東京初期衝動はロックシーンの最前線へ 士気の高まり感じた『サマーツアー2021』恵比寿LIQUIDROOM公演レポ
マツコ・デラックスがゲストと1対1でサシトークするTV番組『マツコの知らない世界』(TBS系)で「ガールズ・バンドの世界」という特集が組まれ(7月6日放送)、そこでも取り上げられていた東京初期衝動。ここ最近はメディア露出も目覚しく増えていることから、彼女たちがライブハウスで大暴れしている様子が口コミやSNSなどで広まり、「あのバンドはヤバイ!!」という評判がマスにも届き始めているようで、筆者としては嬉しい限りだ。
この日はライブ前のリハにて「再生ボタン」をプレイ後、「PAさん、コロ助(=コロナ)も逃げるような爆音でお願いします!」としーなちゃん(Vo/G)は大声でリクエストし、早くも会場をザワつかせていた。すでに気合十分である。
バンド自体は昨年11月にあさか(Ba/Cho)が加入し、新4人体制で初となる3rd ED『Second Kill Virgin』を今年5月に発表。それに伴う計9カ所に及ぶ全国ツアー『サマーツアー2021』は5月29日の千葉LOOKを皮切りに、遂にファイナルの恵比寿LIQUIDROOM公演(7月3日の那覇Output公演は沖縄の緊急事態宣言の延長を受け、9月25日に変更)を迎えた。
この日の開場前BGMには銀杏BOYZの「あの娘に1ミリでもちょっかいかけたら殺す」、峯田和伸の「朝立ち」などが流れていた。補足しておくと、彼女たちは銀杏BOYZから多大な影響を受けている。音楽性はもちろん、精神性もだ。隙あらば何をやらかすかわからない“破天荒さ”があり、常に観る者をハラハラドキドキさせる。事実、今ツアー2日目にしーなちゃんは骨折し、しばらく松葉杖を使用してステージに立っていた。
Tommy february6の「je t'aime ★ je t'aime」がSEで流れると、希(まれ・Gt/Cho)、あさか、なお(Dr/Cho)のメンバー3人が楽器を鳴らし、「高円寺ブス集合」が始まるや、しーなちゃんはステージ中央まで猛ダッシュ。早々にマイクスタンドを倒し、ハンドマイクでオラオラ状態で熱唱する幕開け。続いて「再生ボタン」、「BABY DON’T CRY」と畳み掛け、その後も震災前のBRAHMANのごとくノーMCノンストップで駆け抜けるストロングスタイルを貫く。観客の顔色を窺う暇があれば、楽曲の中で燃えたぎる私たちを見ろ! と言わんばかりの凄まじいエネルギーだ。しーなちゃんの歌声を先頭に、バンドの演奏も砂利道を容赦なく突っ走る四輪駆動のジープのよう。ワイルドな疾走感、艶やかなメロディで観る者の心を奪い去っていく。
「流星」を経て、ここで最新作から「春」をプレイ。希の間奏とアウトロのギターソロは実に味わい深く、あさかの爽快なコーラスも際立っており、新たな季節を迎えたバンドの輝かしい高揚感を刻みつける。振り返れば、昨年もコロナ禍の中で全国ツアーをやり遂げ、そのファイナルが恵比寿LIQUIDROOMだった。前ベーシストを含む第一期・東京初期衝動に終止符を打った公演で、五里霧中のままエモーショナルに駆け抜けた忘れ得ぬライブだった。しかし、今はどうだろう。あさかを加えた現編成は、新たな初期衝動を手に入れた歓喜と興奮に渦巻いている。約1年ぶりの同会場でこれほどパワーアップした彼女たちに出会えるなんて……つくづくバンドは生き物だなと痛感した。
しーなちゃんの弾き語り形式~バンドインする演奏で聴かせる「中央線」は、赤みがかった照明が夕焼けを彷彿とさせ、楽曲が持つドラマ性をグッと引き出す演出も素晴らしかった。また、あさかがイントロでベースを爪弾く「blue moon」、「愛のむきだし」と立て続けに披露する流れも、バンドの歴史を踏まえた上で前へ突き進む彼女たちを物語っていて、個人的にツボを突かれた。
後半に入ると、バンドはますますエンジンの加速度を上げていく。「STAND BY ME」を皮切りに、「黒ギャルのケツは煮卵に似てる」でしーなちゃんはTシャツを脱ぎ捨てステージを練り歩き、叫び、ジャンプしたりの大騒ぎ。また、あさかがお立ち台の上でベースを弾く場面もあった。彼女は加入当初は下を向いてプレイすることも多かったが、今やバンドにすっかり馴染み、堂々たる存在感を発揮しているではないか。
パーティ感に満ちたフロアを「兆楽」でより一層掻き回すと、本編ラストは「ロックン・ロール」で掉尾を飾る。なおの壮絶なドラミングを燃料に、メンバー4人が一枚岩と化した怒涛の演奏で襲撃。巨大な竜巻に飲み込まれるような凄味に圧倒されるばかりであった。