ポジティブなリリックでリスナーの感情に訴える空音、18歳のリアルな“今”を語る

空音、18歳のリアルな“今”を語る

 『BS スカパー! BAZOOKA!!! 第14回高校生RAP選手権 in NAGOYA』に出場し、独特のグルーヴで一躍注目を浴びた弱冠18歳のラッパー、空音。今年4月に配信リリースした6曲入りミニアルバム『Mr.mind』が、ジャケットを新装しボーナストラックを1曲追加した初のフィジカル盤として7月3日にリリースされた。

 本作では、Pri2m、SHUN、そしてcheapWordという気鋭のトラックメイカーによるチルなトラックの上で、現実と虚構を行き交うような空音のリリックが縦横無尽に飛び交う。その文学的かつ抽象的なストーリーテリングに、韻シストのBASIが惚れ込み自らのソロアルバム『切愛』(6月26日発売)に抜擢したというのも頷ける。

 今回のインタビューで印象的だったのは、交際中の彼女について言及しつつ、「自分の表現によって誰かを傷つけたくない」「出来るだけポジティブなリリックを書きたい」と話してくれたときだ。もちろん、誰一人傷つかない表現などないことくらい、彼自身百も承知であり、そのジレンマと格闘しながら、きっとこれからもリアルな作品を作り続けていくことだろう。

 物怖じしない自信たっぷりの受け答えと、時おり覗かせるあどけない笑顔のギャップが眩しかった。日々めまぐるしく進化していく18歳の“今”をお届けする。(黒田隆憲)

無意識に出てきた言葉をそのまま使うのが一番良いかなと 

空音

ーーもともとヒップホップは、どんなきっかけで聴くようになったのですか?

空音:きっかけはダンスだったんです。近所にできたダンススクールに、小2から高2までずっと通っていたんですけど、そこで“踊るための音楽”としてダンスミュージックに触れていました。当時は日本語のヒップホップに興味がなくて、ずっと海外のヒップホップやソウル、R&B、ジャズなどを聴いていましたね。僕が中学校に入学した頃から『高校生ラップ選手権』が流行り出したんですが、当時は自分がラップをすることになるとは思っていなくて。単にリスナーとしてヒップホップを楽しんでいました。

ーーダンスをやっていたということは、運動神経は良かったのですか?

空音:いや、むしろ運動が苦手な方だったのですが、ダンスだけはやっているうちにどんどん楽しくなっていったんです。僕は、ダンスにも人それぞれ個性があると思っていて。例えば書道でいうところの「トメ」や「ハライ」のように、ダンスも体の動かし方によって曲へのアプローチが変わっていくんです。そういうのが楽しかったし、練習すればするほど目に見えて上達することや、コンテストに出て「特別賞」などをもらうことがモチベーションにもなっていて。しかも、ダンスでリズム感が鍛えられたことは、のちにラップで自分なりのグルーヴを出すのにとても役に立ちました。

ーー自分で曲を作り出すようになったのは、どんなきっかけだったのでしょうか。

空音:両親とも音楽が好きで、お母さんが教えてくれたKREVAさんをよく聴いていたんです。それがヒップホップだとは当時認識していなかったんですけど、「韻を踏みながら言葉を並べていく」というスタイルが新しいな、他の曲にはない特徴だよな、と思うようになってきて。だんだん「自分でも曲を作ってみたい」という気持ちが強くなっていきました。気づけばフリースタイルのラップを作ってオーディションに参加したり、地元でサイファーをしたりしていましたね。それが高2の夏くらいだったかな。部活は軽音楽部に所属していて、最初の頃はバンドを組んでドラマーもやっていたんですよ。ゲスの極み乙女。やクリープハイプが好きでコピーしたり、オリジナル曲を作ったりもしていたんですけど、サイファーの方が楽しくなっちゃって、気づけば軽音楽部はほとんど幽霊部員でした(笑)。

 あと、お父さんがCKBやDragon Ash、RIP SLYME辺りが好きで、僕に教えてくれたのも音楽の影響としては大きかったと思います。そのうちに自分から音楽を掘るようになっていって。特に感銘を受けたのが、唾奇さんとSweet Williamさんがダブルネームで出した『Jasmine』(2017年)というアルバム。これを聴いて、さらに日本語ヒップホップが好きになりました。

ーー最初に作ったのは、どんな曲だったか覚えていますか?

