アソビシステム中川悠介は、コロナ禍をどう乗り越えるのか 海外戦略から人材育成まで

アソビシステムはコロナ禍をどう乗り越える?

これからはマイクロコミュニティの時代

ーー「海外」というキーワードも出ましたが、新しいところでは、アソビシステム所属の「新しい学校のリーダーズ」がアジアのカルチャーシーンを世界に発信する88risingと契約したことが話題になりました。

中川:そうですね。去年の2月末にLAでショーン(・ミヤシロ/88rising CEO)と話させてもらったんですが、すごく面白いと言ってくれて。チャンスだと思いますし、その準備をずっとしてきました。

ーー日本の音楽業界で、88risingと組みたいと考えている人は多いと思います。しかしショーンには独自の審美眼があり、日本からのオファーがなかなか通らないとも聞きました。今回は中川さん自身が熱意を伝えたことも大きかったのでは?

中川:確かに、対面して話さなければ、ということで英語もできないのに2泊4日の弾丸ツアーで会いにいきましたからね(笑)。もちろん、それ以上に本人たちがショーンを本気にさせられたのが大きいと思います。だから、日本流の権利の仕組みやマネジメントのルールはとりあえず気にせずにいこうと思っています。そういうものを飛び越えていかないと、次のステージに進むチャンスがなくなってしまう。その努力が早く世界に認められてほしいですね。まだ言えませんが世界進出に向けた大きな話がいくつか決まっているので、楽しみにしていただければと。

ーー10年前とは、「世界進出」のあり方も大きく変わっていますね。

中川:そうですね。10年前はYouTubeしかなくて、そのなかできゃりーが風穴を開けてくれたと思っています。いまは様々なツールがあり、かつ世界の日本への注目が高まっていることもすごく感じていて。今年、そんなきゃりーが10周年、CAPSULEが20周年。そういう節目に有望な新人が出てきていて、僕らとしてもモチベーションが高まっています。

ーーもうひとつ、「地方」がテーマであると。こちらについてはいかがでしょうか。

中川:いま僕らは大阪と福岡に拠点を持っています。僕はもともと東京出身ですが、東京にこだわる必要はないなと思っていて。デビューするなら、タレント活動をするなら東京に来ないといけない……という時代がずっと続いていましたが、もしかしたらそれがコロナで大きく変わってきているのではと。例えばアメリカだったら、好きな街に住んでいて、集まるときはロサンゼルスだったり、ハリウッドだったり、こちらも選択肢がある。日本も特に育成フェーズにおいては地方でやっていくべきだと思いますし、それが未来につながると思うので、次は沖縄に拠点を作ろうと考えています。

ーー大阪、福岡、そして沖縄と、それぞれにカルチャーの文化圏、もっと言えば経済圏みたいなものがしっかりできてくるといいですね。

中川:そうですね。これからはマイクロコミュニティの時代になると思うんです。ミリオンセラーの国民的ヒット作ではなく、いまはもっと“好き”を自分で探しに行ける時代ですから、小さい好きがもっとたくさんあっていい。地方もある意味、そうなのかなと思っていて。僕らはもともと「インフルエンサー」という言葉が生まれる以前からそういう子たちをサポートしてきましたし、熱量の高いマイクロコミュニティだったり、エリア戦略は非常に重要になってくると考えています。ただ100万人のフォロワーがいる人より、5万人の熱いファンがいる人の方が強くなっていくでしょう。

ーーなるほど。音楽の世界でもマイクロコミュニティがより盛り上がる余地があるとお考えですか。

中川:僕はそう思っています。それこそ、いまは事務所に入らなくても個人で活躍できる子たちがいて、彼らはおそらく自分たちで獲得した再生数とフォロワーでマネタイズできる。そういう時代のなかで、僕らはそこに様々なコミュニティを作っていくことが重要だと考えています。

ーーこれだけネット上のコミュニケーションの比重が高まっていくと、プラットフォームの問題もあると思います。きゃりーぱみゅぱみゅさんの時代はYouTubeの一強だった、というお話もありましたが、様々なプラットフォームが隆盛するなかで、アソビシステムとしてどう向き合っていこうと考えていますか。

