ずっと真夜中でいいのに。の音楽表現に訪れた大きな変化 豊かなサウンドの絡み合いから生まれる新しいグルーヴ
まずは1曲目「違う曲にしようよ」のイントロを奏でるドラム、ベース、ピアノの音色の柔らかさにハッとさせられる。ずっと真夜中でいいのに。はデビュー時からはっきりと生音志向を打ち出している音楽ユニットで、それは主要曲でフィリー・ソウル的ストリングスを大々的にフィーチャーしていた2021年のフルアルバム『ぐされ』でも明確に推し進められていたが、今回のミニアルバム『伸び仕草懲りて暇乞い』ではさらにネオソウルやジャズをレファレンスとしたサウンドのテクスチャー、そしてリズムのタメやユレまでその手中に収めた感がある。
思い出すのは、ACAねが2021年の1月にApple Musicでシェアしていたプレイリスト「New Year Starters 2021」だ(※1)。ジャコ・パストリアスに始まり、シルヴィア・ストリプリン「Give Me Your Love」をサンプリングしたアーマンド・ヴァン・ヘルデン、グルーヴ・セオリーと続き、ディアンジェロやケロ・ワンを経由して最後にシェリル・リン「Got To Be Real」で締めくくられたそのプレイリストは、それまで「サターン」や「MILABO」に関して自分が指摘してきたずとまよのディスコ・クラシックへの傾倒の裏付けがとれたことで当時も大いに興奮したが(今作でも「猫リセット」の間奏では典型的なディスコ調のベースラインが顔を出し、「ばかじゃないのに」ではナイル・ロジャース風のリズムギターのカッティングが曲をドライブさせていく)、その時点ですでに引かれていたネオソウルやジャズへの補助線が、ここにきて顕在化してきたということだろう。
もう一つここで指摘しておきたいのは、2020年3月以降、ここまで約2年間に及ぶパンデミック期において、当時の社会情勢の中で横並び的に中止となった公演はあったものの、ずとまよは断固たる姿勢で継続的にライブ活動を(もちろん入場者数の制限をはじめとする感染予防対策は万全にして)行ってきたユニット/バンドであるということだ。昨今、ライブ活動というとビジネスの側面が強調されることも多いが(言うまでもなくビジネスも大事なことだ)、パンデミック期に入る約1年半前にデビューしたばかりのずとまよのようなユニット/バンドにとって、ライブバンドとしての歩みが何年も止まってしまうことは、ユニット/バンドの成長にとって死活問題だという認識があったのではないか。それを踏まえると、ずとまよの現在のポピュラリティからするとビジネスとしてはまったく割が合わないように思える、今年3月のビルボード大阪とビルボード東京それぞれ1日だけ行われる『「ZUTOMAYO PLUGLESS」at. ビルボードライブ』の意義もよくわかる。ずとまよの新しいグルーヴが刻まれた『伸び仕草懲りて暇乞い』は、そのようにどんな時にもライブの場数を踏み続けてきたからこそ手にすることができた成果と言えるのではないか。
もちろん、『伸び仕草懲りて暇乞い』はソフトでグルーヴィなだけの作品ではない。というか、そもそも前述した「違う曲にしようよ」のイントロだって15秒後にはいきなりノイズで分断されて、まさに「違う曲」にチェンジしたかのようにACAねのラップが始まる。最も実験的でエクストリーム感のある曲といえば、先行曲「猫リセット」のチップチューン(家庭用ビデオゲーム音源を使用したエレクトロニックミュージックのジャンル)風のサウンドだろう。ただ、そこで重要なポイントは、本作ではこれまでの作品にもあったそのようなノイズやデジタルなサウンドと生音の絡み方が驚くほど有機的になっているのだ。