オリヴィア・ロドリゴを3名のライターが解き明かす 3つの視点で向き合ったアルバム『サワー』合評

オリヴィア・ロドリゴを3名のライターが解き明かす

ノイ村「疲弊したリスナーにとって最もリアルに感じられる音楽」

 ドラマ『ハイスクール・ミュージカル:ザ・ミュージカル』の主人公であるニニは、自身が経験している恋愛を元に楽曲を作り、その曲を歌う様子を撮影しては自身のソーシャルメディア上にアップしている。そして、これはこの役を演じているオリヴィア・ロドリゴ自身についても当てはまることだ。

Olivia Rodrigo - happier (Lyric Video)

 2020年1月、オリヴィアは自身のInstagram上に「happier」という自作曲を弾き語る姿をアップした。すると、この映像を偶然見つけたプロデューサーのダン・ニグロが感銘を受け、オリヴィアに直接DMを送って連絡を取り、これをきっかけにオリヴィアの本格的なアーティスト活動が始まることになる。とはいえ、かの「drivers license」もリリース前にやはりピアノ弾き語りでの動画を投稿しており、立場が変わっただけでやっていること自体に変化はない。オリヴィアはまるでソーシャルメディアでの何気ない投稿と同じような感覚で、今も楽曲を書いている。

 「drivers license」の驚異的なヒットを経た後も、オリヴィア自身は「大衆の憧れ、あるいは代弁者としてのポップスター像」には全く興味がないようで、あくまで些細な出来事を共有したくなるような、まるで友人のような存在で在り続けた。ファンはその等身大の姿に強い親密さを感じ、「deja vu」と「good 4 u」という新曲を聴きながら、オリヴィアが「drivers license」で描いた失恋の悲しみを乗り越え、徐々に気持ちを切り替えていくリアルな姿に共感し、単なるヒットアーティスト以上の特別な繋がりを感じるようになっていったのである。

Olivia Rodrigo - deja vu (Official Video)

 遂にリリースされた『サワー』は、まさにこの特別な期間に書かれた日記帳をそのまま切り出したような作品だ。自身のブレイクや若さを揶揄する人々へのフラストレーションを爆発させる「brutal」を皮切りに、ソーシャルメディアで「理想的な自分」を演出する投稿に囲まれた生活に心底疲弊したり、相変わらず失恋のダメージを強く引きずっていたりと、テーマや音楽性は広げながらも、あくまでオリヴィアは自分が生きる中で感じたことをシンプルかつ率直に楽曲へと落とし込んでいく。やはりファンはその言葉や声の一つひとつに共感し、親密さを感じている。

 本作には冒頭で述べた「happier」も収録されているが、その印象は最初にInstagramに投稿された時のものと良い意味でほとんど変わらない。あくまでオリヴィア・ロドリゴはあなたの「良き友人」であり、ソーシャルメディア上における思想同士の衝突や虚飾、奇抜さの洪水に疲弊した現代のリスナーにとって、『サワー』こそが最もリアルに感じられる音楽と言えるだろう。そして、『サワー』という時期を見事に乗り越えたオリヴィアは再び自分の物語を描き始め、そこで起きた出来事や感情をまた私たちと分かち合ってくれるはずだ。

■ノイ村
92年生まれ。普段は一般企業に務めつつ、主に海外のポップ/ダンスミュージックについてnoteやSNSで発信中。 シーン全体を俯瞰する視点などが評価され、2019年よりライターとしての活動を開始
Twitter : @neu_mura

■リリース情報
オリヴィア・ロドリゴ
デビューアルバム『サワー』
6月2日発売
試聴・購入はこちら

【初回生産限定】
UICF-9071 / 定価¥3,300(税込)
歌詞・対訳・解説付 / 初回生産限定 / ポスター、フォト・スタンド、フォト・カード、ステッカーなど日本盤限定特典付き

【通常盤】
UICF- 9070/定価¥2,420(税込)
歌詞・対訳・解説付

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