1曲で言ってる感じでもあると思います。〈インプットしたけりゃまず吐く息〉とか〈出来ることから取り入れてく新たなルーティン〉とかね。

ーー「よ ゆ う」はどうですか?

KREVA:“猶予”と“余裕”の並び替えを思いついて、そこから書きました。これはトンチが効いているというか、そういうマインドだったんで。

ーーこの曲の冒頭には、ライブの予定がキャンセルになった場面を再現したスキットが入っていますよね。実際にこういう経験をたくさんして、今もまさに経験している感じですか?

KREVA:そうですね。それに慣れてきちゃっているのが、今は一番怖い。今回のスキットでやってるみたいに「あれ、ライブなし!? そっか、残念」っていうのがない、それが怖いですね。状況がまた悪くなってるんで(取材は9月上旬)。

ーー「って feat. SONOMI」はどういうきっかけですか?

KREVA:この曲は早い段階でトラックを作っていたんだけど、〈風の音が迫ってる。だけど駆け出して〉という、サビが言葉つきで出てきちゃって少し困るタイプの歌だったんですよ。「って言われてもなあ」と思ったから、そのまま「って」っていう曲になりました。前にも「トランキライザー」っていう曲があって、サビの言葉が思いついていたから逆にすごく苦しめられたんですけど、それと同じタイプですね。

ーー「All Right」はどうでしょう?

KREVA:もともと持っていたソフトがバージョンアップされて、久しぶりに使ってみようと思って遊んでたらできたトラックだと思います。毎日曲を作ることに関しては、機材のアップデートとか、世界中のいろんなビートメーカーがアップしてくれるビートメイクの動画とか、機材各社が作ってくれるチュートリアル動画とか、そういうものからインスピレーションをもらっていて。「やってみたいことがない」という日がないぐらいだったんですね。この「All Right」も、新しいW808(ベース)を手に入れたから、そのベースを弾いてみたいと思ったのに加えて、今まで持ってたソフトの演奏機能も使ってループを作っていった感じです。

ーーこの曲に〈飲めなきゃノンアルコール/そこら辺は俺忖度上手〉ってあるじゃないですか。このあたり、コロナに関係なく、価値観のアップデートが反映されているなって思ったんですよね。

KREVA:昔みたいな飲みの強要はしないっていうね。〈いつから空気は読むものに?/俺思いっきり吸いたい酔うほどに〉っていうのは気に入ってます。「自分が何したいかな」と思った時に、ライブの打ち上げって、俺、結構仕切るんですよ。どこの現場でも、どんな大物がいようが、〈とりあえずテキーラハイボールで/皆んな大丈夫?〉って言いながら俺が仕切る。それをイメージしたら、「これがやっぱり一番やりたいことかな」と思って歌詞にしてます。

KREVA 「Finally / Back in those days / 変えられるのは未来だけ」MUSIC VIDEO

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