“歌の力”が試された2020年ーー論客4名が語る、コロナ下のアイドルシーンで生まれた大きな変化

“歌の力”が試された2020年ーー論客4名が語る、コロナ下のアイドルシーンで生まれた大きな変化

 アイドルが1年間に発表した曲を順位付けして楽しもうという催し『アイドル楽曲大賞』。今年のメジャーアイドル楽曲部門は私立恵比寿中学が「ジャンプ」で1位を獲得。エビ中がトップを飾るのは昨年に続き2年連続となる。ほかにも、『アイドル楽曲大賞』常連組であるフィロソフィーのダンスや昨年惜しまれつつも解散したsora tob sakana、昨年からランキング急上昇を見せたCYNHN、2020年社会現象を巻き起こしたNiziUなどがランクインしている。

 リアルサウンドでは今回も『アイドル楽曲大賞アフタートーク』と題した座談会を開催し、ライターとして企画・編集・選盤した書籍『アイドル楽曲ディスクガイド』を著書に持つイベント主宰のピロスエ氏、コメンテーター登壇者からはアイドル専門ライターであり、『VIDEOTHINK』制作・運営に携わる岡島紳士氏、著書に『渡辺淳之介 アイドルをクリエイトする』を持つ音楽評論家の宗像明将、(コロナ禍以前は)日本各地を飛び回るDD(誰でも大好き)ヲタの中でも突出した活動が目立っていたガリバー氏が参加。前編では、コロナ禍によって大きく様変わりした2020年のアイドルシーンにおいて、上位にランキングした楽曲の共通項を見つけていった。

 なお、今年から『アイドル楽曲大賞』の投票システムが変更に。昨年までは、1人が持っている5曲の権利を全て同じグループに投票することができたが、今年からは1グループ1曲の縛りとなった。これは、自分の知らなかった楽曲が上位に入ることによって、その楽曲が多くの人に知られるランキングとして機能してほしいという主宰サイドの思いから。結果的に、sora tob sakanaが同じアルバムから7位と9位、フィロソフィーのダンスがバージョン違いの楽曲を4位と19位にランクインさせるなど、よりグループや楽曲そのものの人気度が反映される健全な結果となっている。(渡辺彰浩)※本取材は2020年12月に実施

私立恵比寿中学「ジャンプ」が首位を獲得

私立恵比寿中学 『ジャンプ』MV 

ーー今年のメジャー部門は昨年に引き続き、私立恵比寿中学(略称:エビ中)が1位でした。楽曲の「ジャンプ」は、アルバム『playlist』に収録されている1曲ですが、昨年の取材時点でピロスエさんが「このアルバムの楽曲は来年入ってくる」と話題に挙げていたのを覚えています。

ピロスエ:それが「ジャンプ」じゃなかったっけ? これがアルバムの中で一番いいよね。

岡島紳士(以下、岡島):これは安本(彩花)さんがフィーチャーされている曲で、エビ中のファンが今年の1曲に入れるとしたら絶対にこの曲なんですよ。安本さんが〈今だ〉と叫ぶフレーズがあるんですけど、2019年10月に休業に入ることが発表されて、その歌詞を安本さんが言えないまま、コロナ禍に入っていくんです。2020年の3月に活動を再開し、6月に初めて披露した時のライブがエモーショナルで。さらに10月には生誕ライブが開催されて「ジャンプ」をアカペラで歌ったんです。安本さんの歌唱力は『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)の企画(「令和のアイドル界で厳選!スゴいボーカリスト10人」)で取り上げられるくらいに、ボーカル力が上がってると言われています。まさにそれを証明するようなライブだった。けれど、同月の29日には、悪性リンパ腫と診断されて休養することになってしまったんです。エビ中のこの1年は、安本さんのストーリーが大きくて、だからこそファンが投票するとしたらこの曲だったんだろうなと思いますね。

ーー石崎ひゅーいプロデュースということで、楽曲についてはいかかですか?

宗像明将(以下、宗像):この曲の持ってる切迫感とかサビにおける壮大さが、エビ中のボーカリストグループとしての魅力を最大限に引き出しているんですよね。エビ中は様々なオンラインライブに出てましたけど、やっぱりエビ中ってものすごく強いんですね。彼女たちの置かれた状況と重ねてしまうのかもしれないけど、歌の魅力を最大に引き出しているのがこの曲なんだろうなと思います。2位のCYNHNと被ってくるんですけど、ボーカルものとしては異様に高いクオリティなので、曲を聴いてどれだけ胸を動かされるかということで、この楽曲が選ばれるのは妥当な印象を持ちますね。

CYNHN「水生」Music Video

ーー2位は話題にも挙がったCYNHNの「水生」となりました。

宗像:桜坂真愛さんが抜けて、5人になって1発目の曲が「水生」だったんですね。その後に、崎乃奏音さんの一時休養が発表されて4人になるんですけど。メインソングライターの渡辺翔さんが作った訴求力のある楽曲なんですが、ぶっちゃけ2位という順位にはびっくりしました。CYNHNって分かりづらいんですよ。根本的にグループ名が読めない、かつラブソングというものが極端に少ない。内面を描くような曲が多いグループなんですね。そういうグループが2位に来たのには驚いています。クリエイティブの積み重ねとしか言いようがないですよね。ボーカルグループとしての成長の積み重ねがここまで評価を上げてきた。エビ中の「ジャンプ」にもいろんなストーリーがあると思うんですけど、「水生」もまたCYNHNの逆境における1曲であったと。そこに対して、このご時世重なるものがあったのかなとは思いますよね。

