牧野由依、麻倉もも、青山吉能……春へと向かう節目の季節を彩る女性声優の歌声
3月も終わりに近づき、新年度・新生活に胸躍る4月も目前。肌寒さ残る日もまだあるが、街中で聴こえるBGMは暖かな季節へ向かう人たちの背中を押すナンバーへと移り変わり、改めて春の訪れを感じる機会も増えてきた。本稿ではそんな節目を彩る上でお薦めしたい、女性声優たちの作品を紹介する。
牧野由依「Touch of Hope」
3月10日にデジタルシングル「Touch of Hope」をリリースした牧野由依。同楽曲は、昨年3月に原作が完結を迎えた『とつくにの少女』の長編アニメーション主題歌となっている。2019年に発表された短編アートアニメーションは、国内外の映画祭で高評価を得ており、昨年3月〜5月にかけてクラウドファンディングが行われるとすぐさま目標額を達成。こうした長編制作までの経緯も含め、牧野の歌声からは作品全体を包み込む大らかな愛を感じ取ることができる。せんせ(CV:福山潤)とシーヴァ(CV:高橋李依)の出会いから始まったストーリー、そして2人が辿り着いた結末とその先の世界の話までもが想起されるような楽曲だ。岩里祐穂による限られた言葉と行間で物語るリリック、『錆喰いビスコ』(TOKYO MXほか)の劇伴などを手がける椿山日南子が紡ぎ出したやわらかくも力強いメロディ、作品世界をしっかりと理解し、全身全霊で表現する牧野のボーカルが重なり生まれたここでしか聴くことのできないハーモニーは、別れと出会いが行き交うこの季節にこそ響いて欲しい1曲である。
麻倉もも『彩色硝子』
昨年11月ソロアーティストデビュー5周年を迎えた麻倉ももの、通算10枚目のシングルは、『彩色硝子』と書いて“ステンドグラス”と読む。跳ねるジャズピアノ、ファンキーなギター、変拍子で先の読めない展開がクセになる表題曲は、繰り返し聴くたびに発見のあるミドルナンバーに。麻倉の幸福感溢れるボーカルも素晴らしいが、軽快なリズムの上に乗るリリックにおける韻の踏み方も絶妙な1曲だ。一聴するとラフな装いに感じるかもしれないが、その中身はギミック満載。そんなテクニカルな部分を感じさせない麻倉のスキルフルな歌声は、カップリングの「ネムイケド」でも同様に聴くことができる。打ち込みをベースとしたディスコチューンだが、こちらはカップリングらしく言葉遊びも楽しめる。楽曲を歌う麻倉のメタ視点も盛り込まれた「ネムイケド」、春めく季節にピッタリの「彩色硝子」の2曲が収録されたシングルは、彼女のアーティスト活動における新しい扉を叩く1枚になったはずだ。