八木沼悟志×南條愛乃による“第2期fripSide”ラストインタビュー 活動13年の集大成と前向きな別れの先にある道
「やり残したことがないと言い切れる歌を表現できたら」(南條)
ーー「stay with you -ver.2022-」から始まり「Dear All」で終わるという、このアルバムの流れもすごくドラマチックですよね。
南條:本当にね(笑)。私、「Dear All」が最後に配置されるとは全然思っていなかったので。
ーーあ、そうだったんですね。
南條:単純に「歌詞を書かなきゃ!」みたいな感じで書いたので(笑)。でも、アルバムを通してもそうだし、“fripSide Phase2”としてもすごく意味合いのある1曲になったなと、配置を見てより強く感じました。
ーーアルバムを通して聴くと、fripSide感の強い王道ナンバーがズラリと並びつつも、終盤にかけてエモーショナルさがどんどん強まっていく構成なんですよね。今作の曲順ではどういったことを意識しましたか?
八木沼:今回は『infinite synthesis』の6作目であると同時に、卒業をテーマにしたコンセプトアルバムでもあると考えていて。なので、南ちゃんの卒業に向けて盛り上げていき、「もっと聴きたいのに、本当にこのアルバムで終わっちゃうのか?」っていうぐらいのエモさを強く出したくて、曲順は意図的にこういった形にしています。
ーーかつ、サウンド的には現代的にアップデートされた感が強く表れた作品だとも感じました。
八木沼:ありがとうございます。昔を振り返って当時に寄せた、原点回帰をしている曲もいくつかあるんですが、新しくアップデートできた僕らのトレンドなど、前作『infinite synthesis 5』のときよりもさらに違った要素を入れることができたので、そこに関しても満足しています。ダメだから終わるんじゃなくて、もっとできるんだけど第2期はこれで着地というところを、このアルバムで出せたんじゃないかなと思います。
ーー「もっと欲しい」と思わせて一旦終わるのが、締め方としてはベストですものね。それができた1枚なんじゃないかなと思いました。
南條:うんうん。
八木沼:リスナーの皆さんにもそう思ってもらえたら、最高ですよね。
ーー南條さん、今作のレコーディングにはどういった姿勢で臨みましたか?
南條:ボーカルではいつもと同じスタンスで臨むことができたんですけど、「ラストアルバム」ということはレコーディングしながら常に感じていたので、モノ作りという面において最後にファンの皆さんにどんな言葉を残していけるかなということを考えたのが、今までのアルバムとの大きな違いかなと思います。今までのアルバムはfripSideらしい歌詞というか、fripSideの雰囲気の中でどういった歌詞が書けるか、fripSideらしい言葉を選びながら歌詞の中でどれだけ物語を作れるかということを楽しみながら書かせていただいていたんですけど、今回は私個人からのメッセージ性がより強い部分もありつつ、でも全部それだとクドイので、最後のアルバムとはいえfripSideの世界観の中での物語というのも書きたいなと。今作は作詞もたくさんさせてもらったので、いろんな書き方ができて面白かったなと思いますね。そこも含めて、やり残したことがないと言い切れる歌を表現できたらいいなと思っていました。
ーーメロディライン的にはかなり起伏が激しかったりと、歌うのが難しそうな楽曲も含まれていますよね。
八木沼:確かに。
南條:難しかったといえば、sat(八木沼)さんが20代の頃に作ったという楽曲が2曲(「Your breeze」「regret」)含まれていて、それはここ最近のfripSideとは違った作りなのもあって難しかったですね。
八木沼:「Your breeze」と「regret」は僕が20代前半に書いた曲なんです。当時の若さがメロディにも強く表れていて、特に「Your breeze」はブレスのタイミングがあまりなかったりするんですよね。
南條:ふふふ。大変でした(笑)。
八木沼:この2曲は第2期fripSideでいつかやりたいなと、ずっと思っていたんです。やるなら今回のアルバムしかチャンスがないので、サウンド面では思いっきり現代的にアップデートして、歌詞も当時のものが7割ぐらい、新しく差し替えたものが3割ぐらい。今回、南條さんに歌ってもらえてよかったです。でも、南條さんはきっと「ダメな曲だなあ」と思いながら歌っていたんじゃないかな(笑)。
南條:いやいや、そんなことないですよ! 今回のレコーディング中、八木沼さんが毎回「クソ曲でゴメン!」と言っていて、めっちゃ自虐していたのが印象的でしたね(笑)。
八木沼:曲自体のことではなくて、歌ってもらう面においてクソということです(笑)。もうちょっと歌う人のことを考えてもいいんじゃない?っていう、そういう意味で。
南條:いやいや、全然(笑)。
八木沼:聴いてもらうぶんにはいいと思うんですけどね。
南條:じゃあ、カラオケで歌ったらそう思うお客さんもいるかもしれないですね(笑)。
八木沼:カラオケに行ったら、きっとそう思うはずです(笑)。
ーー(笑)。八木沼さんが20代の頃に書いた曲だからなのか、本作の中では特に「regret」のテイストは異色ですよね。
八木沼:そうですね。僕も今46歳になりましたけど、「regret」はきっと僕らぐらいの年代が安心して楽しめる曲調じゃないかな。最近はfripSideのライブに親子で来てくださる方もいて、僕より先輩という方々もたくさんいらしているんですけど、そういう年代にはすごく響く曲になっているんじゃないかと思います。
ーー個人的には曲後半の泣きまくるギターソロ含め、かなりツボな1曲でした。
八木沼:僕もこの曲はかなり好きで、Bメロの展開とかサビのリフレインとか、若い僕にしてはすごくよくできているなと。本当に今回できてよかったです。
ーーアルバムのクライマックスをドラマチックに彩りつつ、全体を通しても良いアクセントになっていると思います。また、本作のリード曲「endless voyage」もこのタイミングならではの1曲に仕上がりましたね。
八木沼:メッセージソングであると同時に、第2期ファイナルアリーナツアーを見据えた内容になっていて。ステージで歌う南條さん、演奏する僕らバンド、客席でそれを見届けてくれているお客さん、という光景をイメージして曲も歌詞も書いたので、ライブでやったらよりエモく響くんじゃないかなと。
南條:私も最初に歌詞を読んだときや歌ったときは、ライブのステージが目に浮かびましたね。〈光溢れている 君と辿りついた場所〉というフレーズも、ステージから見える照明やペンライトが目に浮かびましたし、この〈君と辿りついた場所〉からもファイナル感が強く伝わってきたので、最後まで第2期fripSideのボーカルらしく、凛とした佇まいで歌えたらいいなと思いました。