米津玄師、King Gnu、Official髭男dism……それぞれの楽曲に含まれた“切なさ”とは何なのか 楽曲/メロディ構成を分析

 一応音楽ディレクターの屋号を掲げてポピュラー音楽制作業に従事している身にも関わらず普段全くと言っていいほど「J-POP」(以下、「現在流行しているメジャーな邦ポップス」としてこの語を使っています)を聴かないという体たらくの私に、リアルサウンドの編集部が与えたお題はズバリ「心の琴線に触れる切ないメロディとは何なのか、米津玄師、King Gnu、Official髭男dismそれぞれの楽曲から分析すべし」というものでした。米津玄師も、King Gnuも、Official髭男dismも、それぞれ名前だけは知っている、あるいは街なかに流れる有線放送でなんとなく耳にしているくらいのレベルの私が、そんなだいそれた原稿を書いていいものかどうか逡巡するわけですが、こうした御託を並べるのも、「そんな原稿書きません」と無下に断るのも、ただのインディー・スノッブ的な逃げ仕草のように思われそうだし(というか悪いことに普段の私は実際にそうだと思う……)、ひとつ自分の勉強のためにも、ここは初心に戻って虚心坦懐、いただいたお題通り、3組の音楽とそのメロディに触れ、思ったことを書いてみたいと思います。

米津玄師『Lemon』

 まず、編集部がお題を掲げる時点で自明のこととして捉えられている「3組のメロディは切ない」という捉え方。本当に「切ない」のかどうか、ほとんど彼らの音楽を初めてきちんと聞く人間として、それぞれのアーティストの代表曲とされる曲「白日」「Lemon」「Pretender」等々の歌メロディを参照しながら考えてみたいと思います。

 初めに特徴的な傾向として観察されたのが、特にサビ(とJ-POP界においていわれる部分)を感情的なピークとして据えるメロディ構成を3組とも完璧に内規化しており、まさに気迫満々という点です。

 たとえば「白日」においては、AメロからBメロ、サビと進行していくにつれ、徐々に譜割りが細分化(あるいは単純化)していく過程を捉えることができるでしょう。コード進行やハーモニー自体の特異さということで言うと、Aメロの巧みさが目立つわけですが、むしろアレンジやダイナミズムも含めた聴感上のクライマックスはギター常田大希のローキーな歌唱とそれに続く井口理が主導するサビ部での合唱に明確な絶頂点が置かれているように思います。その傾向はまた、2:53の(ロング)ハイノートをピークとして大サビ〜キーチェンジという構造の中で再生産的にインフレーションしていきます(このメロディの工程を、楽曲自体が個人の独白的性格から集団へ訴求するアンセム的存在へ変遷していくストーリーとして捉えてみることも可能でしょう)。

King Gnu – 白日

 「Lemon」の場合はよりわかりやすいと思います。「サビで最高音に到達する」というJ-POP黄金のセオリーがかなり忠実に守られているため、アレンジにおける静から動への変遷(またはその揺り戻し)と相まって、歌詞内で謳われる感情的なストーリーを劇的に演出し、またそれと過不足なく呼応しています。「Pretender」についても、実際のノートを追うとサビ以外にもアクセント的に高音が織り交ぜられていますが、サビ部においては特に際立って高音域を中心としたメロディ構成になっているため、聴き手に情動の爆発ともいえるような印象を与えることになっています。

米津玄師 MV「Lemon」
Official髭男dism – Pretender[Official Video]

 また、各小節〜バース/コーラスといった単位内での音程起伏の豊かさというのも全ての組に共通する特徴でしょう。かつての歌謡曲のヒットソングとこれらの楽曲をカラオケで続けざまに歌ってみるとよく分かるかと思うのですが、(そもそも高いオリジナルキーを低めに設定したとしても)歌の素人にはなかなか再現の難しい高低差と緩急を孕んだメロディラインであることが納得されるでしょう。私見においては、こうした傾向は過去数十年を通じて進行してきた上、今まさにインフレーションとでもいうべき状況を形作っているように思います。

 これに関連して、先に「白日」の分析で述べたことにも関連し(ややリズム論的な範疇にも近づくことになってしまいますが)、歌メロの譜割りにおける過去の音楽に比べての相対的な微細化というのも3組の特徴として挙げられそうです。J-POP史的には、たとえば「小室サウンド」などからの潜在的影響ということも論じられる可能性がありますが、ここで主題となる「切なさ」という点に引き据えていえば、その矢継ぎ早で性急な聴感から、情動的次元において聴き手に対して焦燥や感情のドライブ状態を喚起することになる要因の一つと捉えることもできるでしょう。

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