『アイドル楽曲大賞アフタートーク 2021』(メジャー編)
不動のエビ中、AKB48の返り咲き、TikTokブレイクの超とき宣……論客4者が振り返る、2021年のアイドルシーン
アイドルが1年間に発表した曲を順位付けして楽しもうという催し『アイドル楽曲大賞』。今年のメジャーアイドル楽曲部門は私立恵比寿中学が「イヤフォン・ライオット」で1位を獲得。これで、エビ中がトップを飾るのは2019年から3年連続の1位となる。もはや『アイドル楽曲大賞』常連組と言えるフィロソフィーのダンスやわーすたのほかにも、超ときめき♡宣伝部、CYNHNといったグループが勢いを見せる中、AKB48、Perfumeの2組が久々にトップ10へと返り咲いてるのが今年の大きな特徴だ。
リアルサウンドでは今回も『アイドル楽曲大賞アフタートーク』と題した座談会を開き、ライターとして企画・編集・選盤した書籍『アイドル楽曲ディスクガイド』を著書に持つイベント主宰のピロスエ氏、コメンテーター登壇者からはアイドル専門ライターであり、『VIDEOTHINK』制作・運営に携わる岡島紳士氏、著書に『渡辺淳之介 アイドルをクリエイトする』を持つ音楽評論家の宗像明将、(コロナ禍以前は)日本各地を飛び回るDD(誰でも大好き)ヲタの中でも突出した活動が目立っていたガリバー氏が参加してもらった。前編では、先行きの見えないコロナ禍でのアイドルシーンにおいて、メジャーだからこそ望むメッセージを放つラストとなった。
なお、今回で『アイドル楽曲大賞』も10回目に。もともとは2010年、2011年に『ハロプロ楽曲大賞』内の一部門の『アイドル楽曲部門』として開催していたのが、2012年から独立したイベントとして開かれているため、統計すると12回目となる。2010年の1位はももいろクローバー「行くぜっ! 怪盗少女」、2011年は東京女子流「鼓動の秘密」と『アイドル楽曲大賞』のランキングを追うことで、この12年(10年+2年)におけるアイドルシーンの変遷が見えてくるはずだ。(渡辺彰浩)※本取材は2022年1月5日に実施。
1位は私立恵比寿中学「イヤフォン・ライオット」
ーー今年は私立恵比寿中学「イヤフォン・ライオット」が1位に輝きました。これでエビ中は2019年から3年連続の1位になります。エビ中にとって「イヤフォン・ライオット」はどういった楽曲ですか?
岡島紳士:悪性リンパ腫の治療のため2020年10月よりグループ活動から離れていた安本彩花さんが昨年7月に復帰しました。そこから新メンバーの桜木心菜さん、小久保柚乃さん、風見和香さんが加入し9人体制として初の楽曲ですね。
ガリバー:エビ中は「イヤフォン・ライオット」で、今までの節目のシングルとは明らかに違ったモードを打ち出してきた。安本さんが非常にデリケートな状態からあれだけ明るく前向きに、力強い女性として戻ってきた上に、新メンバーも加わってどういう楽曲にするのか、悩ましい判断があった事は想像に難くないです。しかし新体制一発目を象徴する楽曲としては納得の仕上がりです。盤石の杉山勝彦さんが作曲したトラックは運営側にも確信をもたらしたのではないでしょうか。
ピロスエ:作詞は児玉雨子さんで、エビ中への作詞提供は「おめかしフィーバー」「23回目のサマーナイト」に続いてこれで3曲目ですね。
岡島:楽曲の歌詞とグループの物語性がどこまでシフトするのかをビジネス的に考えた時、新メンバーのことも考慮しながらバランスを取って方向性は決めていると思うんですけど、ファンに向けて暗い楽曲では帰ってくることはできないと思うんですよね。
宗像明将(以下、宗像):児玉雨子さんによる、コロナ禍の若者のメンタリティを象徴する〈奴らは言う Just a moment うちらにとっちゃ10億年〉このフレーズに尽きると思うんです。メンバーの思いをズバッと代弁した曲が1位というのは大きいと個人的には思いましたね。
ーー2009年に結成されたエビ中も紆余曲折を経て、2021年に新体制としてリスタートしているわけですが、ファン層は入れ替わったりしているんですか?
