『踊りの合図』インタビュー
Lucky Kilimanjaro 熊木幸丸、黒澤明『七人の侍』にインスパイアされた“苦しみ”の描き方 闇鍋的1曲「踊りの合図」ができるまで
快活さが苦しみが混ざることで刺さる表現が生まれる
――その大きなヒントになったのが、『七人の侍』だったということですよね。熊木さんはどういったことをこの映画から感じたんですか?熊木:あの映画を観ること自体、僕は「快楽」としてカテゴライズしているんです。映画自体はエンディングも含めて最終的には「悲しさ」や「やりきれなさ」みたいなものがずっとあると思うんですよね。でも、作品全体にはすごく気持ちよさがある。「この、辛いのにカッコいい感じってなんなんだろう?」と思って。あの映画で描かれるのって、現代でも通じるような、人間のちょっとしたダメな部分だったりもするんだけど、そういう「人間」っていう感じ……みんなが思っていることや悩んでいることが、すごく快楽的に、快活に、あの映画には表れているような気がして。その快活さが苦しみと混ざることで、刺さる表現が生まれている。そういう部分が、「踊りの合図」で自分が歌いたかったことの主題にマッチしたんですよね。観てすぐにメモりました。「『七人の侍』+ハウス」って(笑)。
――(笑)。「踊りの合図」の〈苦しいでござんす〉というフレーズには、ちょっとしたユーモアも込められているように感じるんですけど、そういう部分って、『七人の侍』っぽいのかなと思いました。苦しみはあるけど、悲劇のヒーローにならない感じというか。ちょっと笑えるのがいいんですよね。
熊木:あくまでも「苦しみ」には負けたくないから。そう考えると、「悲劇」よりは「喜劇」にいこうとする感覚なのかもしれない。苦しいのはマジだけど、ファニーな感覚、ちょっと1回バグっちゃう感じも欲しい(笑)。そこは「なにかを解決していこう」っていう自分の思考が自然と出ているのかもしれないし。そういう意味では、結局、未来を見据えたうえでの苦しみの対処方法になっているのかもしれないですね。
――改めて思うのは、ラッキリの音楽は市井の人々のなかに着地していくものですよね。それは『七人の侍』というモチーフにも表れていると思うけど。
熊木:そうですね。僕自身、料理もするし、税金も払うし、「これ、どっちがいいんだろう?」ってAmazonで迷うし(笑)、そういう普通のことをやりながら、音楽を作っているだけの人間だから。あと、自分が仕事をしてきたなかでいろいろな人たちを見てきて、「こういう人たちのことを歌わなきゃいけない」とも思ってきたんです。だから、自ずと生活感は出てくるというか、あくまでも、みんなの日常の物語のなかに入れることができる音楽でありたいと思いますね。
――「踊りの合図」は音の質感も独特だなと思いました。それこそ、『七人の侍』に出てくる侍や百姓の、顔に泥がついているような感じというか。
熊木:そう言っていただけるのは嬉しいですね(笑)。今回は、「カラッとしているけど暑苦しい」みたいな感じを目指したんです。アコギもパーカッションもカラッとした音で入れているし、ピアノも、リバーブは入れているんだけど歪んだような音にしたりして、全体的にカラッとはしているんだけど、それをリズムとかでちょっと沈んだような感じで聴かせることを意識していて。そうすることで、暑苦しさというか、ちょっとベタッとした感じが出せたらなと。その辺のバランスは、エンジニアの土岐(彩香)さんの力も大きいです。
――ちなみに、この曲のそもそもの発端としてボサノバがあったということですけど、熊木さんにとって、ボサノバはどういった距離感の音楽なんですか?
熊木:元々、指弾きは好きでやっていたし、ボサノバ自体は自分にとっては新しい要素というより、ずっとあったものなんですよね。僕の作る曲には、ボサノバ的なコード進行の曲は結構あると思います。今回、「踊りの合図」を作るタイミングでよく聴いていたのは、ジョアン・ボスコと、マルコス・ヴァーリ。あとは<Mr. Bongo>っていうイギリスのレーベルのコンピレーションもよく聴いていましたね。
「わかっていない」ことを前提にしないとメッセージを共有できない
――カップリングの「あついきもち」は、「今」という時代に対するメッセージソングとして受け取れるなと思いました。熊木:元々僕らは「対話すること」を大事にしたいと思ってきたし、そういうメッセージをこれまでの曲でも出してきましたけど、今、ひと口に「対話」といっても価値観はどんどん生まれてくるし、対話の回数も難しさもどんどん増えていくなと思って。でも、みんなの価値観の根底には、不安や怖さ、孤独が根付いているような気もするんですよね。そういうモヤモヤする中での対話がどうしても必要になってくると思うんですけど、そこで新しく産まれそうな気持ちを、ちゃんと「あつさ」として捉えたいなと思って。
――今、多くの人々の根底に不安があって、その不安同士の対話は、ときに悲しいほどの摩擦を生んだりもする。そこから生まれるものをちゃんとポジティブなものに変換していけるかどうかは、今、すごく大事なことだなと思います。僕はこの取材前に「あついきもち」を繰り返し聴いていて、ちょっと救われた感じがあって。今、ニュースやSNSなんかを見ていても、本当にもう全部イヤになってしまいそうになるんですよ。この感覚自体がすごく独善的なものだっていうのも理解しているつもりなんですけど、でももう、本当に全部イヤになる。
