オリヴィア・ロドリゴを3名のライターが解き明かす 3つの視点で向き合ったアルバム『サワー』合評

オリヴィア・ロドリゴを3名のライターが解き明かす

 オリヴィア・ロドリゴのデビューアルバム『サワー』が、アメリカを中心に今まさに世界を席巻している。同作は全米・全英を含む世界11カ国にてチャート初登場1位を獲得。Spotifyをはじめとしたサブスクリプションサービスのグローバルチャート上位には『サワー』の収録曲が並び、瞬く間にありとあらゆる記録が18歳の高校生によって塗り替えられてしまった。しかし、これが世界基準のスピード感であり、世界中のリスナーが求めてやまないアーティストであることを物語る。

 ここ日本でも着実にオリヴィア・ロドリゴの名前は浸透している。デビュー曲にして2020年代を代表する曲ともなった「drivers license」は、Sexy Zoneの菊池風磨ら主演の7月期新ドラマ『イタイケに恋して』(読売テレビ・日本テレビ系)の主題歌に起用されるなど、この夏以降、さらにその名を見る機会も増えていくはずだ。

 なぜ私たちはオリヴィア・ロドリゴに惹かれるのか? その理由を探るためにも、まずは『サワー』という作品に向き合う必要がある。ここでは、柴那典氏・井草七海氏・ノイ村氏の3名に、「US音楽シーン」「ティーンからの共感」「SNSカルチャー」それぞれの視点でアルバムを、そしてオリヴィアを紐解いてもらった。(編集部)

柴那典「US音楽シーンの潮目が変わる2020年代の象徴になるかもしれない」

 オリヴィア・ロドリゴのデビューアルバム『サワー』を聴いて最初に度肝を抜かれたのは、冒頭「brutal」の〈I want it to be, like, messy(=めちゃくちゃにしたい)〉という一言に導かれた、Foo Fightersを彷彿とさせるようなパワードラムとギターリフだった。「私のティーンエイジドリームはどこにあるの?」と鬱屈と不安とやりきれない思いをぶちまけるナンバー。これ、まさにグランジロックの精神性ではないか。

 2021年最大のセンセーションとなることは間違いなしのオリヴィア・ロドリゴのデビュー作。今年初頭のデビュー曲「drivers license」の記録的なヒットを皮切りに、発売されたばかりのアルバムもすでに全米全英で1位となっている。収録曲もストリーミングサービスのグローバルチャートの上位を席巻。すでにビリー・アイリッシュに並びZ世代を代表するポップアイコンとなることも確定しつつある彼女だが、アルバムの大きなポイントはその成功が「オルタナティブロックの復権」に結びつくだろうことだ。

 「drivers license」はピアノを中心にしたシンプルなベッドルームポップのサウンドに乗せて失恋の痛みを歌い上げる曲だったため気付かなかったが、アルバムを聴いて最も印象に残るのは、オルタナティブロックやフォークミュージックのサウンドを巧みに引用し、今の時代にあわせてアップデートした楽曲群だ。アヴリル・ラヴィーンを彷彿とさせるポップパンクの「good 4 u」。モダンサイケの「déjà vu」や「traitor」、アコースティックギターが引っ張るフォーキーな「enough for you」や「favorite crime」。曲調は多彩だが、いずれも特徴的なのはR&Bやラップミュージックのサウンドプロダクションとは一貫して距離を置いていること。そういう意味ではトラップの意匠を巧みに取り入れたビリー・アイリッシュとも対照的だ。

Olivia Rodrigo – good 4 u (Official Video)

 テイラー・スウィフトやロードに憧れ、『NYLON』誌のインタビューでも「私の夢は、メインストリームのポップス、フォークミュージック、オルタナティブロックが交差するような存在になること」と語っているオリヴィア・ロドリゴ(※1)。考えてみたら、ここまでヒットチャートを席巻するオルタナティブロックのヒロインという存在は、US音楽シーンの流れを振り返っても、ここ十数年はなかなかいなかった。

 2010年代のオルタナティブロックは、ジャンルとしての「インディ」へと変容していた。はからずもそのテイラー・スウィフトが2012年のヒットソング「We Are Never Ever Getting Back Together」で歌った〈And you would hide away and find your piece of mind/With some indie record that’s much cooler than mine(=私のよりずっとクールなインディのレコードを聴いて心の安らぎを見つけてるんでしょ)〉というパンチラインが象徴するように、インディシーンにはメインストリームのポップスと相容れない精神性が広まっていた。その一方で、2010年代後半にはR&Bやラップミュージックが本格的にヒットチャートを席巻し、ここ最近ではUSチャートの上位にはラップしか見当たらないという状況も当たり前になっていた。

 オリヴィア・ロドリゴの登場は、そんなここ数年のUS音楽シーンの潮目が変わる2020年代の象徴になるかもしれない。そんな予感もする。

※1:https://www.nylon.com/entertainment/olivia-rodrigo-it-girl-february-2021

■柴 那典
1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンを経て独立。ブログ「日々の音色とことば:」https://shiba710.hateblo.jp//Twitter(@shiba710)

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