稲葉浩志、トップランナーであり続ける稀代の表現者 全盛期を塗り替えていくボーカルと深みのある作詞

 1988年のデビューから53枚のシングルと21枚のオリジナルアルバムを発表し、多くのミリオンセラーナンバーを生み出してきた日本を代表するロックバンド B’z。34年目を迎えた2021年以降、B’zはひとつの転換期を迎えている。いつものB'zであり続ける安心感から、まだ見ぬ新しいB'zへのシフトチェンジ。一段ギアを上げた攻めの姿勢が昨年以降の活動から垣間見えてくる。

 例えば、とうとう解禁されたサブスクでの楽曲配信を皮切りに、Mr.ChildrenやGLAYとの対バンライブの開催、稲葉浩志としては映画『SING/シング:ネクストステージ』への声優としての出演やTK from 凛として時雨の楽曲への客演など、新たなチャレンジを立て続けに発表している。このような新たな試みによって、B’zを聴いてきたリスナーだけでなく、これまでB’zとの接点が少なかった若年層にも彼らの音楽が届く機会が多くなり、B'zに対する再発見、再評価の動きが始まっている。

TK from 凛として時雨 / Scratch (with 稲葉浩志)Trailer

 ギタリスト・松本孝弘による作曲、ボーカリスト・稲葉浩志による作詞と、はっきりした分業によって作り出されるB'zの楽曲。2011年にグラミー賞の最優秀ポップ・インストゥルメンタル・アルバムを受賞するなど、ギタリストとして評価が定まってきている松本に対し、ボーカリストとしてあまりにもアイコニックな存在であるからか、稲葉個人の、とりわけ作詞家としての抜きん出た才能が見落とされがちである。この機会に、改めて表現者としての稲葉浩志を考察していきたい。

 稲葉を日本を代表するボーカリストたらしめている所以は、「もう一度キスしたかった」や「MOTEL」のような楽曲でのブルージーで豊かな低音域から、「ギリギリchop」や「Liar! Liar!」での激しいシャウトに象徴されるハードロック的な高音域まで、自在に歌いのける高い歌唱力にあるだろう。音域の広さのみならず、声量も凄まじく、1999年に横浜国際総合競技場(現日産スタジアム)で行われた『B’z LIVE-GYM '99 "Brotherhood"』では、マイクを通さずアカペラで1stソロシングル曲「遠くまで」の一節を歌い上げるほどの声量を誇っている。ホール規模であればまだしも、スタジアム規模でマイクを通さない生声を届けられるボーカリストは、稲葉以外にほとんどいないだろう。

B'z / MOTEL
B'z / ギリギリchop

 このように、まるでボーカリストとしての資質を生まれながらに持ち合わせた神がかり的な存在に見える稲葉浩志だが、彼の才能は天才というよりむしろ秀才に近いといえる。声帯ほど繊細で気まぐれな楽器はないと言われるほど、ボーカリストにとって体調管理は重要なものだが、稲葉の体調管理へのストイックさには、並々ならぬものがある。2008年に放送されたNHKスペシャル『メガヒットの秘密 ~20年目のB'z~』では、稲葉の体調管理へのこだわりが映し出されており、日々のトレーニングだけでなくライブの楽屋では湿度を保つため、扉に目張りをした上で何台もの加湿器を稼働させ、夏場であっても冷たいものは口にしないようにするなど、声帯の管理には細心の注意を払っている様子が窺える。また、稲葉浩志 Official Website「en-zine」のスペシャルコンテンツとしてYouTubeで公開された、Mr.Children 桜井和寿との対談では、喉の加湿に用いる吸入器の機種で、何を愛用しているかという話題で盛り上がるなど、喉のケアに対するこだわりの強さも感じさせた。もちろん、ボーカリストの資質は、天賦の能力による部分も大きいが、与えられた才能を最高の状態で持続させることのできるアーティストは決して多くない。そのようななか、稲葉のボーカルは、新曲が出るたびに、ライブツアーを回るたびに全盛期を塗り替えていく末恐ろしさがある。

桜井和寿 × 稲葉浩志 / Vocalist対談

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