石井恵梨子のチャート一刀両断!
平井堅、5年ぶりのフルアルバムがチャート好調 絶妙なバランス感覚で歌う“現代のリアルな物語”
参照:https://www.oricon.co.jp/rank/ja/w/2021-05-24/
〈ねぇどうして すごく愛してる人に/愛してると 言うだけで〉ーー〈涙が 出ちゃうんだろう...〉
DREAMS COME TRUE「LOVE LOVE LOVE」の歌詞です。ラブソングの定番ですね。これを古いと感じる世代には、西野カナのこちらを俎上に載せましょうか。
〈会いたくて 会いたくて〉ーー〈震える〉
ピュアな恋心。切なさと苦しさに思わず胸が詰まりますが、これらの歌詞の結びの手前、〈一一〉の部分にはこんなものが入っているかもしれないですよ。
ーー自分だけを見て欲しいと思うし、他人が触れたりするのは許せないし、毎日独り占めしたいけど叶わない。愛する人の近くで笑う誰かが羨ましくて仕方ないし、そんなふうに振り回される自分もマジ嫌になるーー。
だから〈涙が出ちゃう〉。もしくは〈震える〉。うわぁ、ピュアって文字が一瞬で瓦解していくようです。しかし、どんな恋愛にもエゴは生じるもので、そういう後ろ暗さを感じたことがないと胸を張れる人もいないでしょう。そして、これをポップソングでやっている職人が平井堅。今週チャート初登場2位、5年ぶりとなるアルバム『あなたになりたかった』を聴いて、やっぱり涙が出そうになったし、震えました。歌詞が……すごい。
バラードの名手として長年シーンのトップに君臨する平井堅ですが、近年はコッテリした感動ものは控え目。むしろ音数を減らしたミニマルな音像で、いかに歌とストーリーを聴かせるか、どこまでさりげなくエゴを暴いていくか。そういったテーマを感じます。本人の主張というより、時代がそうさせるのでしょう。歌は世につれ世は歌につれ。平井堅ほど「ポップスが夢と希望を歌うってほんと?」「みんなもっと苦悩と葛藤抱えてない?」を問い続けてきたポップスターは稀でしょうし、その実情がSNSでどんどん可視化されているのが現在です。もちろん、決して喜ばしいこととは言えないのですが。