『infinite synthesis 5』インタビュー
fripSide「only my railgun」から積み重ねた10年 南條愛乃と八木沼悟志が互いの変化を語る
八木沼悟志と南條愛乃によるfripSideが、10月30日にニューアルバム『infinite synthesis 5』をリリースした。南條愛乃が2009年に加入し、2019年で10周年を迎えた第2期fripSide。11月4日から10カ所10公演の周年記念ツアーをスタートし、ツアーファイナルとして2020年4月に横浜アリーナでライブを開催するほか、さらにアニメ『とある科学の超電磁砲』第3期のオープニング曲にも決定するなど、大きなニュースが続いている。
2010年からスタートした『infinite synthesis』シリーズも今作で5枚目。90年代から続く日本のエレクトロポップを現代的に突き詰め続ける八木沼と、ソロ歌手としても活躍する南條の二人にグループメイトとして感じるお互いのアーティストとしての変化、二人三脚で積み重ねた第2期fripSideとしての10年間について話を聞いた。(編集部)
「only my railgun」の功績
ーー第2期fripSideがテレビアニメ『とある科学の超電磁砲』のテーマソング「only my railgun」をリリースしてからもう10年経つんですね。
南條愛乃(以下、南條):そうなんですよね。私が加入したタイミングなので。
ーー正直「そんなに経ったんだ!」と驚いてしまって。
八木沼悟志(以下、八木沼):皆さんおっしゃるんですよね、「10年って! ついこないだじゃないの?」って。
南條:私たちからしてもあっという間で、「ついこないだじゃない?」みたいな感覚なんですけどね。最近は、放送当時は『超電磁砲』を知らない小学生だった子が成長してオタクになり、ありがたいことにいろんな人に「only my railgun」をカバーしてもらっているので、そのカバーから「only my railgun」を知って、私たちのオリジナルを知り、そこからまた『超電磁砲』を知るという逆輸入みたいなケースもあるみたいで。10年ってそういうことなんだなって驚かされます。
ーー確かにそういう声はよく耳にします。
南條:私たちはフェスやライブで毎回歌って、切っても切り離せない関係で10年やってきて。ここ最近はロックフェスのステージにも立たせてもらって、そこで「生で初めて聴けてうれしかったです!」と言ってもらえると、まだまだ歌いがいのある曲なんだなと実感します。
八木沼:そうだね。もう何百回とやってきて、いまだにそう言ってもらえるのは本当にありがたいです。
南條:なので、「only my railgun」から10年のタイミングに『超電磁砲』新シリーズのテーマソングをやらせていただけるのって、本当にうれしくて。だって、すごくないですか? 9年とか8年みたいなタイミングじゃなくて、狙ったかのように。だから、今からすごく楽しみなんです。
ーー「もう10年経つんだ」という言葉には、この曲をまったく古く感じないという意味も込められていると思うんですよ。
八木沼:今、ちょうど『超電磁砲』第3期の楽曲を作っているんですけど、「only my railgun」を聴き返すとテンポが10年前の感覚で、若干遅く感じるんですよ。
南條:当時はめっちゃ速かったですけどね。
八木沼:当時のアニソンと比べたら「速ぇ!」みたいな。
南條:歌おうとすると「口が回らない!」みたいな(笑)。そこからどんどん、もっと速い曲がいっぱい出てきたし。
八木沼:実は「only my railgun」ってBPMが130ぐらいなんです。
ーー思ったよりも速くないんですね。
八木沼:そうなんです。この10年で音楽業界もアニソン業界もいろいろ変わってきていますし、そういう部分で変化は感じますね。
今の歌い方は嫌いじゃないし、昔の歌い方は真似できない(南條)
ーーこの10年で音楽シーン自体も大きく変わりましたよね。
八木沼:いろんなコンテンツがあふれている中で、いろんな取捨選択ができる。そういう多様性に満ちたシーンの中で、fripSideの立ち位置を今も守れているのは、やっぱりこの方(南條)のおかげでもあるんですよね。
南條:いやいやいや(笑)。
ーーそんな中、「only my railgun」を含むfripSideの楽曲やサウンドって90年代に青春時代を過ごした世代からすると、すごくど真ん中だと思うんです。だけど、そこにノスタルジーみたいなものはなく、ちゃんと今の音として鳴っている印象が強い。古びないというのは、使っている音色によるものなのか、ちょっとした音の重ね方やアレンジの妙なのか、何が理由なんでしょうね?
八木沼:う~ん、どうなんだろう? そういうことを自分でちゃんと考えたことがなくて(笑)。90年代のJ-POPって相当作り込まれていて、よくできていた印象が強いですよね。あの当時って、世のクリエイター、アレンジャーの皆さんの中でDTM(デスクトップミュージック)がひとつ社会的地位を得て、音楽を作ることを楽しんでいた時代だったと思うんです。で、今はソフトもハードももっと便利になって、アマチュアでも簡単に音楽制作ができるようになった。でも、この手のジャンルの音楽は模倣するのは簡単なんですけど、微妙な味付けで聴いた印象が変わるというか、実はアレンジするのが難しいんですよね。
なので、fripSideとしてこの手のサウンドをどこまで現代風に突き詰めていけるのか、その先の未来に何が待っているのかとか、2019年という現代の音楽シーンの世相を捉えつつ、「デジタルミュージックだけどコードとメロディがしっかりした歌モノ」という部分は踏み外さないように意識して作っているところではあります。ただ、そこもだいぶ歌に助けられていると思っていて。
南條:いやいやいや(笑)。
ーーと同時に、この10年の歴史というのは南條さんの歌い手としての歴史でもあるわけですよね。特にデビュー曲である「only my railgun」を聴いてから最近の楽曲に触れると、南條さんの声が太くなっていたり歌い方の個性も強くなっていたりと、作品を重ねるごとに進化を感じますし。
南條:今「only my railgun」や初期の頃の曲を聴くと、声が超ピュアで繊細なんですよね。特に初期の頃は「fripSideのボーカルだから」とか「fripSideだから」ということを考えていて、「もっと強くなりたい、強く歌いたい」という思いから毎回いろいろ試しながら頑張っていたんですけど、最近は昔も今も、どっちもいいとしか言えなくて。今の歌い方も自分は嫌いじゃないし、ただ昔の歌い方はもう絶対に真似できないし、あの声を出そうと思っても出ない。どっちも正解なんですよね。