Baby Kiy、強さや優しさを備えたシンガーソングライターとしての姿 ビルボードライブ横浜公演を振り返る

Baby Kiy、ビルボードライブ横浜公演レポ

 キラキラした笑顔に自然体な振る舞い、本質的な美を体現するヘルシーな空気感。いうならば“太陽の光をまぶした人”だと、Baby Kiyのことを思っていた。しかし、それは彼女の一面に過ぎないのだということを、5月8日にBillboard Live YOKOHAMAにて開催された『Baby Kiy Acoustic Live at Billboard Live』で突きつけられた。ステージに立つ彼女は、太陽のように煌めき、月のように憂い、風のように踊る。ポジティブなだけではない、多彩なエネルギーを凛々しく放っていた。

 ギターのアルペジオがキラキラと瞬き、シンバルのロールがシュワシュワ弾けると、一瞬にして会場は海辺へと景色を変える。波のさざめきと共に現れたBaby Kiyは、今までと一味違うリトルブラックのドレスを纏っていた。潔く背中を出したバックスタイルは、ひとりの女性の覚悟を感じさせる。

 「みなさん、こんにちは!」とにこやかに挨拶をし、「Hey Darling」へ突入。デビュー当時から変わらぬ透き通った歌声は研ぎ澄まされ、凛とした強さを放つ。何かが変わった。たった1曲で、そう感じずにはいられないほど、彼女は新しい自分を手にしていた。「Time for movingon」でオーディエンスを煽ると、クラップに乗って柔らかな空気も広がっていった。

 「それぞれの懐かしい思い出を思いだしながら聴いてくれたら嬉しい」と告げ、「Daisy girl dairy」が導かれる。ロマンチックな曲名は、Baby Kiyが高校生の頃やっていたブログのタイトルに由来しており、歌い上げる姿もどこか懐かしげ。〈あの日のサヨナラ〉という歌詞が一直線に胸へと飛んできたのは、思い当たる人物が彼女にいたからなのだろう。過去と今のBaby Kiyがハモリ、言葉にズシッとした重みが乗る。「Lazy Boy」では観客と遊び、「Never get enough」では歌の痕跡を残していった。キャッチーな「GIRL FRIEND」では、会場に駆けつけていたファンへアイコンタクト。パーカッションとの掛け合いも心地よく、誰よりも彼女が楽しんでいることを感じさせた。

 彼女が新たな表現を手にしたことを、ひと際感じさせたのは「Secret」だ。高めのイスにゆるりと腰をかけ言葉を落とす姿はアンニュイで、等身大の女性像を感じさせる。「どんな曲を書いたら、みんなが喜んでくれるか考えて、今までよりグッと心に近づける楽曲を作りたいと思って制作した」とMCで話していたが、この“等身大の女性像”はキーワードな気がしてならない。無邪気な笑顔で〈信じさせてみて〉と相手を試すいたずらな少女から、一歩引いたところから〈本気にさせてみて〉と翻弄する大人の女性へ。理想の女性像を生きるBaby Kiyから、より生々しくリアリスティックなBaby Kiyへ、脱皮を遂げたのではないだろうか。彼女自身を癒すように「君のしぐさも」を紡ぎ、「Stay Here Maybe」で一気に場面チェンジ。波の満ち引きのように緩急をつけながら、シンガーソングライターとしての幅広さを魅せていく。

 「心が温まる歌詞なので聴いてください」という紹介を受け、投下されたのは「Just you and me」だ。Billboard Live仕様にアレンジされたナンバーは、2番から夜明けのように世界が広がっていった。

 自然とオーディエンスのクラップで溢れた「Don’t Let Me Go」、心の傷に寄り添う「Stay Together」と1stアルバム『All About You』と同じ並びでセットリストを展開。〈目が離せないほど 夢中にさせてあげる〉と自信を滲ませると共に、〈心にある その傷跡隠そうとして〉と自身を顧みる。2020年、心のバランスを崩して、思うように活動ができなかったBaby Kiy。しかし、今の彼女にはそんな日々を越えてきたからこその強さや優しさ。そして、美しさがあると誇示しているようだった。

 トリを飾ったのは、本来であれば夏の3連続リリースで、ラストとナンバーになる予定だった「Silent moon」。この曲ではムービー・写真の撮影が許可され、星の海のようにスマホのライトが会場を埋め尽くす。ギター・パーカッションとのセッションを楽しみ、カメラひとつひとつに視線を送り、幸福感溢れるステージを作り上げた。アンコールでは、柔らかな歌声で「Hummingbird〜キセツハズレノハナビ〜」を披露。波に揺られるような心地よさでBillboard Live YOKOHAMAを包みこみ、会場を後にした。

 サンサンと降り注ぐ太陽だって、月と重なり欠けることがある。どんなものごとも一面だけでは判断できないのが、この世界の面白さだ。太陽のように煌めく女性が、月のように憂い、風のように踊るからこそ、表現できる世界もきっとある。やるせない日々を越え、ひとりの人として洗練された彼女が、これから魅せてくれる世界が楽しみだ。

Baby Kiy オフィシャルサイト

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