遊助が振り返る、コロナ禍でのツアー開催 新曲「こむぎ」で提示した“らしさ”とリスナーへのメッセージも明かす

遊助、新曲「こむぎ」で提示した“らしさ”

 『遊助「音(ON)パレード」LIVE TOUR 2021』で久々にファンとの再会を果たした遊助。同ツアー最終公演で初披露した新曲「こむぎ」を含むシングルを9月29日にリリースした。リアルサウンドでは今回、ツアーを振り返った率直な思いや手応え、“遊助らしさ”を改めて提示した「こむぎ」の制作経緯についてインタビュー。さらにカップリング曲「スラッガー」にちなみ、野球への愛も存分に語ってもらった。(編集部)【記事最後にプレゼント情報あり】

コロナ禍のツアーは一生忘れられない

――7月から全国ツアーをまわっていましたね。お客さんの前でなかなかライブができない期間が続いたなか、久々のツアー、どんな気持ちになりましたか?

遊助:うーん……(しばらく考えてから)嬉しさもあり、ほっとした気持ちもあり、達成感もあり。新しい様式であることを感じたり、“まあこうなるよな”って思う瞬間もあったけど、マスクで口元が見えないからこそ、ちゃんと目と目を合わせて通じ合えることもあるんだな、声を出せなくても気持ちのキャッチボールができるんだな、って思うこともありました。だから“やっと会えた!”という嬉しさだけではなくて。

――一言では言い表せないですよね。

遊助:そうですね。今回来られなかった人も直前になって行くのをやめた人もきっといるだろうけど、これから先もコロナがある限り、ライブに行かないという人はいるかもしれなくて。そういう人たちの気持ちも汲みながらライブをしなきゃいけないなという責任みたいなものも感じたので、単純に“音楽やっててよかった!”だけじゃ済まないような感情がありましたね。こう言うと無責任に聞こえるかもしれないけど、未だに誰も正解が分からない状況じゃないですか。アーティストさんによっては“俺にはこれしかないんだ! これが正解なんだ!”と信じてやっている人もいるかもしれないけど、正直俺はそこまでは思いきれなくて。だけど、今目の前に(ファンを)元気にさせられるチャンスがあって、自分がやるべきことがあったから、2時間半の(ライブの)間は俺もすべてを忘れて、今できること、今伝えられることを届けられるように集中できた。“来てよかった”と思ってもらえるように注ぎ込んだつもりだけど、現時点でライブをやったことが正解だったかどうかというのは、俺一人で決めることじゃないんだろうなと思います。

――1曲目が「ありがと。」でしたが、お客さんに最初に伝えたいと思ったのがあの曲だったんでしょうか?

遊助:この曲しかないと思いました。歌詞がちょうどリンクしたので。去年オンラインライブをやりましたけど、直接会えなかったから、改めて「ありがと。」から始めたいなと思って。これまでは派手にライブをスタートさせることが多かったんですけど、今回はゆっくりと、目と目を合わせて、“今まで頑張ったね”、“俺も会いたかったよ”というメッセージを込めて歌いました。今まではライブを一つのショーケースとして考えていたけど、今回は、自分の言葉を音に合わせてちゃんと届けようというコンセプトがどこかにありましたね。

――「ありがと。」のように、コロナ禍を経て、今まで以上に意味が深まった曲は他にもありましたか?

遊助:それはあります。ただ、同じ曲でも、歌いながら誰と目が合うのか、ステージのどこにいるのか、どういう流れでその曲に行き着いたのかによって自分の歌っている感じも変わってくるので、一概に「この曲が」とは言えないですね。自分で作っておいて不思議なんですけど、歌っているときの感情が毎回違うんですよ。全曲毎回「あ、こんな感じになったんだ」って思いました。それはお芝居も一緒。俺、「もう1回同じような感じでやってください」と言われてもそうはできないので(笑)。

――今までのツアーとは終わったあとの手応えも違ったんでしょうね。

遊助:変な言い方になっちゃうけど、毎会場歌っていて全然飽きなかったというか……不思議な感覚だったな。やることがシンプルだからこそ余計に難しいというか。震災の被災地であったり、フェスであったり、音楽以外も含め、いろいろなところに行っていろいろな経験をしてきたつもりだけど、このコロナ禍のツアーはめちゃくちゃ難しかった。だから一生忘れられないツアーになるのかなって思います。

変わっていないからこそ言えることがある

――今回リリースされるシングルの表題曲「こむぎ」はツアーで初披露していましたよね。いつ頃どういうふうにできた曲なんですか?

遊助:ツアーの最初の頃、7~8月ぐらいです。次の新曲どうしようかなと考えていたときに、スタッフから「世に言う遊助さんらしい曲はどうですか?」と言われて。そういう曲を作ってみました。

――確かに、前シングルの「マジ歌」は振り切ってEDMにトライした曲だったので、「こむぎ」が遊助さんらしいことで揺り戻しがかかったような印象がありました。

遊助:そうですね。「マジ歌」は本当に振り切った曲だったので、あれはあれで反響があったんですけど、変化球のすごさが伝わるのは、“思いっきり投げたストレートはこれです”というのをみんなが分かっている状況だからこそ。普段とは違うことをやった時に、ツッコんでもらえたり、“こんなこともできるんだ”と思ってもらえるのは、みんな俺の“らしさ”を何となく分かっているから。だから自分から“遊助らしさってこういう感じですよ”ってどこかで提示している部分もあるんです。

――「こむぎ」というモチーフはどこから持ってきたんですか?

遊助:小麦って殻があるから外はカチカチだけど、中は結構繊細にできているなと思って。それはMVに出てくるカブトムシもそうだし、人間もそう。外ではちょっとカッコつけた服を着てみたり、アクセサリーをつけてみたり……というふうに、自分に部品、プロテクターをつけて生きているよなと思ったんです。あと、小麦って1本だけでは立っていないじゃないですか。小麦畑とかを見ると、ぶわーっとたくさん生えていて、みんなで同じ方向を向いて揺れている。小麦は目に見えない風に揺れるけど、音楽も、目に見えないけどみんな揺れますよね。今の時代、ウイルスや“将来どうなるか分からない”という不安のような、目に見えないものに苦しめられていたりするけど、動けば動くほど、目に見えないそれも変わっていくんじゃないかという裏テーマもあります。

――“殻を破ろう”、“このままじゃダメだ”というメッセージが込められたポップソングは多いですが、この曲は、殻をつけることを否定しているわけではないですよね。

遊助:例えば、親が心配しないように「大丈夫」って伝えることがあるじゃないですか。そういうふうに、殻というのは、自分を守ったり、大事な人を守るためのプロテクターであり、優しさでもあるんじゃないかなと思うので。だから俺は“殻つけたまんまでいいじゃん”って思います。きっと俺もそうしてきただろうし。

――歌詞で気になったのが、〈笑い会えてる〉〈頷き逢って〉というところ。「笑い合えてる」「頷き合って」と表記するのが一般的ですよね。

遊助:「笑い合う」だったら現在進行形でお互いに笑っている状態だけど、「笑い会う」だったら、それぞれ別々に笑ってから、そのあとに会っている状態ともとれるじゃないですか。

――ああ。「笑い、会って」みたいな。

遊助:そうそう。「笑い合って」だとちょっと強制的というか、互いに気を遣い合っているような感じがする。だけどそうじゃなくて、一緒にいるからといって無理して笑わなくても、自分のタイミングで、自分の笑いたい時に笑って、会おうというふうにもとれるから「笑い会う」の方が広い意味で優しいだろうなと思ったんです。

――なるほど。カップリング曲の「夢はシンプル」はどういうイメージで歌詞を考えていったんですか?

遊助:「夢はシンプル」って言葉がいいなと思って。人間って、自分で勝手に難しく考えているだけで、思ったよりシンプルじゃないですか。難しく考えたせいで大事なことを見過ごすこともあるなんて、変な動物ですよね。さっきのライブの話じゃないけど、シンプルなことこそ難しくてできないんだよなと思って、それを歌詞に落としてみました。

――そのテーマは「こむぎ」ともリンクしているような気がしますね。本当に大事な核はこんなに小さいのに、自分から殻をつけたり難しく考えたりしてしまうのが人間だ、みたいな。

遊助:そうですね。

――その辺りが、今回のシングル制作時期での遊助さんの関心事だったのでしょうか?

遊助:うーん……。でも、コロナ禍の影響は絶対的にあります。この1年半で「遊助はいいなあ」ってめちゃくちゃ言われたんですよ。バラエティの人だったらロケができなくなったり、アーティストだったらライブができなくなったり……仕事がバタッとなくなってしまった人も多かったじゃないですか。その中で、自分自身を見つめ直して「このままだったらヤバいんじゃないか」と考えていた人もいれば、「給料入らない」と悩んでいた人もいたし、中には自分の命を絶ってしまった人もいた。それは表舞台に立つ人に限らず、世の中の人たちみんなそうだろうし、生活や価値観が一気に変わったという人がほとんどだと思うんですけど、ありがたいことに俺は、バラエティにも出て、レギュラー番組があって、曲も作って……というふうに、正直そんなに変わっていなくて。変わっていないからこそ言えることがあるなと思いながら、曲を作っていたんですよね。

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