2022.03.25 16:00

雨のパレード福永浩平、2021年に再認識したバンドの本質　今のモードで書きたかった“個性を肯定する1曲”

文・取材＝金子厚武、写真＝林直幸

「時代にも合っている、書きたいと思っていたテーマ」

――「first step」はGLOBAL WORK「ウツクシルエットパンツ」のCM用に書き下ろされた楽曲で、「自分のコンプレックスを自信に変えられる」という商品コンセプトを基に作っていったそうですね。

福永：最初にコンセプトをお伺いして、すごく時代に合っているなと思いました。僕は映画やドラマが大好きなんですけど、最近の作品はLGBTQや男尊女卑、黒人差別がテーマになることが多くて、そういう時代にも合っているというか。なので、「コンプレックスを受け入れて、それを自分の個性にしていく」ということは、自分としても以前から書きたいテーマだったので、いい話をいただけたなって。

雨のパレード - first step（Official Audio)

――実際の歌詞も〈春風が背中を押している〉〈憧れていた自分へいま踏み出してみる〉と、前向きに背中を押す言葉になっていて、曲調も「Override」や「ESSENCE」に続いて、アップテンポになっています。この曲もぜひライブで聴きたいと思いました。

福永：そうですね。サビに関しては、ド派手に行きたいなと思いながら書きました（笑）。

――ただ、ヴァースの部分はかなり低めのキーで歌われていて、不安な心情にも寄り添いつつ、だからこそ、サビの前向きさや派手さが際立つ、ドラマチックな構成だなと。

福永：この曲は最初、サビのメロの帯域がわりと悩ましかったんですけど、ヴァースの部分は下の声域の方がみんなに届くんじゃないかと思って、普段はあまりやらないキーで作っていますね。「Override」を友達に聴かせたときに、「最初から高くない方がいいんじゃない？」みたいなことを言われて、そういう聴き方もあるのかと思って、それでAメロはちょっと低いところから行ってみるのもいいかなと。「Tokyo」とか「You」も低めだったし、低いのもいいかなと思って、今回は歌ってみました。

――『Face to Face』以降は自分たちでDAWで作っているという話がありましたが、「Override」以降の3曲も同様ですか？

福永：そうですね。「Override」以降の3曲は、歌以外はほぼ自宅で作ったものなので、生ドラムのオフマイクを生かすとかそういうことではなく、打ち込みをどう感じさせるかを考えながら作りました。

――「first step」は背景で鳴っている時計の針の音も印象的です。〈時計の針戻す必要もないでしょ〉という歌詞とリンクしているのかと思いますが。

福永：ボーカルのリード音みたいにずっと鳴っている音があると思うんですけど、あれを作りながらすごい今に合う音だなと思って（笑）。

――「今に合う」というのは、最近のヒットチャートによく出てくるタイプの音色ということ？

福永：そうです。アメリカのヒットチャートというか、韓国もそうかもしれないけど、そういう海外のヒットチャートのイメージ。それを作っていて楽しくなってきちゃって、他にもいろんな音を入れたくなって、時計の音を入れました（笑）。最初はもっと派手な音だったんですけど、ローパスとハイパス（フィルター）をかけて、自分たちっぽい音色の時計の音にしたんです。

――「Override」でスクラッチやオーケストラルヒットで遊んだ感覚にも近いというか。

福永：そうですね。完全に遊び心です（笑）。

「バンドのコンプレックスを強みにしていけたら」

――「自分のコンプレックスを自信に変えられる」という商品コンセプトに合わせて聞くと、福永さんにはコンプレックスはありますか？

福永：きっとたくさんあると思うんですけど……ときどきバリアを張っちゃうところもそうだし、あとこの曲の1番で歌ってる〈予定通りできない〉というのもまさに僕で、全部ギリギリでやる人なんですよ。前に鹿児島に帰ったときにも、母から「あんたは子宮から出てくるのもギリギリだったから、全部ギリギリなのよね」と言われて（笑）、実際予定日をかなり過ぎて生まれたんです。提出物などもついギリギリになっちゃうんですけど……そういうところも個性として受け止められたらと（笑）。

――ギリギリ癖は僕もそうだから、直したいところでもありますけどね（笑）。

福永：あとはバンドに対してが一番コンプレックスを感じてるかもしれないです。どこにも属せていない感じというか、「どっちサイドなの？」みたいなところがあるので。そこは大きなコンプレックスだったりもしますけど、むしろそこを強みにしていけたらいいなって。

――タイアップとバンドのモードが合致したときにすごくいい曲が生まれるというか、波の多い2020年を経て、コンプレックスとも向き合って、自分たちの強みをもう一度再確認したタイミングだったからこそ、音源としての完成度とフィジカルを併せ持った「first step」が生まれたのかなって。「first step」という曲名も、CMコンセプトや春という季節との兼ね合いがありつつ、先日BBHFとの2マンイベント（『Detune』）をやったり、新たな動きが始まっている今の雨のパレードとしっかりリンクしている感じがしました。

福永：そうですね。今回はCMの書き下ろしということで、GLOBAL WORKさんからテーマをいただいて、すごくしっくり来たし、「次はこういう曲を書きたいと思ってた」みたいな感覚で取り組めましたね。「first step」というタイトル自体は歌詞のテーマから付けてはいるんですけど、今話を聞きながら、後々意味のあるタイトルになりそうな気もしてきました。

――「Override」以降のモードでまとまった曲数の作品が聴けることが楽しみです。

福永：2021年を通じて自分たちが感じていたものが「Override」以降の3曲に表れていると思います。「ESSENCE」を作った後に欲しかったシンセを買って、それで曲を作ったら暗い感じになっちゃって、また『Face to Face』のときみたいに1回なりそうだったんですけど（笑）、やっぱり今はこっちじゃないなと思って。

――GLOBAL WORKのタイアップの話で軌道修正ができたと。

福永：そうですね。すごくタイミングが良かったというか、いいきっかけをいただけたと思います。