オリヴィア・ロドリゴを3名のライターが解き明かす 3つの視点で向き合ったアルバム『サワー』合評
井草七海「時代の旗手たる女性たちの『娘』としての自覚を感じさせる」
同世代の、特に女性にファンダムを築きつつある現在18歳のオリヴィア・ロドリゴ。自身も「世界最大のスウィフティ」と公言しているが、その姿にはやはりテイラー・スウィフトが重なる。その共通点といえば、恋愛の中で得た感情をつぶさに描写することで、聴き手自身の共感を呼ぶソングライティングだ。『サワー』の中でも、失恋をエモーショナルに歌い上げる「traitor」や「drivers license」などといったバラードは特に印象深い。また、ハートブレイクというモチーフのみならず、メロディラインや自分の声によるコーラスをクリアに重ねた音像は、彼女の敬愛するロードの『メロドラマ』(2017年)ともよく似ており、こうした「悲恋」の女性ソングライターたちが彼女のロールモデルであることがまずはうかがえる。
そんなオリヴィアの書く歌詞はとりわけ、赤裸々かつ具体的で、そしてストレートだ。興味深いのは、『サワー』の楽曲の多くが、自分と他者(元恋人の次のお相手etc)とを比較しながら葛藤し、時には嫉妬しつつ、けれども自分らしくあることを忘れない、という心情を歌っているということ。「jealousy, jealousy」などはまさにその典型だ。そしてこれこそが、オリヴィアが同世代の女性から支持を得ている所以だろう。「ハードな感情を表に出さず、にこやかに受け流す」というのが、社会が求める“良い女性”のあり方だとすれば、怒りや嫉妬、悲しみを表立って吐露する女性は社会から忌避されがちであり、そうした無自覚の規範は、若い女性の自己表現を抑制してきたとも言える。実際、彼女は英The Guardianの取材に対し「私が本当に誇りに思っていることは、このアルバムが、特に女の子にとっては話しにくい、あるいは社会的に受け入れられない感情について語っているということ」と述べており(※1)、今作はまさにそうした点を軸に自覚的に制作されたのである。「brutal」「good 4 u」といったParamoreを彷彿とさせるポップパンク調の楽曲も、そんな彼女の意思を投影しているかのようだ。
「drivers license」が、主演ドラマの共演者との関係を歌ったものだとの噂や(本人はこれを否定している)、「若い女性のソングライターは男の子のことしか書かない」などといった揶揄は差別的だ、とも明言するオリヴィア。自身の意見をはっきりと述べるこうした姿勢にもまた、昨今では思想信条を明確に表現するようになったテイラーはじめ、リスペクトを表明しているカーディ・Bなど、時代の旗手たる女性たちの「娘」としての自覚を感じさせる。テイラー、カーディよりも10歳以上若いオリヴィアだが、だからこそ、今の10代にとって彼女の率直さは、なによりの勇気となっているのではないだろうか。
※1:https://www.theguardian.com/music/2021/may/07/olivia-rodrigo-im-a-teenage-girl-i-feel-heartbreak-and-longing-really-intensely
■井草七海
東京都出身、ライター。 2016年頃から音楽関連のコラムやディスクレビューの執筆を始 め、現在は音楽メディア『TURN』にてレギュラーライターおよび編集も担当。