『大豆田とわ子と三人の元夫』の劇伴と主題歌はなぜリッチなのか ドラマとの相関関係を紐解く
なぜ、『まめ夫』の劇伴と主題歌はこれほどまでにリッチなのか
ここまで述べてきたように、劇伴、主題歌ともにあまりにも語るべき点が多いが、何よりも感動的なのは、そうした音楽的要素が単なる飾り物ではなく、このドラマの上質な視聴体験の実現に繋がっている、ということだ。なぜ、今作の劇伴と主題歌は、もはや現実離れしているほどにリッチなのか。それは、「せめてドラマを観ている時間だけは、日々の現実を忘れてエンターテインメントの世界を存分に楽しんで欲しい」という製作陣の想いの表れなのだと思う。第1話の冒頭、「1回目(の離婚)はサドゥンリー、2回目はコメディ、3回目にいたってはファンタジーでした」というとわ子の父による台詞があった。その台詞のように、まさに今作では、リアルな台詞が矢継ぎ早に飛び交う中でも、極めてファンタジックなラブコメディが展開されていく。そして、そのファンタジーとも呼ぶべきとわ子の日常を追体験するために重要な役割を果たしているのが、丁寧に作り込まれた劇伴や、毎週初めて耳にする挿入歌、主題歌なのだ。毎回、新鮮な感動や新しい驚きに満ちた今作は、このコロナ禍を生きる視聴者に、葛藤や困難ばかりの現実を少しだけ忘れさせてくれる。
ここまで書いてきたことはあくまでも僕の見立てであり、実際の製作陣の真意は分からない。それでも、少なくとも僕は、このドラマのファンタジックな世界に魅力され、そして明日以降を生きるためのエネルギーをもらっている。ストーリーはもちろん、音楽面においても何が起こるか全く予想もできない今作を、最終話まで楽しみに追い続けたい。
■松本侃士
音楽ライター。映画ライター。Voicyパーソナリティ「ポップ・カルチャーの未来から」。1991年10月1日生まれ。慶應義塾大学卒。2014年、音楽メディア企業ロッキング・オンに新卒入社、編集・ライティングなどを経験。2018年、渋谷のITベンチャー企業へ転職。現在は、本業と並行しながら、noteを拠点として、音楽コラムや映画コラムを執筆中。2021年1月からは、Voicyパーソナリティとして音声コンテンツの配信を始めました。
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