鈴華ゆう子、森山直太朗との交流をきっかけに広がった可能性 和楽器バンドとソロ活動における音楽性の違いを考察
和楽器バンドの鈴華ゆう子がソロ活動を再始動させている。
自身の誕生日である6月7日にソロワンマンライブ『鈴華ゆう子 Birthday Live 2021』をビルボードライブ東京で開催。さらに6月30日には森山直太朗の作詞・作曲、Kan Sanoのアレンジによる「カンパニュラ」をデジタルリリースし、大きな注目を集めた。本稿では、和楽器バンドとソロ活動における音楽性、ボーカル表現の違いにフォーカスを当てながら、“ソロアーティスト・鈴華ゆう子”の魅力を紹介したい。
まずは彼女のキャリアを簡単に振り返っておきたい。幼少期からピアノ、詩吟、詩舞、剣舞をはじめた鈴華は、東京音楽大学ピアノ科に進学。クラシックと純邦楽の二つの軸を持った、独創的な音楽性を築き上げていく。鈴華ゆう子の名前が世に知れ渡ったのはやはり、2013年に結成された和楽器バンドでの活動。西洋と日本の伝統をハイブリッドさせた和楽器バンドのスタイルの軸が、彼女のボーカリゼーションに繋がっていることはまちがいないだろう。
和楽器バンドで世界的な人気を得る一方、2016年には1stソロミニアルバム『CRADLE OF ETERNITY』を発表し、ソロアーティストとしてもデビュー。「永世のクレイドル」(PS4/PS Vita『SDガンダム ジージェネレーション ジェネシス』オープニングテーマソング)、「戦火の灯火」(『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』挿入歌)などを収めた同作で彼女は、自らの音楽性/ボーカル表現の幅広さを証明した。
そして約5年ぶりにリスタートした鈴華ゆう子のソロ活動。その起点となったのはおそらく、今年3月25日に発表された森山直太朗の名曲「さくら(独唱)」のカバー動画(【ワンテイク】森山直太朗"さくら (独唱)" covered by 鈴華ゆう子)だろう。自ら演奏したピアノ(事前収録)とともに彼女は、原曲に込められた情感をさらに増幅させるようなボーカルを披露。ところどころに詩吟特有の節回し(節調)を取り入れ、一つひとつの言葉を手渡すような歌声によって、シンガーとしての独創性を改めてアピールした。
ソロライブ『鈴華ゆう子 Birthday Live 2021』では、「戦火の灯火」「永世のクレイドル」などのソロ曲のほか、スタンダードナンバー「Fly Me To The Moon」、昭和のヒット曲「恋におちて -Fall in Love-」「Woman "Wの悲劇"より」などのカバー、さらに「トルコ行進曲変奏曲」を連弾で披露するなど、ジャンルを超越した音楽家としてのポテンシャルを示した。
新曲「カンパニュラ」は、鈴華の新たな音楽性を切り開く楽曲であり、彼女のキャリアにとって大きな意味を持つ楽曲だと言っていいだろう。「さくら(独唱)」のカバーをきっかけに、森山との交流から生まれたこの曲は、〈ゆらりゆらりと風に吹かれて/はらりはらりと花は散るだけ〉という叙情溢れるフレーズから始まるミディアムチューン。永久にめぐっていく季節、諸行無常と称すべき世界観を映し出しながら、〈あなたと二人生きた証は そっとあの星になって生き続ける〉という思いへたどり着く、普遍的なラブソングだ。
その中心にあるのはもちろん、彼女自身の歌声だ。ノスタルジックな旋律、そして、“たとえ離れても、二人の愛は変わらない”という切実な思いを反映した歌詞を、彼女は大らかなスケール感と繊細な感情表現を兼ね備えたボーカルによって、見事に描き出している。特に〉そして二人が時を重ねて 老いさらばえてしまっても〉から始まるサビのパートは圧巻。詩吟の節調を使わず、ストレートに歌い上げる歌唱法からは、(和楽器バンドのときとは一味違う)シンガーとしての彼女の豊かな可能性が伝わってくる。“カンパニュラ”の花言葉は、“感謝、誠実、高貴”などだが、そのイメージは鈴華のボーカルの手触りに重なっていると言っていい(ちなみに、この楽曲がリリースされた6月30日の誕生花はカンパニュラとする説も。何とも粋な演出だ)。