松下洸平×松尾潔 特別対談 2度目のメジャーデビューでタッグ、両者をつなぐ共通の“バランス感覚”

松下洸平×松尾潔に共通する感覚

 松下洸平がシングル「つよがり」で2度目のメジャーデビューを果たす(1度目は2008年、洸平名義)。NHK連続テレビ小説『スカーレット』でヒロインの夫・十代田八郎を演じ、俳優として大きな注目を集めた松下。その後もドラマ、舞台、バラエティ番組などで活躍を続けているが、じつは2008年にシンガーソングライターとしてメジャーデビューしている。俳優に軸足を置いてからも、地道にライブ活動を継続していた彼だが、今回、満を持しての再デビューに至ったというわけだ。

 リアルサウンドでは、松下とデビュー曲「つよがり」を作詞・プロデュースした松尾潔との対談を企画。「つよがり」の制作を中心に、両者の音楽観、シンガー・松下洸平の可能性などについて語り合ってもらった。(森朋之)【インタビュー最後にオリジナル動画あり】

いくつかの偶然が重なった必然の出会い “最高の1曲”が完成

松下洸平×松尾潔(写真=藤本孝之)
松尾潔、松下洸平

ーー松下さん、松尾さんの出会いは、「つよがり」の制作がきっかけですか?

松尾潔(以下、松尾):面識を持ったのはこのタイミングですが、僕はもちろん、以前から松下洸平という存在は知っていて。彼のほうも、ずいぶん前から僕のことを認識してくれてたみたいなんですよ。

松下洸平(以下、松下):中学、高校を通して、松尾さんが関わった楽曲を何度もカラオケで歌いましたから。CHEMISTRY、JUJUさん、EXILEもそうですが、松尾さんが携わった作品に触れ続けて。今回「プロデューサーを誰にお願いする?」という話のなかで松尾さんのお名前が挙がったときは、「え、あの松尾さんですか?」と驚きました。本当にやっていただけるのかな? とも思いましたが。

松尾:僕が洸平さんのことをはっきりと意識したのは、多くの人と同じように“八郎さん”ですね。音楽に関しては不勉強なところがあって、シンガーソングライターとしてのキャリアを積み重ねていたことは、そこまでチェックしていなかったんです。“絵を描きながら歌う人がいる”というのは聞いたことがあったけど、それが洸平さんと一致していなくて。そんな人、洸平さんと水森亜土さんしかいないんだけど(笑)。

松下:ハハハハ(笑)。

ーー松下さんは以前、自作曲に合わせて絵を描きながら歌う「ペインティング・シンガーソングライター」を標榜していましたからね。

松尾:歌手としての洸平さんのことを教えてくれたのは、じつはゴスペラーズの黒沢薫さんだったんです。「松下くん、いい歌手だよ」と。洸平さん、黒沢さんの家に行ったことあるんだよね?

松下:はい。カレーパーティにおじゃまして。

松尾:黒沢さんは朝ドラのファンだから、「ウチに八郎さんが来た」って喜んでましたよ(笑)。

松下:光栄です(笑)。そのときはまだ松尾さんと出会っていなかったし、音楽活動を再開する目途も経っていなかったんですけど、その時点で黒沢さんが僕の曲を聴いてくださっていて、「音楽やりなよ」と後押ししていただいて。それが松尾さんの耳にも届いたのは、すごく嬉しいです。

松尾:黒沢さんは素晴らしいホストで、カレーパーティがミュージシャンたちの出会いの場になっているんですよ。僕がSIRUPさんと初めて会ったのもそうだし……って、この話だけで終わりそう(笑)。

松下:ハハハハ(笑)。

松尾:その後、洸平さんの曲を聴けるだけ聴いて、観れるだけ観て。実際に会うのは、さらに1年後なんですけどね。

ーー松下さんの楽曲をプロデュースすることになったきっかけは何だったんですか?

松尾:キューブ(松下洸平の所属事務所)の代表の北牧裕幸さんから「ウチの松下洸平と仕事をしてみないか?」と打診されたんですよ。北牧さんは文学や物語に精通されていて、僕が心から信頼している方で。先ほども言ったように、黒沢さんを介してシンガーとしての松下さんのことも認識していたし、オファーをいただいたときは、前のめりで「ぜひ」と。その直後にライブを観させてもらったんだけど、それも素晴らしかった。初めの数曲を聴いた時点で、洸平さんのビジョンだったり、どんな音楽を聴いてきたかもわかって。これは後にわかったことなんですけど、洸平さんはかなりマニアックなライブにも足を運んでいるんですよ。たとえばクリセット・ミッシェルの来日公演とか。僕たちはどこかですれ違っていたかもしれないし、そういう偶然を線で結べば、美しい星座になるような気がして。そう思うと、僕らが一緒にいるのは必然なのかもなと。

ーー松下さんの音楽的ルーツはやはり、R&Bやブラックミュージックが中心?

