WOWOWオリジナルライブ×TK from 凛として時雨 丹修一と島本プロデューサーが語る、瞬間の熱量を切り取った舞台裏

TK from 凛として時雨×WOWOWインタビュー

アーティストと直接話をして、一から一緒に作っていく

――WOWOWからは、何か要望などあったのでしょうか?

島本:このライブはTKさんのファンだけでなく、TKさんを知らない人も観るので、コアにいきすぎず、「TKさんはこういう人です」というのもわかるように、間にインタビューやメイキングを入れたい。そういう大枠の番組構成はこちらからお伝えしました。あとはゲストですね。TKさんとの打ち合わせで、個人的に「Salyuさんとの『moving on』が観たいです」とお伝えしたら、「いいですね。お声掛けしてみましょう」とすぐに賛同いただいて。実際にSalyuさんとライブで共演したことはなかったので、自分のぼやきで実現したのはすごく嬉しかったですし、TKさん、Salyuさんに感謝してます。リハーサルのときに、TKさんから「島本さんはこの曲だけ観られればいいんですよね?」みたいに言われましたけど(笑)。

――あはは。でもいいですね、もちろんTKさんにはライブに対する強いこだわりがあると思うんですけど、そうやって周りの声に耳を傾ける柔軟性も持ってらっしゃるというか。

島本:企画が実現するまでは4年かかりましたけど(笑)、いざご一緒するとなったら、僕たちの意図もちゃんと汲んでくださって、それは本当にありがたかったです。ダメ元で「ナレーションがほしいです」と言ったら、ご自分のスタジオで録ってくださったり、「ティザー用にノイズがほしいです」と言ったら、リハ中にノイズを出してくれて。

丹:ドキュメント部分にも使いたくて、30分くらいやってくれましたよね?

島本:そうでしたね。収録から放送までの期間が短かったので、まず一発ティザーを出したいと思ったときに、曲の音は間に合わない。そこで、TKさんのライブはいつもノイズで終わるから、「ノイズをください」ってお願いしたら、ライブばりにかき鳴らしてくれました。

――他にはどんなことにこだわって撮影が行われたのでしょうか?

丹:テクニシャンの方々が集まってるバンドなので、今までのライブソースって、手元をクローズアップした抜きの素材が結構入ってたんですよね。僕もそういう表現は大好きなんですけど、今回はそれとは違う表現が何かできないかと思ったときに、あのバンドの塊の熱量みたいなものを切り取りたいと思ったんです。それで立ち位置を円形に組んで、どこから撮っても必ず誰かと重なる状態にしました。一人を撮っても、その奥に必ず誰かがいる。そういうフォーメーションにすることで、塊を表現できたらなって。やっぱりバンドの熱量がすごいんですよ。その熱はリハのときからずっと変わらず本番までありましたね。

――ライブの間に入るリハーサル映像でその雰囲気の一端は伝わってきます。

丹:TKさんのソロって、激しいものと静的なもののコントラストが強いじゃないですか? そのフラグメント、断片を時系列なく紡いで、全部観終わったときに何か意味が残るような感じにしたくて。詩人で言うと中原中也的な、並んでいる言葉をカットアウトして、ミックスアップして、放り投げたら新しい言葉が生まれる、みたいな。そういうコラージュ的なものにしたくて。最初はTKさんの個から始まり、次にバンドメンバーに入っていき、最後は一番生っぽい、というかリアルな感じになる、という3つのパートを作りました。

――演出的には途中から紗幕が加わって、光の演出をより印象的なものにしていました。

丹:「三部構成がいいんじゃない?」っていう話をTKさんと共有していたので、その三幕をどう位置付けるかを考えてた中で、「Salyuさんを最初からバンッて見せたくないですよね」っていう話もあり。存在は感じるけどはっきりしない……っていうムード作りで、紗幕を使おうと。「光と影」というテーマもあるので、そこにメンバーの巨大な影を映し出したい! 実像と影をだぶらせたい!! と思い、短冊上の紗幕枠を位置を変えながら二幕と三幕で使いました。

――アシンメトリーに配置することで、面白い映り込みになっていました。

島本:あとはサブステージですね。そこでのアコースティックパートも照明がすごくきれいで、メインステージとの棲み分けがしっかりできました。

丹:三幕構成にしようという話をするなかで、同じ場所である必要もないよね、という話もし、こういう番組だからこそできることで、移動してもいいんじゃない? って。企画当初は、車で数分の離れた場所も候補に挙げたんですけど、実際はステラシアターの敷地内で、そこをサブステージにしました。あの場所でTKさんとSalyuさんは向かい合わせに見えると思うんですが、視線はクロスしてないんですよね。あんなに近くにいるんだけどクロスしない視線。その感じがすごく良いなって。サブステージの撮影が終わったときは、幸せなムードが漂ってましたね。

島本:アコースティックコーナーということもあり、めちゃくちゃ緊張感ありましたけどね(笑)。その緊張感が良い意味で収録チームにも伝わり、素晴らしい画がたくさん撮れました。

丹:異様な緊張感、ありましたね(笑)。ほぼほぼワンテイクだったという凄まじさも含め、僕らもとても集中して撮影しました。

――最後のドキュメントパートでは、TKさんが「ライブ映像はただのライブの複製になっちゃって、画面を通してちゃんと熱量が伝わるかに疑念があったけど、丹さんと一緒に作品として作るのであれば、面白いものができるんじゃないかと思った」という趣旨のことを話していました。実際に作品が完成して、丹さんとしてはどんなことを感じましたか?

