パンデミック期でも“何一つも奪われてない”、ずっと真夜中でいいのに。の強さ 『CLEANING LABO「温れ落ち度」』レポート

ずとまよ『温れ落ち度』レポート

 2020年3月以降、パンデミック期に入ってから現場で見たライブでは圧倒的に「ベスト!」と言えるライブだった。5月15日と16日、幕張メッセ幕張イベントホールで開催された“ずっと真夜中でいいのに。”(以下、ずとまよ)の『CLEANING LABO「温れ落ち度」』。ずとまよにとって過去最大キャパとなる本公演の開催が発表されたのは2019年11月27日のこと。2020年1月1日には『クリーニングライブ「定期連絡の業務」』というタイトルも追って発表された。アルバムやEPに紐づいたツアーではなく、「定期連絡の業務」としてのライブを幕張メッセのような大バコでやってしまおうという企て。そこには様々なアイデアや洒落っ気が込められていたに違いないが、新型コロナウイルスのパンデミックによって、そうした巧妙な仕掛けはひとたまりもなく吹っ飛んでしまった。2020年5月に予定されていた公演は、同年8月に延期されることが一度発表された後、さらに再延期されることが発表。つまり、今回の『CLEANING LABO「温れ落ち度」』は発表から約1年半、当初の開催日程から約1年の年月を経てようやく実現した念願&待望の公演だったわけだ。

 ずとまよのように破竹の勢いにあるキャリアのまだ浅いバンドにとって、1年、あるいは1年半の時間が持つ重要性は、すでにポジションを築き上げているバンドの5年にも10年にも値する。実際、今回のライブが延期された1年の間にも、ずとまよはミニアルバムを1作(『朗らかな皮膚とて不服』)、フルアルバムを1作(『ぐされ』)、そして多くの配信シングルや新しいミュージックビデオをコンスタントにリリースしてきた。ライブ活動としても、『クリーニングライブ「定期連絡の業務」』の一度目の延期日だった2020年8月6日にはオンラインライブ『NIWA TO NIRA』を、2020年11月には東京ガーデンシアターで『やきやきヤンキーツアー(炙りと燻製編)』を行っている。2021年1月に予定されていた『やきやきヤンキーツアー(炙りと燻製編)』の横浜公演と大阪公演を中止にせざるを得なかったことをはじめ、ライブ活動においては悔しい思いも重ねてきたわけだが、顔出しナシのままで30分丸ごとフィーチャーされたまさかのテレビ初出演(NHK『SONGS』2021年1月30日放送)も含め、「とにかくやれることは全部やってきた」のがパンデミック期に入ってからのずとまよだった。

 約1年の延期によって、ずとまよの「定期連絡の業務」には新たに意味が加わることとなった。一つは、『ぐされ』を発表してから初のライブということで、本来だったら行われるはずだったに違いないリリース後の全国ツアーの代替としてのライブという意味。もう一つは、『やきやきヤンキーツアー(炙りと燻製編)』と順番が入れ替わったことによって、ライブアクトとしても次のフェイズを見せる局面になったということ。そして、その二点において今回の『CLEANING LABO「温れ落ち度」』はあまりにも完璧なステージだった。

 『ぐされ』におけるずとまよの音楽的進化を象徴していたのは、冒頭の「胸の煙」に代表される70年代歌謡曲的な生ストリングスの大々的な導入と、「機械油」「過眠」「ろんりねす」などに顕著だった実験的(非ポップス的)なアレンジや構成への挑戦だった。そんな、一見両極端にも思える要素を、宇宙STRINGSsss、吉田悠&吉田匡(Open Reel Ensemble)、小山豊(津軽三味線)を「スペシャルLABOメン」として加えた今回の大所帯編成版ずとまよは完璧に実演してみせていた。特に、これまでのずとまよの多くの曲と違って派手な転調や展開がないことからアルバムにおいては終盤の箸休め的な曲という印象もあった「過眠」が、一転して演出的にもACAねの歌唱的にもライブのクライマックスの一つとなっていたことに、息を呑まずにはいられなかった。

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