空音、ラッパーの在り方を更新する早熟な才能 「SPLASH」で歌う“次世代を担う覚悟”
2019年12月に1stアルバム『Fantasy club』をリリースして以降、半年に一度という驚異的なペースでアルバムを生み出し続けているZ世代のラッパー 空音が、2021年の第一弾作品となる「SPLASH」をデジタルリリースした。本作は『BOAT RACE 2021』のTVCMイメージソングで、踊Foot WorksやSUSHIBOYSなどを手がけるトラックメイカー RhymeTubeの疾走感あふれるサウンドと、ポジティブでフレッシュな空音のリリックが高次元で融合。コロナ禍の鬱屈した気分を吹き飛ばすような、清々しい内容に仕上がっている。
空音といえば、フックの効いたメロディラインや絶妙なリズム感を備えたラップ、やんちゃな面と繊細さを併せ持つ独特の声と、エモーショナルかつポジティブなリリックが持ち味。その天性のリズム感は、小2から高2まで習っていたダンスと、踊るために聴いていた海外のヒップホップから学んだと言っていいだろう。当時よりKREVAやRIP SLYMEなど日本のヒップホップも耳にしてはいたが、自分でもリリックを書こうと思ったのは、唾奇×Sweet Williamがダブルネームでリリースしたアルバム『Jasmine』(2017年)を、高2の時に聴いたのがきっかけだったという。
「気づけばフリースタイルのラップを作ってオーディションに参加したり、地元でサイファーをしたりしていましたね。それが高2の夏くらいだったかな。部活は軽音楽部に所属していて、最初の頃はバンドを組んでドラマーもやっていたんですよ。ゲスの極み乙女。やクリープハイプが好きでコピーしたり、オリジナル曲を作ったりもしていたんですけど、サイファーの方が楽しくなっちゃって、気づけば軽音楽部はほとんど幽霊部員でした」(※1)
日本語ならではの美しい比喩表現を駆使しながら、伝えたいメッセージをストレートにリリックへ落とし込めるヒップホップにどんどんのめり込んでいく空音。Pri2mやSHUN、cheapWordといった気鋭のトラックメイカーと共に作り上げたデビューEP『Mr.mind』(2019年)は、彼がまだ高校へ通っていた頃に制作したものである。同時にリリースされた、BASI(韻シスト)のソロアルバム『切愛』にもゲストラッパーとして抜擢されるなど快調なスタートを切った。
そんな空音の名が広く認知されるようになったのは、やはりシンガーソングライターkojikojiをフィーチャーした配信限定シングル「Hug feat. kojikoji」を、同年8月にリリースしたのがきっかけである。これがTikTokでバズったことで、彼の状況は一変する。
「そのことは本当に感謝しています。俺みたいに何もなかったところから始めても、世界中の人たちに聴いてもらって一夜にして環境が変わるのは、すごく夢のある話」(※2)
と、前置きしつつもシーンに警鐘を鳴らす冷静さ、問題意識の高さを持ち合わせているのが空音の空音たる所以だ。
「もちろん、否定するつもりは全くないし面白いツールだと思うんですよ。TikTokで話題になったアーティストでも、めちゃくちゃカッコいい人たちもいるので、(中略)一概には言えないんですけど、もし『TikTokで売れよう』と思って自分が曲を作り始めたとしたら、それはヒップホップの精神にも反しているような気がして。チャートの上位にいるメインストリームの音楽だけが優れているわけじゃなく、アンダーグラウンドにもカッコいい音楽はたくさんあるので、それがもっと広がってほしいし、どうにかフックアップ出来たらいいなあと思っています」(※3)
2019年12月にリリースされた『Fantasy club』では、前述したRhymeTubeをはじめ、クリエイティブチーム Chilly Source所属のビートメイカー、ニューリーらをプロデューサーに迎え、kojikojiや地元のクルー NeVGrN、そして師であるBASIらをフィーチャーしながら、まるで宇宙旅行を楽しんでいるような壮大な世界観を繰り広げていた。
翌年6月の2ndアルバム『19FACT』では、タイトル通り「19歳の等身大(=fact)」をぎっしりと詰め込んだ。プロデューサーにはRhymeTubeやニューリーら前作の布陣に加え、AAAMYYYとのコラボも話題となったyonkeyや、ローファイ・ヒップホップを通過したチルなサウンドメイクに定評のあるシンガーソングライター 春野、メロウで音響的なサウンドスケープで注目を集める和歌山出身のトラックメイカー jaffらが参加。またフィーチャリング・ゲストとしてkojikojiとNeVGrNが前作に引き続き名を連ねた。