『STEALTH』インタビュー
TETSUYA(L’Arc~en~Ciel)、作家としての野心とソロ活動の展望 「世の中からまだ正当な評価を受けてない」
L’Arc~en~Cielのリーダー兼ベーシストであるTETSUYAが、ソロとしては10年ぶりとなるフルアルバム『STEALTH』を10月6日にリリースした。L’Arc~en~Cielが30周年を迎えて活発に活動を続ける中、それに呼応するようにTETSUYAもソロアルバムをリリースするというのは驚きである。だが、いざ聴いてみると「単にアニバーサリーだからリリースした」わけではなく、彼の美学やクリエイティビティ、新たな挑戦などが凝縮された、非常に内容の濃い作品に仕上がっているのだ。「隠れてしれ~っと出そうかなと思っていた」というが、きっとジャンルを超えた多くのリスナーの心を掴むに違いない。30年以上ステージに立ち続けるミュージシャンとしての研ぎ澄まされた“感覚”と、今この瞬間にリリースしようと思った“確信”が交錯した最新作『STEALTH』の魅力をじっくり紐解いていく。(編集部)
10年ぶりにソロアルバムをリリースした理由
ーーTETSUYAさんは、今年L’Arc~en~Ciel30周年とソロデビュー20周年というアニバーサリーイヤーをダブルで迎えましたね。
TETSUYA:有難いことですよね、両方とも活動できているのは。幸せなことだと思いますよ。
ーーリーダーとしてラルクを30年やってきたというのは、どんな感覚ですか?
TETSUYA:長いようで短いようで、やっぱり長くて。同じバンドを30年もやってるなんて「すごいな~」って、他人事のように思うんですよ。「すごいな。あ、俺のことか」って(笑)。そんな不思議な感覚です。
ーーそしてソロでは10年ぶりのニューアルバムをリリースです。
TETSUYA:20年でまだ3枚目ですけどね。前のアルバム(『COME ON!』)から10年も経ってるなんて思ってなくて、びっくりでした。
ーーここに至るまでの10年を振り返ると、コンスタントにライヴやリリースは続けてきましたよね。
TETSUYA:忘れられない程度にちょこちょこライヴして、リリースもしてました。けど、なかなかどこを目指していいのかというが定まっていなかった10年だったと思います。僕って性格的に何か言いたいことがあるわけでもないし、やりたいことがあるわけでもないから、曲も「作れ」って言われれば作るけど、言われなければ別に作らなくてもいいんですよ。作るつもりはなくてもポンとできちゃうこともなくはないんですけど、それを形にしようという気持ちにまではあまりならないんですね。
ーー締め切りとかタイアップとか、外からの要因があって、そこに向かってきっちり動くほうが得意なタイプ?
TETSUYA:そうです。だから、ある程度のレールを先に敷いてもらったほうがいいんですよ。日本の軽自動車って排気量が決まってるじゃないですか。その制限された中でも、最大限できることをやって、あんなに安くて高性能な車ができてるわけですよね。僕も制限というか、何か決めてくれたほうがやりやすいんです。「自由にやっていいよ」といわれたら「何すればいいの?」となっちゃうタイプなんで。だけどこの10年、僕には「アルバム出しましょう」「今年リリースしますから〇〇までに曲書いておいて下さい」「レコーディングはこの期間にやります」といって、旗を振ってくれる人がずっといなかったんですよね。
ーーその役目をTETSUYAさん自らやるようになった感じですか。
TETSUYA:はい。アルバムのクレジットを見ても分かるように僕がディレクターになってるんです。
ーーでは、そんな中でこのタイミングでアルバムを出そうと決めた理由は?
TETSUYA:コロナがあったのと……あと占いとかで、2020年末から200年ぶりに“風の時代”に変わったと言われていて。
ーー占星術ですよね。それまでの“地の時代”から“風の時代”に変わって、前の時代までの価値観がガラッと変わる転換期が始まったとか。
TETSUYA:そうそう。曲はこれ以外にもう1枚アルバムを作れるぐらいあるんですが、シングル曲もたまってたし、ここから先に進むにはまずはアルバムを出さないと、他の曲も出せなくなると思って。このタイミングで出すことにしました。
「光と影、静と動のバランスが重要」
ーーそんなアルバムに『STEALTH』と名付けた理由は?
TETSUYA:隠れてしれ~っと出そうかなと思っていたので(笑)。大々的に「TETSUYA、ニューアルバム!」とできない今の時代だからこそ、しれ~っと出すというのがいいのかなと。
ーーだから今作のジャケットアートワークでも、TETSUYAさんがーー。
TETSUYA:ちょっと隠れてます。タイトル、『STEALTH』のまんまですね。
ーーアルバムの手応えはご自身でどう感じていますか?
TETSUYA:僕は最近このアルバムを車の中でも家でも聴いてるんですけど、すごくリピートしたくなるんですよ。一番古い「Make a Wish」と「Time goes on ~泡のように~」は5年前の曲なんですけど、この中で聴いても全然古さは感じないし、こうやって並べて1枚のアルバムとして聴くと曲の並びもいい。とても気に入っています。
ーー今作は既存曲も多いので、“BEST OF TETSUYA”みたいなキラキラしたポップなアルバムになるんだろうなと予想してたんです。ところが、聴いてみたら全然印象が違いました。
TETSUYA:それはえっと……アルバムがキラキラしてないってこと?
ーーいや、違います。キラキラの裏側に暗さも重さもあるということです。
TETSUYA:でも、そこのバランスはとれてるでしょ?
ーーはい。そのコントラストが、TETSUYAさんがクリエイティブディレクターを務める<STEALTH STELL’A>のブランドコンセプトである、「もっとも謙虚な星は、もっとも暗い夜に一番輝く」というワードに繋がっているんですよね。なんせこのアルバム、冒頭の「REGRET」から〈蟻地獄の中〉に引き込まれ、アルバム中盤の「FATE -Album ver. -」でもまた〈蟻地獄〉から抜け出せないですからね。
TETSUYA:はは。僕ね、思ったんですよ。「蟻地獄、好きやな」って。同じアルバムに2回出てるなってことは後で気づきました。作った時代が違うから忘れてたんです。
ーー人生にはそんな蟻地獄な暗闇もあるけれども、最後は「Eureka」で虹の向こうにある先へ飛び立つところへ引っ張り出してくれる。そんなストーリーを感じたアルバムでした。TETSUYA:うん。曲順がいいでしょ?
ーー曲順あってこそ、このような物語を感じたのですが、どうやって考えていったんですか。
TETSUYA:曲順はそれぞれの楽曲がよく聴こえるように並べてるんです。今の時代、曲順とか曲間とかあまり重要視されないですけど、曲間の数秒までこだわって作っているんで、なるべくこのアルバムは1曲目からこの順番通り聴いてもらいたいですね。
ーー「REGRET」は最初からアルバム1曲目候補だったんですか。
TETSUYA:はい。歌詞を書く前から、これはアルバムの1曲目だなって思ってました。
ーー収録曲から外れた新曲もありましたね。
TETSUYA:「何があっても」とかはそうですね。ああいうキラキラした曲はまだまだあるんですけど、そういう曲ばかりだと、アルバムがてんこ盛りの幕の内弁当になっちゃうじゃないですか。全部同じぐらい眩しいものを並べてたら、結局よく分からないものになっちゃうんで。光と影、静と動とか。アルバムはそのバランスが重要ですよね。