星野源「Cube」を語り尽くす 絶望や怒りと向き合いできた新たな居場所

星野源「Cube」を語り尽くす

希望というよりは人間の否応ない生命力として書いている

ーー「Cube」はサウンドももちろんなのですが、歌詞のアプローチにもぶっ飛ばされて。

星野:そうですか、ありがとうございます。

ーー映画の物語の世界とシアター、そこからさらに劇場の外、言ってみれば日常生活をシームレスにつなぐ歌詞といいますか。虚構と現実の境界線を曖昧にする歌詞と言えばいいのかな? ある意味ではメタ的に映画体験そのものを歌っている歌詞とも受け取れます。ともかく、エンドロールにこの歌が流れることによって映画に対する向き合い方が大きく変わってくる、そういう歌詞だと思いました。

星野:いやあ、やっぱりそういうところに気づいてくれますよね(笑)。

ーーアハハハハ。

星野:要素が多いといえば多いので、どれを話せばいいのかっていうのはあるんですけど……まずオリジナルの『キューブ』を公開当時に観たときは「おもしろいシチュエーションを考えるな」みたいな、低予算だし想像力も広がるしすごくおもしろいスリラーだと思ったんです。でも、今になって改めて観ると、この箱の中が自分たちが生きている現実とまったく変わらないと思って。そこにはすごく怒りや憤りを感じたんです。実際に製作者の方がどういう気持ちを込めたのかはわからないですけど、自分も日々怒りを感じているので、たとえキューブの中から出られたとしても四角い箱が地球という円球になっただけでなにも変わらないんだってことを歌おうと思ったんです。それはすなわち映画館という箱から出るお客さんともつながることだし、その構造に『CUBE』の題材やタイトルがすべてぴったりはまるんですよね。聴き始めると最初は映画の世界観を歌っているのだろうと思うんですけど、そのあと〈昔観た カナダの映画であった いかれた箱で殺されてゆくだけ〉という歌詞が出てくるじゃないですか。リメイク版の『CUBE』の世界にはそもそも『キューブ』という映画がないわけで。もしあったら箱の中に閉じ込められたとき「あっ、これって映画で観たシチュエーションだ!」ってなるはずですから(笑)。つまり、その歌詞が出てきた時点でこれは『CUBE』の世界について歌っているのではないんだって視点がガラッと変わるんです。

――そのフレーズが出てきた瞬間、思わず「えっ?」とスピーカーの方を振り返ってしまって。完全に他人事だと思っていた話にいきなり当事者性が出てくるんですよね。「お前も無関係ではないんだ」って。聴いていて本当にぞくっとしました。これがエンドロールで流れてきたら映画体験がより鮮烈なものになるだろうと。

星野:だからまったく違う世界のホラーなのではなくて、自分たちが直面している問題がそのまま当てはまるんですよね。あなたは地球という箱の中にいて、そこからは絶対に出られないんだっていう。そういう怖さを伝える歌になればいいなって思いました。僕はそういう意味で絶望をしっかり歌いたいと思って歌詞を書いて。もしかしたら聴く人によってはサビの部分なんかは希望を歌っていると受け取るかもしれないですけど、僕は希望というよりは人間の否応ない生命力として書いています。たとえば傷ができても自然に治っていく治癒力だったり、傷がかさぶたになって元に戻そうとする力だったり。今回は菅田(将暉)くんのお芝居が素晴らしかったから、彼のお芝居の生命力が自分の中に残っていたんだと思うんですね。だからこういう歌詞を書く気持ちになれたのだと思うし、それを希望のように感じてもらうのもいいことなのかもしれない。

――いま生命力という言葉が出ましたが、曲のクライマックスの部分、最後のサビ以降の30秒は畳み掛けるビートの高揚感もあって生きることへのセレブレーションみたいなものを感じたんですよね。これは曲の持つゴスペル的なニュアンスから喚起された部分もあるのかもしれませんが。

星野:音楽というところで考えたとき、怒りや悲しみをセレブレーションのように変換することってものすごくナチュラルなことだと思うんですよね。それは大昔から繰り返されてきたことじゃないですか。そこには自分の好きなゴスペルのイメージもある。だから今という現実がひどければひどいほどその祝祭感はのしかかってくると思うんです。生きる人の活力にもなるし、怒りや憤りを表現する手段にもなる。

――なるほど、めちゃくちゃ興味深いお話です。制作面に関してもうひとつ、今回の曲作りやレコーディングにあたってはなにか特別な取り組みはありましたか?

星野:作り方としては「創造」と一緒です。自分で打ち込んでmabanuaくんに渡して、それをまた戻して手を加えて、というのを繰り返していく感じです。コーラスアレンジはいつも亮ちゃん(長岡亮介)にお願いしているんですけど、そこは一日かけてじっくり作っていきました。どこで重ねてどこで一本にして、という段階のつけ方ですね。あと、個人的に聴いていて楽しいのは楽器の少なさかな。間奏でギターがちょっとだけ出てくるけど、ほぼドラムとベースとオルガンしか鳴っていないので。

――星野さんは今回の『CUBE』の主題歌制作を引き受けた動機として「今まで足を踏み入れたことのない場所に行くきっかけになるんじゃないか」と話していましたが、こうして実際に曲が完成してみていかがでしょう。星野さんにとって「Cube」の制作はどんな収穫がありましたか?

星野:僕は高校生のとき、本当はパンクバンドをやりたかったんですよ。パンクやオルタナティブロックが大好きで、ギターを歪ませてかき鳴らしたり、そういう曲が。いつも理由のない怒りや憤り、疎外感に付きまとわれていたんですけど、そういう音楽が吹き飛ばしてくれる感じがあって。でも周りがみんなやっているのと、今となっては余計な考えですけど自分には似合わないんじゃないかっていう変に臆病な部分があって、結局やることができなかったんです。そのあともそういう気持ちはまったく変わらなかったので、いわゆる轟音ギターとか歪ませるのとは違う方法で自分のパンク的な衝動やオルタナティブな感覚を表現しようと思ってずっとやってきて。だから、逆に生活を歌うことがオルタナティブであるとか、そういう変換をしながら音楽をやってきたんですけど、今回は映画の趣旨がストレートにサイコスリラー的だったということで、そこに対して今までブレーキをかけていた部分、ここはもうちょっと変換してやった方がいいなっていう部分を割とそのまま出せたんです。そうしたことによって、自分が今まで行ったことのない居場所ができた手応えはあって。だからこれからはさらにこういう激しい曲を作れる状態になったし、自由度がより上がったとは思いますね。それはすごくうれしいことだし、やってよかったなって思います。

■リリース情報
「Cube」(映画『CUBE 一度入ったら、最後』主題歌)
2021年10月18日(月)配信
https://jvcmusic.lnk.to/Cube

オフィシャルサイト: http://www.hoshinogen.com/

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる