桑田佳祐『ごはん味噌汁海苔お漬物卵焼きfeat. 梅干し』全曲レビュー:親しみ深い“6品”で表現する日本のポップス本来の在り方

 「金目鯛の煮つけ」は、どんなに辛い人生でも、静かで幸せな瞬間はあると思わせてくれるナンバーだ。どこか牧歌的でノスタルジックな旋律に乗せて桑田は、〈さ迷い トンネル抜け出して/歩こう どこまでも〉と歌う。コロナ禍になり、何気ない日常のありがたさが身に染みる昨今、この楽曲にホッとするような感情を覚えるリスナーも多いはずだ。原由子によるコーラスから伝わる安心感、温かさも心に残る。そして、桑田のルーツの一つであるサーフィン・ホットロッドの風味をたっぷりと加えた「炎の聖歌隊[Choir(クワイア)]」は、ライブの臨場感をリアルに想起させるナンバー。〈開演お待ちどうさん/ご来場 大変御足労さん〉という歌詞を会場で聴きたい、手拍子で盛り上がりたいと心待ちにしている“オーディエンス”の期待をさらに増幅させる楽曲だ。

桑田佳祐 – 炎の聖歌隊 [Choir(クワイア)](Full ver.)

 本作の最後を飾るのは、「鬼灯(ほおずき)」。70年代初めのポール・マッカートニーを想起させる音像とともに桑田が紡ぐのは、〈紅燃ゆる南の海で/君は誰の名を呼ぶ?〉という言葉。かつてこの国を襲った戦禍、そのなかで犠牲になった若者たちに思いを馳せた歌からは、平和への強い思いが真っ直ぐに伝わってくる。その根底にあるのは、世の中が平穏でなければ音楽は楽しめないという思いなのではないだろうか。

 50年代から現在に至る古今東西の音楽のテイストを自在に取り入れた音楽性、そして、年齢や性別に関わらず、日本人なら誰もが自然に味わえる歌、さらに生楽器の響き、ミュージシャンの演奏を活かしたサウンドを含め、日本のポップスの本来の在り方を示した『ごはん味噌汁海苔お漬物卵焼きfeat. 梅干し』。本作のリリースは、なかなか先が見えず、閉塞感に包まれている日本の社会に大きな力を与えることになる、と断言したい。

特設サイト
https://special.southernallstars.jp/kuwata2021/

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