空音:Zion.Tさんの「No Make Up」からインストゥルメンタルの部分を抜き出して、そこにラップを乗せたのが最初でした。実はこのトラックって、唾奇さんがHANGさん、MuKuRoさんと作った「Ame」という曲にも使われているんですけど、その曲のリミックスに近いノリで作りました。完全なオリジナルというよりは、自分が好きな曲を自分なりに「再解釈」したみたいな。それで曲作りの楽しさを知っていきましたね。

ーー『第14回高校生ラップ選手権』に出場したのが2018年8月ですよね。どんな感想を持ちました?

空音:正直、自分のフリースタイルに対する限界を感じてしまいましたね。自分もそこそこ実力がある方だと思っていたんですが、やっぱりレベルの高いやつが各地から選び抜かれて出てくるわけじゃないですか。そういう人たちとガチのバトルをしてみて思ったのは、自分は即興性の高いフリースタイルよりも、じっくり時間をかけて音源を作り上げていく方が向いているんじゃないかということでした。なので「フリースタイルのラッパー」というイメージを払拭するためにも、とにかくトラックを作ってはYouTubeやSoundCloudにアップしていくことにしたんです。

ーー本作『Mr.mind』を聴いても、文学的かつ抽象的なリリックに驚かされるんですけど、どういったものからの影響だと思いますか?

空音:やっぱり人のラップから影響を受けることが多いです。僕はあまり本とか読まなくて、1日中音楽を浴びるように聴いているので、そこから触発されたラインやフレーズを頭の中にストックするというか。それを組み合わせながら作っている感じですね。色んな人の曲を聴いていなかったら、今のようなリリックは書けなかったと思う。そういう意味では、色んなアーティストさんに感謝しています。

ーーリリックに関しては、あまり推敲せずにパッと思い浮かんだ言葉をそのまま録音している感じ?

空音:「Rush」や「Selfish」はそうですね。というのも、先日BASIさん(韻シスト)のソロアルバム『切愛』のレコーディングに誘われた時、時間がなくて短時間でリリックを書いて送ったら「君、天才やな」って言ってもらって(笑)。基本的にリリックを後から直したりはせず、無意識に出てきた言葉をそのまま使うのが一番良いかなと思っています。料理と同じで、後から調味料を加えすぎると素材の味が消えてしまうというか。日が経つにつれて「ここ、もっと練った方がええんちゃうかな」って迷うときもあるんですけど、なるべく鮮度の高い言葉を使いたいんですよね。

ーーきっとその方が、自分自身も発見がありますよね。「そうか、無意識に俺はこんなことを考えていたのか」って。

空音:ああ、それはありますね。「planet tree」みたいな歌詞はもう二度と書けないです(笑)。ただ、夜中に一気に書き上げたリリックとかだと、朝に読み返して「これはちゃうな」と思うこともありますけどね。

ーー(笑)。特に感銘を受けた人は誰ですか?

空音:さっきも言った唾奇さんは、ずっと好きでめちゃめちゃ影響を受けています。あと、ラッパーではないけどクリープハイプの尾崎世界観さん。どの曲を聴いても比喩表現がすごいんですよね。恋愛について書かれたものが多くて、曲によっては気持ち悪いと感じてしまうようなことも歌っているんですけど、それでも「素敵やな」って思えてしまう。人間の弱い部分やドロドロした感情を、どうやって作品として昇華するのか? みたいなところはかなり参考にしていますね。

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