熊木:そうなんですよね。「これはもうわかり合えないかもしれない」と思ってしまいそうなことって、昔に比べてもかなり増えているなと思います。僕自身、『DAILY BOP』を作っていた頃よりも「わからなくなったな」って思うんです。「夜とシンセサイザー」で歌ったような、「『正しさ』なんてないんだな」っていう気持ちは、あの頃よりも自分のなかで増長している感覚があって。そういう意味では、今回のシングルのほうが言葉自体ははっきりしたけど、本質的な悩みの部分は、もっとモヤモヤした感じもしているんです。
――本当に、袋小路に迷い込んだような感覚というか。
熊木:でも、そこで諦めるんじゃなくて、少しでも、対話できる部分を見つけていく。そういうことを毎日コツコツやっていくしかないなと思うんですよね。僕自身、疲れてイヤになっちゃうようなことは多々あるけど、でも、話し合いを続けていくことで、みんなでいいコミュニケーションができることを夢見ているから。だから、自分が大事にしたいと思っていることを改めて書いた曲ですね。
――この「あついきもち」は、言葉自体が非常に自然というか。〈話がしたいなぁ〉みたいな歌詞の綴り方が、今の時代に個人が語る言葉として、とても無理のない言葉遣いだと思うんです。
熊木:書き直しも多かったですけどね。こういう言葉を書いていくと、どうしても説教臭くなってしまう部分があって。自分の思っていることの吐露として書くのか、それとも完全な問いかけとして書くのか。そういう部分のバランスはすごく悩みました。最終的には、問いかけつつ、自分もわかっていないから、「一緒に見つけていきたい」という気持ちに着地したと思います。そこは、自分の高慢さと闘っている部分もありますね。自分が思い上がってしまっている可能性もあるから、自分自身、「わかっていない」という前提で音楽をやらないといけない。そうしないと、みんなとメッセージを共有することって、今はできないと思うんですよ。
――高圧的な言葉とか、聴き手を見下ろすような言葉では、今は響かない。
熊木:そう考えると、今の時代に、いいコミュニケーションを生むための温度感にできたんじゃないかなと思っています。あと、こういう部分は、自分の性格が出ているのかもしれないです。僕は、できるなら人を傷つけたくないんですよ。でも表現って、絶対に人に対してなにかしらのアクションを起こさせてしまう。だからこそ、自分はどういう表現をしていて、それが誰に、どういう影響を与えうるのか……そこに対しては向き合いたいし、考えたいと思っていますね。
――熊木さんは人を信じていますね。
熊木:そうだと思う。僕はすごく人を信じていると思います。
――10月からは『21 Dancers』と題されたツアーが控えています。どんなツアーにしていきたいですか?
熊木:今年、野音やツアーをやって、笑顔で踊ってくれる人たちを見たり、「明日から頑張れそう」ってTwitterでリプライをもらったりすると、「やっぱり踊ってもらわなくちゃダメだな」「音楽にできることってあるな」と思ったんですよね。そもそも、例えば『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2021』が中止になったり、踊る場所が少なくなっていると思うんですよ。そういうなかで、Lucky Kilimanjaroとしてちゃんと踊る場所を提供したいというのが一番の思いとしてあります。今のLucky Kilimanjaroが提案できる踊りをちゃんと突き詰めて、2021年という、後から思えばイマイチかもしれない年のなかで、少しでも「踊った」という記憶を持ち帰ってほしいです。それは、怒りなのか喜びなのかわからないけど、とにかく、「踊った」という記憶を作りたい。そういうライブをちゃんとデザインしたいなと思います。
■リリース情報
ニューシングル『踊りの合図』
2021年7月21日(水)リリース
MUCD-5319 / ¥1,100(税込)
01.踊りの合図
02.あついきもち
■ライブ情報
『Lucky Kilimanjaro presents. TOUR “21 Dancers”』
10月16日(土)札幌:PENNY LANE24
問:WESS 011-614-9999
10月24日(日)仙台:Rensa
問:GIP 0570-01-9999
10月30日(土)名古屋:CLUB QUATTRO
問:JAILHOUSE 052-936-6041
10月31日(日)大阪:CLUB QUATTRO
問:清水音泉 info@shimizuonsen.com
11月12日(金)広島:CLUB QUATTRO
問:広島クラブクアトロ 082-542-2280
11月14日(日)福岡:BEAT STATION
問:キョードー西日本 0570-09-2424
11月25日(木)東京:Zepp DiverCity
問:HOT STUFF PROMOTION 03-5720-9999
チケット料金:5,000円(税込・ドリンク代別)
<オフィシャルホームページチケット先行(抽選)受付>
7月21日(水)20:00 ~ 8月1日(日)23:59
受付:http://luckykilimanjaro.net/
枚数制限:お1人様1申し込みにつき4枚まで ※電子チケットのみ
※未就学児入場不可、小学生以上チケット必要
企画制作:dreamusic Artist Management,Inc./VINTAGE ROCK std.
TOTAL INFORMATION:VINTAGE ROCK std.
TEL:03-3770-6900(平日12:00-17:00)
WEB:http://www.vintage-rock.com/
オフィシャルサイト:http://luckykilimanjaro.net/