丹:瞬間の熱量は十分切り取れたんじゃないかと思います。ショーアップされた何かではなく、ヒリヒリするような瞬間のリアリティを、熱量の高い状態で切り取れたので、ドキュメンタリー作品と言ってもいいんじゃないかと思える作品になったと思います。TKさんの作品群のなかで少し立ち位置が違うものになっていれば嬉しいですね。そうあって欲しいとも願っています。この作品を作ったからかもしれませんが、もっとリアリティのある、生っぽさがむき出しになるようなものも撮ってみたいと思いました。最近は配信はもちろん、有観客でもお客さんがキャパシティの50%だったりして、アーティストとオーディエンスが乖離しているじゃないですか?

――そうですね。

丹:この前お仕事したとあるアーティストの方が「原点に帰りたい」と言ってたんです。売れてない頃に小さなライブハウスで、目の前にお客さんがいる状態でライブをするのはやっぱりすごいことで、今はそれができないけど、その原点にもう一度立ち返りたいって。それって映像も同じで、よりドキュメンタリー性が高いもので、人に感動を与えるようなものができるのであれば、それにトライしてみたいですね。

――現状リアルでは味わえない「近さ」を、ドキュメンタリー的な映像を通してなら伝えられると。

丹:そうですね。最近「ドキュメンタリー」という言葉にすごく惹かれていて、例えば、ライブ映像なんだけどカメラ一台でノーカットとか、やってみたいですね(笑)。

――オリジナルライブの可能性について、島本さんはどうお考えですか?

島本:アーティストと直接話をして、一から一緒に作っていくので、それがすごく楽しいし、どんな作品になるのかっていうワクワク感がずっとあるんです。通常のライブ収録の場合は現場にお邪魔する形になりますが、オリジナルライブとなると、TKさんのライブ制作スタッフの方々と、会場下見から演出プラン、スケジュール、予算管理まで、全部の話をして作っていくので、すごく勉強にもなります。そうやって作るからこその達成感もありますし、TKさんに喜んでもらえるものに仕上がっていれば、それ以上言うことはないなって。実際、10周年のベストアルバムの限定盤に今回の映像を特典として収録してくださったのは本当にありがたいです。4年交渉して、ある意味コロナ禍のおかげでTKさんとご一緒できました。

――TKさんは映像の中で「ライブハウスだけでは出会えない人にも届く可能性があるのでは」ということもおっしゃっていました。コロナ禍でライブのあり方が問われている中だからこそ、「オリジナルライブ」というものにさらなる意味が生まれるでしょうしね。

島本:ライブ映像を有料、無料配信するということが当たり前になってきた中、WOWOWでしか観られないものを届けるという重要性は改めて増したと思います。「WOWOWでしか作れないもの」と言うと言い過ぎかもしれないですけど、WOWOWのリソースでアーティストと一緒に一からオリジナルコンテンツを作り、お客さんに新たな発見をしてもらう。これはすごく意味のあることだと実感しています。

TK コメント

丹さんとオリジナルライブを制作した感想

丹さんとは過去にも何度もご一緒させていただいている上で、その硬質で美しい色彩をPVではなくライブ映像というものに落とし込めたらどんなものが作れるんだろう、という閃きからオファーをさせて頂きました。あれだけ多くの偉大な作品を撮っているにも関わらず、今も新しい作品を模索し続けていて僕の感性にも常に耳を傾けてくれます。僕は普段はもっとカット割りが激しく「動」の中でライブ感を見せていく映像が多いですが、あえて一つ一つのカットを長使いしたりするのは自分にとっても新鮮であり新しい挑戦でもありました。

一つの映像作品として、ライブでもPVでも実現出来ないものを丹さんだからこそ表現出来たと思います。

島本プロデューサー(WOWOW)とタッグを組んでオリジナルライブを制作した感想

元々僕が映像というものに対して、生では伝わらない、損なわれる部分に対してのアレルギーのようなものは伝わっている上でのスタートだったので、最初からお互いに同じ熱量で向き合えました。自分が今まで向き合ってこなかった理由の一つ一つをすべて撃ち抜いていくようにアイデアを重ねながら、磨き上げていけたと思います。WOWOWさんのノウハウや経験があるからこそ、僕もそこに無茶を投げることが出来ましたし、そこからさらに新しいものを創造してくれていたのもとても刺激的でした。今まで僕が作れなかったもの、作ろうとしなかったもの、に一緒に飛び込んでくれる最高のパートナーでした。

■番組情報
TK from 凛として時雨 10th Anniversary Session presented by WOWOW
12/30(木)午後3:00 [WOWOWライブ][WOWOWオンデマンド]
放送終了後~1週間アーカイブ配信あり
※この番組はWOWOWオンデマンドの無料トライアル対象外番組。

WOWOWオンライン
https://www.wowow.co.jp/

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