中川:特定のプラットフォームにフォーカスするのは危険だな、と考えています。これだけ個性的なタレントが出てきている時代なので、それぞれに合うプラットフォームという観点から、フラットに見る必要があるだろうと。最近、「Web3.0」という言葉が気になっていて、ウェブのなかでも閉ざされた空間より、誰でも入れるオープンな場所が重要な時代になってくると思いますし、プラットフォームに依存してしまうと未来はないというか。個々のアーティストがファンを持った状態で様々なプラットフォームに向き合っていくべきだし、例えば、将来的に自分たちでプラットフォームを作ってもいいだろうと。

ーー熱心なファンを抱えているクリエイターといえば、YouTuberグループ「ウチら3姉妹」がアソビシステムに加入したことも話題になりました。プラットフォームが多角化していくなかで、こうした新しいタイプの才能をどう発掘し、育成していくかもより重要になっていきそうです。

中川:そこは非常に大切だと思っています。最近、人気動画クリエイターが事務所を辞めた、ということが度々ニュースになっていますが、そもそも事務所やレーベルがあって、その先にメディアがあって、という構造だけだったのがおかしくて、世界のように様々な選択肢があっていい。そのなかで、僕らが企業としての価値を作らなければならず、伸びてきた子たちをそれぞれにサポートして、プロデュースする力をより強化していかなければならないと思うんです。

 ウチら三姉妹に関していえば、大人がコンテンツに口を出すより、これまで通り自分たちでやっていくのがいい。その上で、例えばテレビに出たり、より多くの人に知ってもらう機会を作るのが、僕たちの仕事なのではないかと。大人が作り込むというより、それぞれの個性を生かすというか、個々のやりたいことを一番上に置かないとうまくいかないと考えています。

ーー従来のマネジメントのあり方も大切だけれど、それだけでは足りないと。

中川:そうですね。これまで培ってきたことと、時代に応じて変化することの両方が必要だと思っています。

ーー新しい才能の発掘、という意味ではどんな取り組みをしていますか。

中川:オーディションを開くこともありますし、社員のみんなが見つけてくることもあります。また、なんとなく「アソビシステムって面白いよね」と思ってもらえることが増えてきていて、紹介を受けることも多いですね。

ーーブランドができつつあると。

中川:そうですね。「アソビシステム」という、14年前にはほとんどなかった、ある意味でふざけた社名をつけたのも、もともと会社はブランドになるべきだと考えていたからで。銀行口座も作れなかったし、領収書をもらうとき恥ずかしかったのですが(笑)、社名も含めてキャッチーなブランドを作ることで、将来的にタレントを助けられることもあると思っていたんですよね。そのなかで、“僕らがやる意味”というか、ストーリー性は非常に大事にしてきました。

ーー中川社長はまさに会社の顔ですが、ポジションや役割は変化してきましたか。

中川:初めは自分のワンマンという部分もあったと思います。ただ、会社は生き物で、社員や所属している子たちみんなのものだという意識は年々強くなってきましたし、多くの人にそう思ってもらえるようにできればと考えています。アーティストはもちろん、社員にも輝いてもらいたい。きつい業界だというイメージが強いと思いますし、実際にきついことも多いのですが、楽しんでもらいたいんです。僕自身が、こんなに夢のある業界はないと思っているし、大好きなので。

ーーあらためて、「アソビシステム」はいまどんな人材を求めていますか。

中川:海外と交渉できる人、あとはもちろんマネージャーも強化していきたいと考えています。世代は問わずフィーリングがあえばまったく問題ありません。また、新卒でも転職でもよくて、新たなスタートという意味では同じなのではと。

 僕は「会社」という組織から、より「家族」というか「チーム」にしていきたいと考えています。コロナ禍で働く場所も、価値観も変わってきているなかで、より「アソビシステム」というチームにいることに意味がある、と思ってもらえるようにしたい。そこにタレントがきちんと溶け込むのが理想で、コロナが落ち着いたら事務所に昼食を置いておいて、誰でも食べに来られる、みたいな環境も作りたいですね。

アソビシステム HP

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