ガリバー:去年、久しぶりにツアーに行ったんですけど、びっくりするくらいファン層が若くて衝撃的な光景でした。首都圏と地方とではまた客層も違うらしいんですけど、確実にファン層は入れ替わっていて、これはあくまで推測ですけどSTARDUST PLANET内でのファンの循環が上手くいってるんだろうなと。『スタプラアイドルフェスティバル』はももいろクローバーZと私立恵比寿中学を筆頭にスターダストに興味を持ったファンがほかのグループを見つけるいいきっかけになっていますし、その効果が表れている気がします。ハロDD(ハロプロ全体を推すファン)に似た、“スタプラ勢”みたいなのが着実に育っていっているような流れを感じます。
AKB48が「恋するフォーチュンクッキー」以来の上位入賞
ーーAKB48「根も葉もRumor」が2位となりました。
宗像:発表した時に会場では「マジか!」みたいな声が起きていて、1位だと思った人も多かったと思うんです。AKB48がここまで上位にくるのは久しぶりのはず。
ガリバー:2013年の「恋するフォーチュンクッキー」以来ですよね。
宗像:アイドル楽曲大賞はファンクミュージックに対する評価が高いですから。昨年、『NHK紅白歌合戦』への出場は叶いませんでしたけど、この「根も葉もRumor」でAKB48はかなり人気を取り戻した。特にYouTubeでは、「恋するフォーチュンクッキー」の時のようにダンスプラクティスとかコラボ動画を上げたりしていて、時間をかけてプロモーションをしていた効果が出ている印象があります。
ピロスエ:今のAKB48は、モーニング娘。に例えるとプラチナ期の時期なんじゃないですかね。『紅白』に関しても、娘。と同じ道を辿ってるなと思いますし、一般人気は下がっているかもしれないけど、好きな人は好きで評価する人は評価している。
ガリバー:グループとしてはメンバーも運営側も負け癖のようなものができていたり、コロナ禍の影響もあり姉妹グループの運営会社が分かれていく中での、1年半ぶりのしかもAKB48単独としてのシングルだった。そういった状況の中、2021年の一番のトピックがIZ*ONEの活動終了で、世界を舞台に活動していた本田仁美がAKB48に帰ってくるわけですよね。その受け皿としてダンスに方向転換していったのはある種の必然であって、彼女たちが非常にライバル視する坂道グループとは違って、日々劇場で積み重ねてきたパフォーマンス力とダンスが上手いメンバーが沢山いることをバックグラウンドとして見せつけたのが「根も葉もRumor」だと思います。ロックダンスを乗せるにはかっこいいトラックですし、そこがハマった。でも、僕はAKB48が向かう道がパフォーマンスの方向なのかっていうと、それが正解かは分からないです。歌唱力No.1決定戦等の試みも含め、挑戦自体はもちろん評価しますけど、ダンスが上手いというカテゴリではK-POPに勝てない。AKB48ですから、そこはどんと構えて欲しいと思いつつも、ここからの舵取りはまた難しいですよね。
宗像:「根も葉もRumor」って曲名はなにを言ってるか分からないんですけど、フレーズ的には上手いですよね。歌詞には〈だってあの頃はまだ ポニーテールにシュシュ〉というセルフオマージュが入っていたりして、作詞家としての秋元康さんの輝きを感じます。
ガリバー:=LOVEや≠MEをプロデュースしている指原莉乃さんの作詞能力は高いです。
宗像:イコラブ、ノイミーの歌詞は情景描写が丁寧なんですよ。音の踏み方もナチュラルで上手い。そこはヒップホップを通っているかで違うと思う。指原莉乃という作詞家を生んだのも秋元先生の功績として讃えたいと思いますね。