連載「lit!」第146回:SEEDA、SALU、CHOUJI & Gacha Medz……キャリアや人生観を総括したヒップホップ5作

 まずは、先日亡くなったJJJにご冥福をお祈りします。今この原稿を書いている時点でも、突然のことで全く実感が湧かないですが、彼の残してきた言葉、ビートが、私も含めた多くの人々を、時に勇気づけ、時に楽しませることはこれからも変わらないでしょう。

 今回は、彼のプロデュース曲を収録した作品も含め、キャリアを積み重ねてきたベテランから、これからの展望を期待させる若手まで、多様なジャンルへの接続やオリジナルなサウンドへの挑戦と実践に満ちた国内の新作ラップアルバムを5枚紹介する。

SEEDA『親子星』

 SEEDAの約13年ぶりのニューアルバムは、自らのディスコグラフィに刻まれた名作たちに堂々と肩を並べるようなストーリー性にあふれる傑作だ。D3adStock、KM、Bohemia Lynchなどのプロデューサーとタッグを組み、現在のSEEDAが見ている景色を明確に浮かび上がらせる。「みたび不定職者 (feat. Jinmenusagi & ID)」や「Daydreaming pt.2」など、過去のSEEDAの作品と地続きであることを刻みつつ、トラップやレイジ、2ステップといったSEEDA自身の現在のシーンへの興味を反映させたような新鮮なサウンドを塗すことで、長い時間軸を一つの線として結びつける。当然、「L.P.D.N. feat. VERBAL」におけるVERBALとの和解も、このアルバムが繋ぐ過去と現在を表現する重要な要素だろう。『親子星』というタイトルや、「Daydreaming pt.2」における〈状況が変わっても 見上げる同じ空〉といった歌詞、そして最終曲「SUKIYAKI (feat. Kamiyada+ & Braxton Knight)」における坂本九「上を向いて歩こう」の引用など、全編を通して現れる“空”のモチーフは、時間や場所を超え、変わらずそこにあるものとして存在する。SEEDAの現在に至るまでの音楽性や人生観までを、まるで星座を描くように線を引いていく、パーソナルでありながら壮大なスケールを携えた珠玉の1枚。

SEEDA : 親子星 (Music video)

CFN MALIK『MADE MA WHOLE HOOD SWAGED UP』

 気だるくローテンションで、ダークさとチルさを併せ持つYOKO SQUADのラッパー CFN MALIKの待望のアルバムは、全8曲のコンパクトな仕様で、恐るべき中毒性を放っている。「F1 (feat. CFN MALIK)」(Daichi Yamamoto & JJJ)に続き、JJJのソリッドなビートとの相性の良さを再び体現する1曲目「JJJ Freestyle」から、キャッチーな「おしゃれ」、アンビエントなサンプリングワークと転調を巧妙に魅せる異色の手触りで幕を閉じる「冬の花」など、曲数は少ないながらも、それぞれが濃密かつ固有の魅力を持っている。全体としてはミックステープ感も強い構成ではあるが、曲順の捻り方も含め(やはりラストの「冬の花」の余韻は今年リリースされた作品の中でも特に印象深い)、一連の流れとしてスマートに整っている。CFN MALIK自体の、ラッパーとしてのオリジナルなスタイルは変わらずに、新たな一面も覗かせる刺激的な1枚。

CFN Malik - おしゃれ(OSHARE) Official Video

CHOUJI & Gacha Medz『Callaloo』

 沖縄出身のラッパー CHOUJIと、ジャマイカ在住のプロデューサー Gacha Medzのコラボアルバム。CHOUJIがジャマイカまで渡り制作した本作は、過去に両名義でリリースしたEP作に連なるような作品で、多様なレゲエサウンドが詰め込まれながらも、ラッパーとしてのCHOUJIの独特なワードプレイも堪能できる。歌心も兼ね備えた柔軟なCHOUJIのラップスタイルと強い音楽への探究心によって実現する、日本語ラップとアフロミュージックの美しい折衷。また、オーバーグラウンドのジャンルに接続しながら、自らのフィーリングの表明やドメスティックなカルチャーへの批評を、ユーモアを交えて織りなす様は、CHOUJIの近年のアルバム『morijin』や『チョージとシーエヌ pt.2』でもすでに垣間見えていたが、今作と過去作品を並べて一つの流れとして聴くことで、さらなる説得力が生まれていると言えるだろう。

CHOUJI feat. I-VAN - コンチremix prod.Gacha Medz

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる