『リコカツ』主題歌が視聴者に与える印象とは? 米津玄師の楽曲がドラマで果たしてきた役割

 2021年春ドラマがクライマックスに向けて展開を見せるなか、米津玄師の新曲「Pale Blue」が先行配信された。TBS系金曜ドラマ『リコカツ』の主題歌として書き下ろされたバラードだ。

 『リコカツ』は、いわゆる“交際0日婚”をした水口咲(北川景子)と緒原紘一(永山瑛太)が、互いの価値観が大きくかけ離れていることから離婚を決意し、スピード離婚へ向かう過程を描いたドラマ。しかし咲と紘一は単に忌み嫌い合う仲ではないからややこしい。リコカツ(離婚活動)を始めた手前、もう後戻りできないという意地が本心を見せづらくさせているが、2人は惹かれ合っていて、むしろ絆はどんどん深まっている。“私たちが離婚する100の理由”を挙げ始めるもその場では5つしか思いつかず、離婚後も“離婚する理由その6”、“その7”……とLINEでやりとりし、繋がり続けているのが象徴的だ。

米津玄師『Pale Blue』

 そんなドラマのストーリーを踏まえて「Pale Blue」を聴いてみよう。穏やかな日常風景とともに心情を語るAメロ。比喩を用いて恋の終わりを告げたものの、〈なのに〉という逆接を機に裏腹な想いに気づくBメロ。そして本当の気持ちを溢れさせるサビ。A~Bメロでの抑制も効果的に働き、サビでは米津の歌唱からも剥き出しの感情が感じられる。ある種の運命観が読み取れる2番サビのあとはワルツパートへ。ワルツパートはCメロでそのあともう一度サビが来ると思いきや、そのまま終わるという特殊な構成で(いや、Cメロもラスサビも兼ねていると解釈すべきか?)、神秘的な空気を保ったまま閉じていく。

 「Pale Blue」について、米津は「離婚から始まる恋というコンセプトの中で、久しぶりにラブソングを作りました」とコメントしている(※1)。米津がこれまで発表してきた曲のうちどれがラブソングなのかというのは、聴き手それぞれの解釈でいいと思うが、〈ずっと、ずっと、ずっと/恋をしていた〉とストレートな言葉を開始0秒で歌い始める「Pale Blue」からは、確かに“真正面からラブソングに臨もう”という意気が感じられる。〈ずっと、ずっと、ずっと/恋をしていた〉→〈ずっと、ずっと、ずっと〉(その先の歌詞はなし)→〈ずっと、ずっと、ずっと/恋をしている〉とキーフレーズの時制を操作し、心情の変化を表現するという分かりやすいレトリックからも、“王道に臨む”というテンション感は伝わってきた。

 離婚というネガティブな題材を暗くなりすぎないトーンで描こうとしているドラマだけに、『リコカツ』にはコメディのようなノリもある。しかし軽快で明るい側面ではなく、米津は切実な恋心に焦点を当て、“ラブソングを作る”という方向に舵を切った。表層を掬うのではなく、内にある本質をしっかり見つめるクリエイターとしての米津の姿勢を、『リコカツ』のプロデューサー・植田博樹氏(新井順子氏とともに『アンナチュラル』でプロデューサーを務めていた人物でもある)は信頼しているようだ。以下のコメントからそれが伝わってくる。

米津さんは、一つ一つの言葉を大切に発する人で、その場のノリとか勢いとかではなく、自分の中に浮かぶ気持ちを、丁寧に精緻に選んで紡ぐ。そう。紡ぐ感じで話すんです。その誠実な人としてのあり方に、ドラマの主役の一人である「主題歌」をお願いしてよかったなと思ったことを記憶しています。(※2)

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