LiSA「紅蓮華」手掛けた草野華余子、感情を音楽に転置する才能 作詞作曲家・シンガーソングライターとしての真価
『2021年JASRAC賞』受賞作品が5月19日に発表。LiSA「紅蓮華」が栄えある金賞を受賞した。
同賞は、日本音楽著作権協会(JASRAC)が、音楽配信やカラオケなどを通して、前年度における同協会からの著作権使用料の分配額が多かった楽曲の作詞者・作曲者・音楽出版社に対して、その功績と栄誉を称えるもの。「紅蓮華」は、TVアニメ『鬼滅の刃』オープニングテーマとして幅広い世代に広く親しまれる楽曲だが、同曲を作詞し歌唱するLiSAと、作曲を手掛けた草野華余子は、長年にわたり苦楽を共にしてきた強力タッグである。
シンガーソングライターとしても活動する草野だが、実は作曲家として初の楽曲提供をした人物こそ、他ならないLiSAであった。2人を運命づけたのは、LiSAが2013年10月に発表した2ndアルバム『LANDSPACE』収録曲「DOCTOR」(草野の当時の活動名義はカヨコ)。LiSAの官能的な楽曲路線を開拓した活動初期の重要作として、今なお根強い人気を誇る一曲である。
当時の草野は心身ともに満身創痍だったようで、LiSAとの初対面の際も運悪く遅刻し、落ち込んでしまったとのこと(※1)。その際、LiSAから「こういうこともあるよね。いい曲ありがとう」と優しい一言を掛けられたことで、彼女には生涯を賭して楽曲提供をし続けていくことを誓ったという。その約束は今なお違わぬところだ。LiSAとはその後、大切な人を失う怖さを胸にしながらも、精一杯に生き続けようと歌うバラード「シルシ」や、革命の狼煙を上げるようなオーケストラロック「ADAMAS」まで、“打てば当たる”という表現が追いつかないほど、数々の名曲を生み出している。
作曲家として広く信頼を集めるようになった草野は、心休まるアコースティックバラード「あなたが笑えば」を鈴木このみ、2つの主旋律が重なり新しいハーモニーを生み出すセンチメンタルなギターポップ「片恋」を歌い手のまふまふに提供。そのほか、自身の得意とするロックジャンルでも、『バンドやろうぜ!』より、Fairy Aprilがかき鳴らすアッパーな「スリルを頂戴」など、ここまで振り返ったような幅広い楽曲の作曲を手掛けている。
また、英語詞の流れがその歌声の切なさをより引き立てるReoNa「Untitled world」や、GARNiDELiAより、MARiA「おろかものがたり」(作曲・本間昭光との共編曲も担当)などの作詞もこれまでに担当。
そんな彼女の手掛けた楽曲は、特にロックジャンルにおいて、そのメロディの特徴を“カヨコ節”と称されることも。具体例を挙げるならば、“ここから曲が一気に盛り上がるな”と瞬時に理解させるような、サビ前に用いられるブレイク(これはアニメ主題歌において、映像の切り替わりと上手く連動することで楽曲にとてつもない説得力も備えさせる)、ボーカルと英語詞のコーラスが力強く呼応しあう展開、特に2コーラス目に多く見られるが、ハイテンポな歌い回しのフレーズにボコーダーを重ねるといった手法などだろうか。
また、“カヨコ節”を感じるメロディラインには、歌詞で歌われる内容が震えるような状況にあるほど、その音がますます記名性を帯びるような印象さえある。大切な人を想う愛情や慈悲深さ、怒りや悲しみ、堕落した感情など……そのシチュエーションがスリリングなほど、彼女は人の極限に近い感情を包み込むように、ポップに、ロックに、何よりキャッチーなメロディに昇華できてしまうのだ。実際に「紅蓮華」も、『鬼滅の刃』のダークファンタジー的な色彩に寄せた楽曲ではあるが、サビの歌い出しで、まるで刀を振るうように一気に空気を静寂を打ち破る展開や、力強いサウンドのなかで哀愁漂う悲壮感など、“一度聴いたら頭から離れない”という表現がよく似合うインパクトを伴ったものだ。