神はサイコロを振らない、まっすぐに音楽の力を信じたライブ 『エーテルの正体』ツアーZepp Tokyo公演レポート

神サイ『エーテルの正体』東京公演レポ

 東京都内でも緊急事態宣言のさらなる延長が公表された2021年5月。長引く沈んだ情勢に光を灯すような、まっすぐに音楽の力を信じたライブがあった。

 気鋭のロックバンド・神はサイコロを振らないのメジャー1stシングル『エーテルの正体』の名を冠したツアーの東京公演。その始まりを告げたのは、ステージ上に揺蕩う白いベールの存在だった。誰もいないステージにふわふわと浮くベールが幻想的に青く照らされる。その下でメンバーがステージに姿を表すと、客席からは拍手が巻き起こった。

神はサイコロを振らない(写真=MASANORI FUJIKAWA)

 柳田周作(Vo)の「始めるぞ東京!」の掛け声を合図に、アップテンポなライブチューン「クロノグラフ彗星」を披露。ハンドマイクを持った柳田はステージを左右に動き、手を上げてフロアとコミュニケーションを取る。その勢いを引き継ぐように黒川亮介(Dr)が立ち上がってカウントし「揺らめいて候」へ。ステージは赤と青でミステリアスに彩られ、柳田の蠱惑的なファルセットとギターが絡み合い並走する。空間を破るような一筋のギターソロが「遺言状」に繋がり、楽器と歌が交互に主役に立ってエモーショナルな神サイの色を紡いでいく。

神はサイコロを振らない(写真=MASANORI FUJIKAWA)

 青いレーザーの照明が〈光のシャワー〉の歌詞に対応して没入を誘った「泡沫花火」、そしてインディーズ時代の楽曲ながら人気の高い「胡蝶蘭」を歌い切った柳田は、MCで「本当に神サイを見に来てくれたんですよね?」とオーディエンスの人数に驚きつつ喜びの表情を浮かべる。「ギアチェンジしていきます」と宣言しエフェクトの効いたスネアが牽引する「解放宣言」、爽やかなギターロック「パーフェクト・ルーキーズ」と続いてフロアを熱気に包みこんだ。「この不条理な世界を乗り越えられると信じています」と前置きして演奏した「ジュブナイルに捧ぐ」では、手を客席に伸ばして〈君は君でいい〉と歌っていたのが切実だ。間奏部では「音楽がみなさんの力になるなら僕らは音楽を鳴らし続けます」と語る。飾り気のないまっすぐな言葉と演奏は、彼らが音楽の持つ力を信じていることがひしひしと伝わってとても頼もしい。その表現に応えるような大音量の拍手は、オーディエンスが神サイに希望をもらっていることを示していた。

神はサイコロを振らない(写真=MASANORI FUJIKAWA)

 一転して青い照明とピアノの音が幻想的な「夜永唄」が沈み込むように終わると、浮き上がるように「プラトニック・ラブ」に続く。バンドインしたあとのサビ、ドラムの一音一音が感情の重みを表しているように感じられる。

 「みんなに愛をぶん投げるので投げ返してください。4人対Zeppではなく、1対1です!」という柳田のMCののちに披露された「1on1」は〈僕〉と〈私〉を使い分けることで一組の男女を歌う楽曲。だがこの日は意味合いを変え、その場にいる観客との1対1の関係性を構築した。

 「みなさんの未来がずっとずっと光り続けますように」という願いとともに披露された「未来永劫」は、〈一人きりじゃこんなに脆く〉の歌詞がオーディエンス一人ひとりを肯定しているように響く。「来年の春はもっといい春になりますように」と「巡る巡る」で本編が締めくくられると、盛大な拍手が送られた。

神はサイコロを振らない(写真=MASANORI FUJIKAWA)

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