fripSide 八木沼悟志が語る、『とある科学の超電磁砲T』OP曲で挑戦した“原点回帰”
南條愛乃(Vo)が加入した第2期として2019年に10周年を迎えたfripSide。周年イヤーから11年目と歩みを進める中で、新シングル『final phase』を2月26日にリリースした。
表題曲「final phase」は、第2期fripSideの原点とも言えるテレビアニメ『とある科学の超電磁砲』シリーズ最新作『とある科学の超電磁砲T』のOPテーマを担当。第2期fripSideの1stシングルにして『超電磁砲』とのタッグの始まりの曲である「only my railgun」から、約10年の積み重ねと今だからこそ出せるサウンドを体感できる一曲となっている。
本インタビューでは、作詞/作曲/編曲を担当する八木沼悟志(key)に、fripSideと『超電磁砲』シリーズの蜜月な関係性や原点回帰を込めたという「final phase」の制作プロセス、そして10年のキャリアから見据える未来のfripSide像を聞いた。(編集部)
お客さんが評価してくださったから10年続いている
ーー前回お話を聞いたとき(※参照:fripSide「only my railgun」から積み重ねた10年 南條愛乃と八木沼悟志が互いの変化を語る)はまさに「final phase」を制作中で、過去の『とある科学の超電磁砲』のテーマソングよりもBPMが速いという話でした。
八木沼悟志(以下、八木沼):そうですね。「only my railgun」と比べると10くらい上がっています。最近のアニメの動向として動画の動きやコマ割りが速いものが多く、疾走感が強い『超電磁砲』だとよりその風潮が端的に表れると思うんです。それに僕自身、BPMがどんどん速くなっても曲が破綻しない技術をこの10年で身に付けたのも大きくて。例えば、昔の「only my railgun」や「sister's noise」を「final phase」のテンポまで速くして聴くと、たぶん破綻してしまうんですよね。かつアレンジの妙というか、そういう技術も上手になったのかな。
結局、ダンスミュージックってテンポを上げていけば当然、音符を減らすしかないんですよ。でも、僕が多用している付点8分とか16分音符を間引かずに入れたまま速くしても破綻しないアレンジ力が、この10年で身に付いた。かつ、『超電磁砲』というのはただ戦うだけじゃなくいろんなヒューマンドラマがある、人間愛がテーマだったりするので、ただのダンスナンバーではもちろんダメ。なので、そういう行間も含めた上でテンポを速めても、それを速いとあまり感じなかったら、僕のアレンジは成功しているのかなと思います。
ーーしかも、それだけBPMが速くなっても音符を減らさず、かつメロディもどんどん洗練されていると。
八木沼:メロディに関しても、昔の自分が作ったメロディを聴くと「若いな」と思うんですよね。もちろん、若いには若いなりの良さがあると思うんですけど、でも今の自分が書くメロディのほうがやっぱりいいんですよね。悪い意味ではなくこなれてきたと思いますし、プロになれたのかなと。もちろん根本は変わらないと思うんですけど、ちょっとした味付けの違いですよね。そこは自分でもかなり研ぎ澄まされたという感覚はあるし、自信もありますし。
ーー10年の積み重ねでfripSideに求められるものもより明確になってきていますか?
八木沼:第2期fripSideとして10年活動してきましたが、その10年って僕たちだけでは成立しえないわけで。レーベルやクライアント、そして何よりお客さんが評価してくださったから10年続いているわけです。となると、fripSideに望まれる音楽の形というものがだいぶ絞れてきていると思うんですよ。その中で自分たちがどういう“いいもの”を作れるかということだと思うので、プロとして続けていく中で自分たちに求められているストロングポイントがだいぶ絞れてきているんじゃないかなと思います。
『とある科学の超電磁砲』は僕たちのホーム
ーーでは、『超電磁砲』シリーズへの楽曲提供を通して見えてきた、fripSideにおける『超電磁砲』らしさって何かみつかりましたか?
八木沼:一番大きな気づきというと、やっぱり僕と南條さんが一番自然体で作ったものが『超電磁砲』に寄り添える曲というか。実は南條さんがボーカルとして決まる前、すでに『超電磁砲』のお話はいただいていたんですよ。じゃあ、『超電磁砲』というアニメのテーマソングを作るにあたって、それに似合うボーカルは誰だろうっていう、そういう観点で彼女を選んでいるので、合わないはずがないんです。なので、僕と南條さんの組み合わせで『超電磁砲』をやるのは必然であって、僕たちが合わせにいく必要がない作品なんですね。逆に、ほかのアニメ作品やゲーム作品だと、そこは僕たちが全力で作品に合わせにいかないといけない。なので、『とある科学の超電磁砲』は僕たちのホームなんですよ。
ーーなるほど。サウンド的にはどうでしょう。南條さんのボーカリストとしての成長も大きかったとは思いますが、それに合わせるように音の聴かせ方やアレンジのテイストも少しずつ進化しているのかなと思いますが?
八木沼:それはなにも僕や南條さんだけじゃなくて、fripSideというプロジェクトチーム全体が少しずつ進歩して進化して勉強しての繰り返しで、チーム力がどんどん上がっていった結果だと思うんです。チーム一丸となって「fripSideというものをもっと突き詰めていこうじゃないか」とやってくださる背景があって、僕も南條さんもより頑張れるという良い効果がこの10年でどんどん生まれていった。当然僕らもクリエイションがやりやすくなりますし、気持ちも乗ってきます。そうやって続けていると僕の作詞・作曲・アレンジ能力というのもどんどん上がっていったんじゃないかと思いますし、南條さんも歌手としての存在感がどんどん増していったわけです。
ーー転機のようなものはあったのでしょうか?
八木沼:僕はこの10年、このチームで仕事ができてすごくよかったな、幸せだなと思いますが、それが花開いたのは2013年、「sister's noise」の頃だったんじゃないかな。あの曲ができたとき、「あ、俺うまくなったな。これは売れるんじゃないの?」と思ったんですよ。レコーディングも手応えを非常に感じたし、実際、数字となって結果が表れましたからね。
そういう成長が一番わかりやすいのは、実はシングルよりもアルバムを聴いていただくことだと思うんですよ。アルバムを1枚聴き終えて、また次の1枚を聴くと、その間が1年2年と空いていたりするのでだいぶ違いを感じるんじゃないかな。僕の中では『infinite synthesis』から『infinite synthesis 3』までと、『infinite synthesis 4』と『infinite synthesis 5』というのが全然違うんですよ。今聴くと『infinite synthesis 3』までは、僕の中ではまだ甘えが見えるんですけど、それが当時の僕の技術的限界だった。一方、『infinity synthesis 4』と『『infinite synthesis 5』には『infinite synthesis 3』までにはなかった余裕を感じるんです。
ーーそれはソングライターやアレンジャーとしての?
八木沼:両方かな。でも、ソングライティングの部分が大きいかもしれない。あんまり自分の過去の作品を否定したくはないけど、『infinite synthesis 3』までの楽曲はメロディ的に「今だったらこうしないだろうな」というものが多いんです。だから、最近は本当にメロディを研ぎ澄ますという点がうまくなったなと思っています。