桑田佳祐『ごはん味噌汁海苔お漬物卵焼きfeat. 梅干し』全曲レビュー:親しみ深い“6品”で表現する日本のポップス本来の在り方
『ごはん味噌汁海苔お漬物卵焼きfeat. 梅干し』。
本日、フラゲ日を迎えたこの作品を早速聴いた。ソロ名義としては2017年のアルバム『がらくた』以来約4年ぶり、桑田佳祐にとって初のEP(6曲収録)となる本作の素晴らしさは、このタイトルに集約されている。
ごはん、味噌汁、海苔、お漬物、卵焼き、梅干しは、日本人なら誰もが親しみのある献立だ。多くの人が日常的に、気張ることなく口にできるメニューであると同時に、一つ一つの食材や調理方法にこだわればどこまでもキリがなく、贅を尽くした食事にもなる6品は、桑田佳祐が表現してきたポップス、大衆の流行歌と在り方とそのまま重なる。市井の人々に寄り添いながら喜怒哀楽を表現し、ポップミュージックの奥深さとわかりやすさーーあらゆる音楽の要素を取り込みながら、誰もが楽しめる歌に結びつけるーーを追求してきた桑田は本作で、自らの原点に回帰しつつ、日常を彩る楽曲を見事に体現しているのだ。
本作のスタンスは1曲目の「Soulコブラツイスト〜魂の悶絶」にはっきりと示されている。60年代のモータウンサウンドと歌謡曲を基調とした音作り、心地よい解放感に溢れたメロディライン、〈命がけで今日も生きてるんだよ/心は土砂降り雨ん中〉に象徴される、この時代を生きる大変さを滲ませた歌詞。ポップソングの歴史を感じさせるプロダクションと“今”を体現する歌を共存させる手法は、昭和から脈々と続くこの国の大衆歌のあるべき形と言えるだろう。何より素晴らしいのは、圧倒的な華やかさ、楽しさ。ソロとかバンドとか関係なく、“とにかく今はみなさんを楽しませたい”という心意気にグッとくる。(個人的に、この曲と水前寺清子さんの「ありがとうの歌」を繋いで聴くのが好きです)
ブルース、ソウルミュージックの渋みを効かせつつ、洗練されたバンドグルーヴへと結びつけた「さすらいのRIDER」では、黒人音楽のエッセンスを日本語の歌に昇華させる桑田のボーカリゼーションを味わえる。洋楽を聴いているようなフロウと男の哀愁、切なさ、どうしようもなさを描いたリリックを共鳴させる技術とセンスは流石のひと言。1978年のデビュー当初から確立されていた桑田節は、40年以上経った現在もさらに深化を続けているようだ。
続く「SMILE〜晴れ渡る空のように〜」はもともと東京五輪が開催される2020年の社会全体を盛り上げる「民放共同企画“一緒にやろう”応援ソング」として制作された楽曲。昨年1月に発表されて以来、YouTubeにアップされたMVの再生回数が1600万回を超えるなど、大きな反響を集めているこの曲は、日本の未来を晴れ晴れと祝うだけではなく、〈栄光に満ちた者の陰で/夢追う人達がいる〉と“スポットが当たらない人々”にも光を当てている。そもそも今回の東京五輪が東日本大震災の復興を掲げて招致されたことを考えると、「SMILE〜晴れ渡る空のように〜」に悲しみや切なさが滲んでいるのは、ごく自然なことだと思う。