Lucky Kilimanjaro 熊木幸丸、黒澤明『七人の侍』にインスパイアされた“苦しみ”の描き方 闇鍋的1曲「踊りの合図」ができるまで

ラッキリ熊木幸丸『踊りの合図』に込めた想い

 さぁさぁ踊れ、踊れ、踊れ、さぁさぁ生きろ、生きろ、生きろ――Lucky Kilimanjaroの新曲「踊りの合図」を聴いていると、そんな声がどこからともなくこだましてくるようだ。熊木幸丸曰く、この曲のテーマは「苦しみ」。この混沌とした時代のなかで、苦しみと不安と寂しさに震える私たち一人ひとりの実存を根底から揺らすように、この曲は獰猛に、快楽的に、鳴り響く。心よりも先に、体が「生きたい」と動き始める。そして、〈苦しいでござんす〉――そんなふざけたような一節に、生きることの悲しさと可笑しみが濃縮される。泣きながらでも、笑いながらでも、泥にまみれながらでも、とにかく生き延びねば。この音楽に身を委ねていると、そんな気持ちになってくる。

 早くもアルバム『DAILY BOP』以降のラッキリの最新モードが聴こえてくるシングル『踊りの合図』がリリースされている。ボサノバとハウス、さらには黒澤明の不朽の名作映画『七人の侍』までもがモチーフとして混ざり合った闇鍋的1曲「踊りの合図」に加え、柔らかなメロディと繊細に紡がれるメッセージが孤独を撫でる「あついきもち」の2曲を収録。熊木幸丸に、このシングルに刻まれたラッキリの現在地を語ってもらった。(天野史彬)

ライブや音楽制作において重要な“波”

Lucky Kilimanjaro 熊木幸丸

――4月に日比谷公園大音楽堂でワンマンライブ「Lucky Kilimanjaro presents. YAON DANCERS」が開催され、その後から始まった『DAILY BOP』を携えた全国ツアーも、ひとまずファイナルとして予定されていたZepp Haneda公演も終えたところですが、手応えとしてはいかがですか?

熊木:『DAILY BOP』というアルバム自体、そこまでライブを想定していない作品だったんですが、その割にはライブで熱量を持ってくれたというか、「いい感じでみんなの体を軽くしてくれる曲たちだな」というのが実感としてありました。ただ、自分たち自身も成長しているので、そのライブの空間が、曲が作ってくれた世界なのか、僕らの能力が高まったから生まれた世界なのか、よくわからなくて(笑)。

――僕は野音でのライブを観たんですけど、ラッキリのライブは、曲間の繋ぎ方も非常になめらかですよね。クラブミュージック的というか、人と音楽の距離が近いし、ずっと波に乗っているような感覚のライブだったなと思って。

熊木:「波」感はすごく大事にしていますね。ライブのやり方としては、途中で休憩的な意味合いも含めてMCを挟む方法もあると思うんですけど、それをやっちゃうと、その日のライブが始まって頭から作ってきたグルーヴや熱量が消えちゃう気がして。それこそクラブで夜から明け方までかけて流れていく熱量ってあるじゃないですか。

――ありますね。午前3時くらいの、よくわからないけど恍惚とした感じとか。

熊木:そういう熱量を僕らは求めているし、だからこそ、その流れに途中で他のものを挟んじゃうと冷めちゃうというのが、自分のなかには感覚としてあるんです。だから、ライブを「ひとつの波として成立するように作る」というのは、セットを作る段階からかなり意識していますね。どういう曲を配置していけば、この部分でどういう波が起こるのか、みたいなことはすごく考えます。

――予定調和的なカタルシスというか、MCでいいことを言ってバラードをやって、みたいなことではないんですよね。波に乗っていると、いつの間にか最高ポイントに到達している、みたいな。

熊木:セットを組む段階で、「ここら辺がいいポイントだな」といった部分はたしかにあるんですけどね。でも、あくまでも、みんなの「波」のなかでそれを生まないと意味がないというか。だから、前の曲までの運動エネルギーを、ちゃんと次の曲に繋げられるようにっていうことをすごく大事にしているんです。それが「バンド」という表現方法と相まって、みんなと繫がりやすい空気が作れているのかなと思います。みんなが同じ波を味わって、空気を作っていくというか。

――波のような「流れ」を意識していくのって、熊木さんの楽曲制作自体にも言えることなのでしょうか?

熊木:そうですね。楽曲を作るときにも「空気がどう流れていくか?」を意識するのは、特に『DAILY BOP』以降は顕著に出てきている部分だと思います。「さっきの気持ち」を使って、どういうふうに「新しい気持ち」に変わっていくか? そこには、スムーズに変わっていくものもあれば、コントラストがわかりやすく変わっていくものもあると思うんですけど、ひとえに「連続するエネルギーをどう表現するのか?」というのは、自分の楽曲制作の段階で意識している部分です。

――それは、「生き方」にも繋がってきそうな話ですよね。

熊木:音楽だけじゃなくても、日常生活の自分のちょっとした在り方にも出てくる部分だと思います。ものを作ることもそうだし、なにかを習得したり、なにかをもっと知ろうとしたりすることもそう。それは、自分の生きているエネルギーをどんどん回していくことだと思うから。自分の音楽は、そういう部分も含めて表現したいなと思っています。

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