ガリバー:この1年を大阪で過ごした身としては、正直CYNHNの勢いはそんなに届いてこなかったという感じでした。CYNHNに限らず、例年以上に遠征が運営側もファン側もしづらい状況があったからだと思いますが。

宗像:CYNHNは、ほぼオンラインライブしかやってないんですよ。最近、有観客ライブもやるようになったんですけど、所属のディアステージが基本的に無観客中心なので。オンラインライブ、パッケージ、サブスクで聴いてもインパクトがあるのが1位、2位にきたという印象があります。

ガリバー:CYNHNは『ギュウ農フェス』のオクタゴンスピーカーを使ってのパフォーマンスが相性抜群で感激したのが記憶としてこびりついてます。

宗像:このコロナ禍で現場で盛り上がるっていうカルチャーが封じられているから、みんな歌が試されるっていうのは否応なしで、オンラインで観た時のパフォーマンスですよね。そこで勝ち上がってきたのがCYNHNであるというのは感じますね。今年一番の成り上がりはCYNHNだと思いました。

ーー乃木坂46の4期生曲「I see…」が3位になりました。

宗像:先に3位、4位に軽く触れておくと、ここがファンク&ソウルゾーンですね。この間も乃木坂46がテレビで歌ってましたけど、カップリングなのに大ヒットするという異様なことが起こるわけですよね。SMAPっぽいって言われた曲ですけど、日本人のファンクソウル系、ディスコ系の曲を聴くとSMAPを思い浮かべるという、そこにがっつりハマった。めちゃくちゃいい曲ですよね。『アイドル楽曲大賞』は、ブラックミュージックの要素があると上位に来ると言ってましたけど、1位、2位にはブラックミュージックの要素がないんですよ。それが3位に来たという。

ガリバー:この楽曲は「SMAP感」で話題になったため、作曲のyouth caseは、SMAPに楽曲提供していた人と誤解されがちなんですけど、実際は嵐を中心に提供している人なんですよ。4期生の賀喜遥香がセンターを務めていて、若さと勢いに乗っけて弾ける曲を出した。乃木坂46の1年間の話で言うと、白石麻衣の卒業がどう考えても一番のビックトピックなのに、卒業シングルの期別カップリングである「I see…」が上がってくるというのは楽曲の評価が象徴的なんだろうなと思います。

宗像:「しあわせの保護色」じゃないっていうね。「I see…」はMVの再生回数が1600万回に到達しました。去年の『TOKYO IDOL FESTIVAL』(以下『TIF』)の段階でも4期生は大人気だった。勢いのある子たちがいい曲を歌うっていう、ある種の無双状態に突入していますよね。

乃木坂46 『I see…』

ーーyouth caseは、次のシングルに収録される4期生曲「Out of the blue」も作曲していますよね。

ガリバー:曲調が近しい事を考えると「I see…」の評判を受けて続投されたんだろうなと思います。ただそういう経緯だと思われるので「I see…」に比べると楽曲としては少しインパクトが弱いんじゃないかなという……。坂道シリーズのオンラインミート&グリートも全グループ軌道に乗ってきたので、櫻坂46と日向坂46でシングルが各グループ2〜3枚出せる体制が復活する可能性を考えると、カップリング曲である「Out of the blue」がそのまま「I see…」の様に残るかは微妙ですね。「I see…」はコロナ禍のタイミングが結果的に功を奏したという稀有な曲なんです。結成10周年を迎える乃木坂に成熟した大人の女性像を重ねるのも良いのですが、同時にみんな明るくハッピーになれる曲が好きなんだなというのがよく分かりました。

フィロソフィーのダンス “ドント・ストップ・ザ・ダンス with DEZOLVE” Recording Behind The Scene

ーーフィロソフィーのダンス(略称:フィロのス)は4位に「ドント・ストップ・ザ・ダンス」、19位にバージョン違いの「ドント・ストップ・ザ・ダンス with DEZOLVE」が入りました。

宗像:去年12月の発表から、コロナ禍の中メジャーデビューしました。一番大きな変化が今まで作詞を行ってきたヤマモトショウ、全編曲を担当してきた宮野弦士の離脱。『アイドル楽曲大賞』の文脈で言うと、セカンドインパクト的な事象が起きました。「ドント・ストップ・ザ・ダンス」はヒャダインが作詞、作曲に関してはコンペ曲です。「ドント・ストップ・ザ・ダンス」のMVのコメント欄は大荒れで、かなりのアレルギーみたいなものが出てはいたんですね。ただ、19位の方のDEZOLVEが、フュージョンバンドなんですよ。そっちはコメント欄が大絶賛なんです。そこに関してはフィロのスの既存ファンが高く評価したと。「ドント・ストップ・ザ・ダンス」って賛否両論分かれたんですけど、今までのどのMVよりも再生回数のスピード感が早かったんです。ファンクラブが非常に女性が多いという話も含めて、支持が集まった曲だなという感じがしました。新しいファン層を獲得しにいってそれが成功している曲。作家陣が変わるんだから変化はするし、でも、そのままソウル要素が濃いことに対しての違和感はあった。でも、ここまで評価を得ることができたのはよかったのではないかと。

岡島:ライブもいいグループなので、コロナ禍でまた順位が伸びなかった気もしますよね。

宗像:オンラインライブで歌が強いグループが上位にきているという意味では、万全の構えだったと思います。歌は全く落ちていないので。

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