松下:そうですね。中学のときにストリートダンスを始めて、ヒップホップやR&Bを聴き始めて。決定的だったのは、映画『Sister Act』(邦題『天使にラブ・ソングを…』)ですね。あの映画にとどめを刺されたというか、「歌いたい」と強く思ったんです。同時に日本のポップスも聴いていましたね。さっきも言ったCHEMISTRYやEXILEもそうだし、母親が好きだった玉置浩二さんとか。

松尾:洸平さんがセレクトしたライブの客入れのBGMもすごいんですよ。00年代あたりのヒップホップが中心なんだけど、いい意味でクセが強くて。

松下:(笑)。

松尾:BGMにこだわるのは、ライブの匂いを作るためにも大事なことですよね。たとえば久保田利伸さん、鈴木雅之さん、山下達郎さんも、開場時間のBGMに半端なく力を入れていますから。共通しているのは、演者として表現するだけではなく、リスナーとしても一流だということ。おもてなしの気持ちを持っていることも、みなさんの共通点だと思います。洸平さんもエンターテインしたい方でしょうし、つまり、閉じてないんですよ。好きなものはたくさんの人とシェアしたいタイプなんだろうなと。

松下:そう言ってもらえるとうれしいです。僕は10数年前に音楽デビューしましたけど、その後はなかなか上手くいかなくて。ここから始まる音楽活動は1からのスタートだし、まずは僕の音楽性を知ってもらいたいという気持ちもある。なのでライブのBGMも、あえて自分の好きな曲を選ばせてもらっているんです。

松尾:BGMだけではなくて、ライブのセットリストにも洸平さんのスタンスが出ていました。DREAMS COME TRUE「未来予想図II」のカバーをやっていたよね。

松下:はい。最初はローリン・ヒルのカバーをやろうと思っていたんですけど、ドリカムの楽曲に変えました。

松尾:そのバランス感覚も、自分に似ているかもしれないですね。マニアックな趣味嗜好を大切にしながら、でもどこかでバランスを取りながら仕事を続けてきましたから、僕自身も。

松下洸平×松尾潔(写真=藤本孝之)

ーーでは、メジャーデビュー曲「つよがり」について聞かせてください。切ない恋愛模様を描いたR&Bテイストのバラードですが、本当に素晴らしいと思います。“松尾潔プロデュース”の粋を集めた楽曲だなと。

松尾:ありがとうございます。確かにめちゃくちゃ松尾潔っぽい曲ですよね。じつは黒沢さんにも聴いてもらったんですが、「集大成」という返事が戻ってきて(笑)。

松下:そうなんですね! デモ音源を初めて聴いたとき、僕も「松尾さんっぽい! 最高だ!」と思いましたね。エレクトリックシタールの音も入っているんですけど、同じような音は「You Go Your Way」(CHEMISTRY)にもあって。

松尾:反応するところがマニアック(笑)。正解ですけどね。

ーー楽曲制作にあたって、松尾さん、松下さんのやり取りもあったんでしょうか?

松下:松尾さんからたくさんご意見をいただきながら、少しずつ形にしていきました。歌詞の世界観、テンポ感、サウンドを含めて、何度もディレクションを重ねて。

松尾:洸平さんの意見もかなり反映されているんですよ。

松下:そうやって曲を作り上げること自体がほぼ初めてだったんですよ。これまでは自分一人で作って、歌っていたので。俳優業に専念してからも、自分でコツコツ作っていましたが、CDとしてリリースする状況にはならなかった。「つよがり」には僕一人では考えつかない歌詞とメロディが詰まっているし、松尾さんをはじめ、たくさんの人に関わってもらって、全員が「最高の1曲だ」と確信できる曲になった。それが形になって、いろんな人の手元に届けられるのは本当に嬉しいです。

松尾:洸平さんは俳優業に軸足を移してからも、音楽からは離れなかった。それを踏まえて、彼自身が「これまで積み重ねてきた日々のすべてに意味があった」と思えるような曲を作りたかったんです。歌詞もそうだし、サウンドも普遍的なものを目指したし、10年後、20年後も歌える曲にしたいという気持ちもありました。リズムやテンポ、アレンジに関しては、僕が得意とするスタイルでもあって。作曲は「You Go Your Way」の豊島吉宏さん、編曲は豊島さんとMANABOONさんの共同名義ですが、要するに僕のファミリー的な仲間のチームで作ったということです。つまりどこを切っても松尾印なんだけど、エゴを押しつけたいわけではなくて、洸平さんのキャリアや音楽観を自分なりに咀嚼させてもらったうえで作ったつもりです。

松下:松尾さんに「これは君が一生、大切に歌っていく曲だからね」という言葉をいただいたときは、涙が出るくらい嬉しかったです。

松下洸平×松尾潔(写真=藤本孝之)

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