【特集】10代アーティストのリアル ~Teenage Dream~
オリヴィア・ロドリゴ、ティーンからの絶大な支持を集められる理由とは? 本人コメントと共に紐解く
「ドライバーズ・ライセンス」=運転免許と題された楽曲で、瞬く間に世界に名を轟かせたオリヴィア・ロドリゴ。今年ハイスクールを卒業したばかりの18歳は、今この瞬間にも誰かの心に寄り添い、あらゆる感情を揺さぶり続けている。そんなオリヴィアを支持するファンの多くが彼女と同世代であり、楽曲やMV、またはオリヴィア自身に自らを重ねることで等身大の自分と向き合っているのではないか。本稿ではオリヴィアからのコメントを元に、「なぜティーンに影響を与える存在となったのか」を解き明かしていく。途中、日本への興味を示す姿も見せたオリヴィア、いつか来日するであろう光景も想像しながら、ぜひテキストを読み進めてほしい。(編集部)
10代に影響を与える等身大の18歳
2021年現時点における最大のヒット曲となった「ドライバーズ・ライセンス」がリリースされた今年1月、オリヴィア・ロドリゴはまだ17歳の高校生だった。学生としての当時の生活について、彼女は次のように語る。
「一番好きな科目は歴史でしたね。当時はとても真面目な学生だったけど、『ドライバーズ・ライセンス』が出てからは忙しすぎて勉強に集中する時間があまりなくなってしまって。でも、成績はいつもAをもらってました」
それまではディズニードラマに出演する俳優として、10代を中心に知名度を持っていたオリヴィアは、デビュー曲としてリリースしたこの楽曲をきっかけに世界中から絶大な注目を集めることになる。当時、Spotifyにおける1日の最多ストリーミング記録を更新し(ホリデーソングを除く)、全米・全英でデビューアルバムとデビューシングルそれぞれで1位を獲得した最年少アーティストという記録を樹立するなど、これまでのポップシーンの景色を大きく塗り替えてしまった。本稿を執筆している時点でSpotify上での同楽曲の再生回数は11億回を超えている。(2021年10月現在)
「ドライバーズ・ライセンス」は失恋による深い悲しみを描いた楽曲だが、同時にその内容はオリヴィアが主役を演じるドラマ『ハイスクール・ミュージカル:ザ・ミュージカル』(Disney+)で共演しているキャストとの実際に起きた出来事を描いたものなのではないかという憶測を呼び、大きな話題となっていった。そのため、当時は話題に頼った一過性の現象として、彼女のブレイクを冷ややかに見る向きもあったが、「good 4 u」を含むその後のシングル群、そしてデビューアルバム『SOUR』の世界的な大ヒットを経た今、彼女は見事に自らの才能を証明してみせたと言えるだろう。
ブレイクを経て、オリヴィアは世界中の人々、特に彼女と同世代の若者に影響を与える存在となった。一方、「編み物とお菓子作り、あと友達と映画を見たりするのが好き」と、世界中のティーンたちとなんら変わらないことも忘れてはならない。
ソングライティングに見る“今を生きる若者としてのリアル”
そんなアメリカのティーンとしてのオリヴィアの興味は、太平洋を隔てたここ日本にも向けられている。「(日本は)食べ物もファッションも最高ですごくキレイだって、行ったことある友達が話してた。ぜひ見に行ってみたい」と無邪気に話すオリヴィア。だが、影響力を持つ者として成すべきこともしっかりとこなしている。今年7月にはホワイトハウスに招待され、ジョー・バイデン大統領らと新型コロナウイルスにおけるワクチン接種について会談。その話題の振り幅は、普通の18歳とは到底異なるものであることは間違いない。
セレブリティの仲間入りを果たしたことの証明とも言えるMETガラにも参加し、数多ものファッションブランドとのコラボレーションを実現するなど、彼女を取り巻く環境は「ドライバーズ・ライセンス」以降、大きく変化している。一方で、オリヴィアにとって今最も大切なもの、そして、彼女がここまでの支持を集めることが出来た理由でもあるのが、彼女が幼少期の頃から取り組んできたソングライティングである。
「(ソングライティングについて)覚えている限りでは、ずっと書いてます。6~7歳くらいの頃に書いた歌詞のノートもあるから。でも、12~13歳のときに真剣にピアノで曲を書き始めたことでもっと良いソングライターになろうって気持ちが強くなって、どんどん好きになっていきました。私にとってソングライティングは間違いなく心の癒し。頭の中で混乱している複雑な感情を曲の中で言語化すると、感情を管理しやすくなる気がするんです」オリヴィアが書く楽曲は、複雑な感情を複雑な姿のまま、丁寧に切り取っていく。「ドライバーズ・ライセンス」はいわゆる失恋ソングではあるが、ただ悲しみの底へと落ちていくだけではなく、付き合っていた当時から抱いていた相手への不信感や、他の人と自分を比較してしまう不安、それらを抱えた上で「完璧な関係ではなかった」と認めながらも、それでもどうしようもなく悲しいという様々な感情が1曲の中に同居している。また、「enough for you」は、憧れの相手に嫌われるのが不安で、何とか気に入ってもらおうと精一杯努力した日々を回想しながら、相手に合わせる中で失いかけていた自分自身を取り戻そうと前を向く楽曲だ。
「『enough for you』は不安な気持ちを表していて、その気持ちを物語るストーリーがあるんだけど、でも最後には希望を与えてくれる曲にもなっていて。自分にも、聴いてくれた人にも、『この不安な気持ちはずっと続くものじゃないよ』っていうメッセージを送っているんです」
ストリーミングサービスやTikTokの台頭など、数秒程度の短い時間でいかに刺激を与えるかが重要視される現代の音楽シーンの中で、シンプルな紋切り型のフレーズではなく、楽曲全体を通して一言では言い表せない複雑な感情を描くオリヴィアの存在は、ある意味では異端ですらある。だが、だからこそ彼女の音楽には、多くの人々が深く共感し、唯一無二の特別な何かを感じているように思える。
また、『SOUR』に収録されている楽曲の半分に貼られた“Explicit”のラベルが示すように、オリヴィアは怒りや痛みといったネガティブな感情についても、Fワードで強調しながら容赦なく楽曲にぶつけていく。どうしようもなく辛いのに周囲の大人からは「若さを楽しめ」と言われ、誰にも助けられることなく自尊心がボロボロになっていく様をハードなギターリフに乗せて絶叫する「brutal」や、力強いビートが打ち鳴らされる中でソーシャルメディアに投稿される他人の優雅な生活や美しい姿を見て、自分のことが嫌いになるほどの強烈な嫉妬心に飲み込まれていく「jealousy, jealousy」といった楽曲からは、今を生きる若者としてのリアルな厳しさが痛いほどに伝わってくる。