平井堅の音楽にある“キラーフレーズ”の数々 心を揺さぶるJ-POP名曲の言葉とともに紐解く

“紙一重”にいる誰かを救える曲

「ポリエステルの女」
「鬼になりました」

 〈嫌でも見てるの 嫌になるまで見てるの〉〈窓の外に映る 景色を拡大 住む街 特定 むなしいわ〉(ポリエステルの女)

 〈未来が怖いと友人は ある朝突然ドア締めた ネットに残った痕跡にゃ 楽しき宴の空笑い〉
 〈生まれた時代のせいなのです ただただ運が悪いのです〉(鬼になりました)

 『あなたになりたかった』収録曲のなかでも、社会風刺的かつ静かな攻撃性を感じる2曲。さまざまは「紙一重」なのだという警鐘にも聞こえるし、みな同じような苦しみのなか生きているのだと共感も抱く。いっそ時代のせいにしてしまえばいい、そうしてしまおうと、捉えようによっては救いにもなる曲だ。

 紙一重にいる誰かを救える曲を、ほかにも知っている。

森山直太朗 - 生きてることが辛いなら

 〈生きてることが辛いなら いっそ小さく死ねばいい 恋人と親は悲しむが 三日と経てば元通り〉

 衝撃的な歌い出しで、リリース当時は物議を醸した「生きてることが辛いなら」(森山直太朗)。この曲は、こんなフレーズで締めくくられている。

 〈生きてることが辛いなら くたばる喜びとっておけ〉

 「あぁ、そうだよな」と、初めて聴いたときには思わず声が出たものだ。いずれのフレーズも「辛い」と思うことを否定していない。森山が伝えようとしているメッセージも終始、一貫している。けれど「生きてることが辛いなら」ーーそのあとに紡ぐ言葉を少しずつ変えていくことで、最後には180度、違う世界が見えてくる。秀逸な歌詞であると思うし、こんな時代だからこそ心に留めておきたいフレーズである。

 たったワンフレーズが、ときには世の不条理を代弁し、ときには毛布のように心を温め、ときには生きていくための道標や支えとなる。心に刺さるのはきっと、アーティストの想いが込められているからであろう。今後も、心を撃ち抜かれるようなフレーズに出会えることを期待している。

■新 亜希子
アラサー&未経験でライターに転身した元医療従事者。音楽・映画メディアを中心に、インタビュー記事・コラムを執筆。Twitter(@akino_ippo)

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